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第五章 冬の嵐

150.偽聖女、久しぶりに故郷を感じる

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「ここに置いておきますね」

「そんなもんは食べんぞ!」

 まだ何か言っても食べようとしない料理人達の前にうどんをそっと置いて部屋から出ることにした。

 あのまま食べなかったら、もったいないだろう。

 ガリガリに痩せ細った子ども達を知っているからこそ、なおさら食事のありがたみがわかる。

 だが、彼らも料理人ならそれぐらい知っているはず。

 それに事前に母親の味を懐かしんでいた、男性に協力をお願いしている。

 私はこっそりと扉の隙間から中を覗き込む。

「料理長達が食べないなら俺が食べますね。やっぱり勉強は大事――」

「おい、これは俺のだぞ!」

「だって、さっき食べないと言ったじゃないですか!」

「素人の前で料理人がうまいと言えるか! 俺だってずっと食べたかったわ!」

 その言葉を聞いて同じ屋敷で働く給仕達もクスクス笑っていた。

 頑固な男性も多いから仕方ないだろう。

 うどんを食べた表情は、少年のように目がキラキラとしていた。

 美味しいものを食べた時は年齢や性別、種族も関係なく嬉しそうな顔になるからね。

 私はそういう顔を見るのが好きだと再認識した。

 やることを全て終えた私は早速みつけたお米をどうするか考えることにした。

 見た目的には虫がいるわけでもなく、暗いところで保存されていたのもありカビ臭さも感じない。

 そもそも玄米に近い見た目をしているため、白米と違って腐りにくいのもある。

 保存状態が良ければ1~3年は問題ないと言われているし、賞味期限も書かれていない。

 しばらく水につけていたが、何か浮いてきている様子もないため、明日には食べられるだろう。

 玄米って二十四時間浸水させておいた方が、粒の色合いが白くなってふっくらと炊きあがる。

 あとは玄米をしっかり浸水させないと、アブシシン酸やフィチン酸という成分が出て、毒になるという噂もあるぐらいだ。

 この世界の玄米がどんな感じなのかはわからないが、しっかりやっておいて損はないだろう。


 次の日、早速調理場に向かった私は玄米の様子を確認する。

「しっかり米粒が膨らんで白くなってるね」

 手に玄米を持って見ると、明らかに普通の白米に近づいている。

 水分を吸収することで、外側の層が柔らかくなり米粒がふっくら尚且つ白く透明感が出てくる。

 すぐに大きめの鍋を用意して、玄米を炊いていく。

 白米よりは少し多めに水をいれて、中火程度で加熱していく。

 日本にいた時とあまり変わらない調理環境を少し羨ましく思う。

 報酬がもらえるなら、ぜひここで使っているコンロのような調理器具を頼みたい。

 きっとこれも屋敷で使われているから高いのだろう。

「おっ、沸騰してきたから鍋に蓋をして弱火だったよね」

 前に土鍋で玄米を炊いた時のことを思い出す。

 忙しかった時に趣味もなかった私が唯一やっていた手のかかる料理が、こんなところで役立つとは思わないだろう。

「マミ先生、みんな今日も変わらず状態が悪化した人はいませんでした」

「マロくんありがとう」

 今日から皇太后も含めて、マロに全ての人の状態観察をしてもらっている。

 そうでもしないと私は孤児院に帰れないからね。

「今度は何を作っているんですか?」

 マロは鍋が気になるのだろう。

 彼もうどんを美味しそうに食べていた人物の一人だ。

「玄米を炊いてます」

「玄米? 何かの種じゃないんですか?」

 マロにも玄米を見せたが、種という認識なんだろう。

 種で間違いはないが、見慣れた私達には米にしか見えないからね。

「よし、あとは火を止めて蒸らしたら出来上がりだね」

 玄米がしっかり炊けていたら、今日のメニューは決まるだろう。

 今日はできたらミルク粥を作るつもりでいる。

 せっかくアルヴィンが持ってきた、卵と牛乳が無駄になってしまうからね。

 うどんだけでは、中々タンパク質も摂取できないからちょうど良いだろう。

 ある程度玄米を蒸らしたら、火傷しないようにゆっくりと蓋を開ける。

「うぉー!」

「しっかりと炊けていますね」

 鍋の中にはふっくらと粒が立った玄米が炊き上がっていた。

 すぐに大きめのスプーンで、お米をほぐして一口食べてみる。

「うっ……」

「マミ先生!?」

 口に入れた瞬間、お米の甘さが広がってくる。

 白米よりは甘味は感じにくいが、しっかり噛んでいくまでジワーッと感じてくる。

 それが玄米の良いところでもある。

「おっ……」

「おっ?」

「久しぶりのお米だー!」

 久しぶりのお米についその場で声を上げてしまった。

 この世界に来てそろそろ半年近く経つことになる。

 私も懐かしい故郷の味につい涙が出そうになっていた。
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