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第五章 冬の嵐

151.偽聖女、孤児院に帰る

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 しばらく看病をしていると、屋敷で働いている従者達が元気になり、働けるようになってきた。

 特に体調が悪化する人もおらず、私としてはホッとした。しかし、問題がなくなったわけではない。

「おい、この米というやつはなぜ水につけたのに、白い液体で煮るんだ?」

 料理人達から質問攻めをされていた。

「これはミルク粥だから、ミルクで煮るだけです!」

 病み上がりのため、胃に負担が少ない料理を教えることになった。ただ、今まで触れたことのない料理に料理人達も戸惑っている。

 正直、その辺にいる独身女性が細かいことを聞かれても答えられるはずがない。

 それにミルク粥はそういう料理だ。

 この人達が作る料理って、基本的に味が濃いし脂っこい料理が多いからね。

 ジャンキーなファーストフードが食べたい時には、ちょうど良いだろう。

 たまにそういう味のものも食べたくなるからね。

「そもそもお米を水に浸けてから炊くのは、お米の吸水力を高めるためなんですよね。私のいた世界ではそもそも、この状態が玄米って言われていて健康には良いんですが、食べにくいんです」

「……」

 彼らの顔を見たら、瞼がパチパチとしていた。

 私は何かおかしなことを言ったのだろうか。

「料理ってそんなに考えてやるもんなのか?」

「えっ……」

 料理って化学的な側面があると私は思っている。

 そもそも火を入れるタイミングや味付けをするタイミングも料理によっては違う。

 全てにおいて考えて料理をしなければいけないのが普通だ。

「例えば皆さんが焼いているお肉ですが、肉は加熱するとたんぱく質が収縮し、水分や溶けている脂肪が凝縮されます。切った時にジワーッと美味しい汁が出てくる理由はそれですね。それに焼き過ぎて硬くなるのも、たんぱく質がギュッて収縮し過ぎているからで……」

 不思議そうな顔で私を見ていた。

 やはりこの辺は知識量によって違いがあるのだろう。

 そもそもたんぱく質などの栄養素という概念がない気がする。

「すみません、もう少し教えてもらっても良いですか?」

 その中で熱心に聞いていたのは、うどんをはじめに食べた見習い料理だった。

 理由を知っているのと知らないのでは、料理としての幅が広がるのかもしれない。

 彼はそう思ったのだろう。そこに関しては経験の差も出てくるからね。ただ、彼の学ぼうとする姿勢に料理人達も刺激されていた。

 結局ただのミルク粥を作るだけなのに、様々な内容の質問がきて疲労困憊だ。

 私もそんなに知識がある方ではないからな……。

 こういう日こそ早く子ども達に会って癒されたい。

 そんな子ども達とは、もう少しで会えることになった。

 明日にはこの屋敷から解放されることが決まったのだ。

 長期間拘束されたためお土産として、お肉やお米をもらえることになった。

 それに今後欲しい調味料や食料を王室御用達の商人から買うことができるらしい。

 料理の説明をしていたら、料理が好きならと王太后が優遇してくれるようになった。

 それだけでも頑張った甲斐があった。

 お出汁を取るのにトマトだと大変だったからね。

 それにプラスして、直接的なお礼も後日別でもらえるらしい。


 次の日、私は荷物をまとめて王太后に挨拶に向かう。

「今までありがとうございました。お大事にしてくださいね」

「こちらこそあなたがきて助かったわ」

 王太后も今では歩けるぐらいまでに回復している。

 少し疲れやすいのも、軽度の肺炎になった影響と寝たきりだったからだろう。

 しばらくは無理のない範囲内で動いてもらうことを勧めた。

「今度孤児院に遊びに行くわ。そのアニマルセラピーっていうのも気になるわね」

 勝手に孤児院の子ども達をアニマルセラピーと言っていたが、獣人の可愛さに骨抜きにされるだろう。

 事前に獣人のことを話しても、嫌な顔はしていなかったしね。

 私が荷物を持って屋敷を出ると、すでにアルヴィンが待っていた。

「お待たせしました」

「子ども達が今日を楽しみにしていましたよ」

「私も久しぶりに会えるのが楽しみです」

 インフルエンザのような感染症が流行ってから、しばらく会っていなかった。

 そのまま挨拶することもできずに、屋敷に呼ばれることになったからね。

 期間的には二週間近く経過しているだろう。

 荷物を馬車に運ぼうとしたら、アルヴィンに奪われた。

「荷物ぐらい――」

「俺が運びますね。拒否したらマミ先生ごと運びますよ」

 さすがに屋敷の前で従者達が見送りに来ているから恥ずかしい。

 いつの間にアルヴィンは紳士的な男性になったのだろう。

 私はアルヴィンにエスコートされながら、馬車に乗ると大きく息を吐く。

「アルヴィンさんありがとうございます」

「いえ、マミ先生は働き過ぎますからね」

 お礼を伝えたら、どこか嫌味を言われてしまった。

 確かにずっと働いている気がする。

 全身の力がやっと抜けたようだ。

 いくら仲良くなったとは言え、相手は王太后だったからね。

 どこかで神経が張り詰めていたのだろう。

 それでも今の生活は楽しいと思った。

 やっと孤児院に帰れる。

 そんなことを思いながら、馬車に揺られていると私はいつのまにか眠ってしまった。

 





 




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