偽聖女はもふもふちびっこ獣人を守るママ聖女となる

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第五章 冬の嵐

147.偽聖女、ある物をみつける

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 私は調理場に向かうとあるものを探す。

「小麦粉はあるかな?」

 王太后が住む屋敷ならきっと小麦粉ぐらいは置いてあるはず。

「んー、ちゃんと料理人に聞いてくればよかった」

 インフルエンザが罹患した人の中にも料理人が数人いた。

 さすがに誰か一人は健康な人がいるかと思ったら、料理人全員に感染しているとは誰も思わなかっただろう。

 あの時に小麦粉の場所を聞いておけば良かった。

「ひょっとしたら暗いところに保存してあるのかな?」

 棚の下の方を見ると大きめな瓶があることに気づいた。

「あっ、小麦……お米⁉︎」

 そこにあったのは精米されていないお米のようなものだった。

 見た目は玄米に近い。

 それとも何かの種だろうか。

 小麦粉もどこにあるかわからない私は再び、使用人達が寝ている部屋に戻った。

「マミ先生、何かありましたか?」

「あのー、これって何かわかりますか?」

 マロに米を見せるが首を横に振っていた。

 どうやら屋敷や貴族達が一般的に食べているものではないらしい。

 やっぱり料理人に聞かないといけないようだ。

 ただ、ほとんどの人が男性で、話している感じがどことなく頑固っぽい人が多い。

 初めも女性の私に診てもらうのは嫌がっていた。

 ほんの少しだけ、脅しながら死ぬかもしれないですよと耳元で呟いたら、渋々診せてもらえた。

 もちろんほとんど脱水症状が出ていたため、問答無用でジュースを飲ませた。

「あのー……」

 相変わらず私が声をかけるとそっぽ向いている。

 それでも私はそのまま話し続ける。

「この食材ってお米ですか?」

「ははは、お前は勝手に俺達の厨房に入ったのか」

「すみません。ただ、皆さんの食べるものもないですからね」

 私の言葉に男は黙っていた。

 実際、誰がみんなの食事を準備するのだろうか。

 それにそんなことを言ったら、寝込んでいる使用人は自分で作り出すだろう。

「ああ、それは米って言われているやつだ。ただ、俺達もそれの食べ方はわからない。欲しいなら持っててくれ」

「ふふふ、ありがとうございます」

 手に持っているものが米だとわかった時点で、私の中の日本人魂が雄叫びをあげている。

 それだけこの世界に来て、私は米が食べたかった。

 前は食べなくても気にならなかったのに、いざ食べられないってわかると恋しくなる。

 ここにいる期間中に少しだけでも、食べ方を探して、ぜひみんなにも食べてもらいたい。

 春にはおにぎりを作ってピクニックとかも良いだろう。

 何を作るか考えるだけで、自然と笑みが溢れてくる。

「そういえば、小麦粉はどこにありますか?」

「小麦粉? ああ、パンの粉のことか。それなら同じ棚の一番下にあるぞ」

 小麦粉のある場所がわかったら、あとは作るだけだ。

「では調理場も借りますね」

 私はすぐに調理場に戻って作業を始める。

 王太后が住む屋敷だから、調理場も孤児院よりもハイテクになっている。

 水道や電気、火元もほぼ魔力でつけることができるのだ。

 アルヴィンが言っていた〝魔導調理具〟を初めて目の前で見て、少し嬉しくなった。

 いつかお金が貯まったら、孤児院にも導入したいぐらいだ。

 それだけで生活が楽になるだろう。

「まずはトマトで出汁を取って、その間にうどんを作るか」

 今日作るのはいつも孤児院で作っているうどんだ。

 インフルエンザで食欲がなくても、うどんなら少しは食べられると思った。

 それに食べたことない料理だと、興味が出て食欲が戻ってくるかもしれない。

 それに今日は普通のかけうどんではない。

 簡単な一工夫もする予定だ。

 そのためにアルヴィンにあるものを持ってきてもらったからね。

「あっ、醤油もある!」

 調味料の種類はたくさんあった。

 これだけ材料があれば、美味しいものが作れるだろう。

 みんなの驚いた顔を浮かべながら、私は調理場でコソコソと料理を続けた。
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