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第五章 冬の嵐
145.偽聖女、監禁状態になる
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あれから孤児院に帰ろうと思ったが、王太后の屋敷でしばらくは過ごすことになった。
緊急で何かがあった時のために、すぐに対応できるようにと王から命令されたのだ。
きっと王は自分のことしか考えていないのだろう。
今の孤児院での状況を伝えても、私は帰ることができなかった。
いくら平民達がインフルエンザに罹患していても、同じ命なのに軽くみられているということだ。
「アルヴィンさん、そちらは大丈夫ですか?」
「シルキーがどうにか動いてくれています。ただ、子ども達がマミ先生に会えなくて寂しそうですね」
その言葉を聞いて胸が締め付けられる。
子ども達がインフルエンザに罹らないように、シルキーやアルヴィンを通して何かあれば伝えていた。
そのため、ずっと子ども達には会えていないのだ。
「ふん、あの男も平民なんかに馴れ馴れしくして、貴族として恥はないのか」
「所詮は代わりにもならないやつだからな」
私は近くにいた医師達を睨む。
よほどあんな医師よりアルヴィンの方が助手としても使えるだろう。
ここには使えないが医師は数人在住している。
その医師達よりはマシだ。
そんな私を見てアルヴィンはニコニコしていた。
「どうしましたか?」
「いえ、何もないですよ」
どこか気になるが、本人が何もないというなら気にしない方が良いのだろう。
「では、また明日も来ますね」
「はい」
そう言ってアルヴィン孤児院に帰って行った。
「やっぱり頭が悪い女は、ここがどんなところかもわからないようだな」
「ははは、平民は玉の輿に必死だからな」
「先生達静かに――」
「マロくんは気にしなくて良いですよ。どうせ文句を言うぐらいしかできない人達ですからね」
きっと私の存在が気に入らないのだろう。
正直、男尊女卑があるこの世界で歯向かってくる女性はあまりいないからね。
一方、若手の医師は私から積極的に学ぼうとしていた。
彼の名前はマッシュだが、見た目がふわふわして"マシュマロ"と似ているため、勝手にマロと呼んでいる。
「ふん、どうせお前に治せるはずがない」
「聖女しか呪いは解けないからな」
そう言って医師達はどこかへ行った。
別に私は何を言われても気にしないが、治せるはずがないと諦めてしまうのも、医療従事者としてどうかと思う。
それに相手は王太后なのに、そんなことを言っても良いのだろうか。
王太后の部屋に戻ると、少し起きれるまでに回復したのか椅子に腰掛けていた。
「あなたに迷惑かけてすまないわね」
きっと外で話していた声が聞こえたのだろうか。
「王太后様が気になさらなくて大丈夫ですよ。私はそんなに弱くもないですしね」
実際、男尊女卑はお年寄りには多かった。
セクハラしてくるおじさんや女性だからと文句を言う人も多い。
看護業務以外にも、精神的にストレスがかかるため気にしていたらやっていけない。
「私もあなたみたいに強ければ、時代をもう少し変えていけたのかもしれないですね」
王太后として思うところもあるのだろう。
それなら今すぐにでも息子である王の教育をしてもらいたいぐらいだ。
何事も遅いってことはないからね。
「そういえば、聖女がいないからいけないってさっき聞いたんですが、聖女の役割って主になんですか?」
王族なら本当の聖女の役割を知っているはずだ。
それに病気と聖女が関わっていると言っていた。
今この場に聖愛がいないのも何か理由があるのだろうか。
「聖女は呪いを治すと言われているわ」
「回復魔法とは違う、傷も全て治すと言われている聖属性魔法ですよね?」
その言葉に王太后は頷いていた。
聖属性魔法なら冒険者ギルドに初めて行った時に聞いている。
でも、治療だけなら聖女がなくてもどうにかなる。
「魔物という存在には会ったことありますか?」
「外にピクニックに行った時に会いました」
私の言葉に王太后は微笑んでいた。
「外でピクニックって良いわね。魔物がたくさん集まる場所には魔力湖ができるのよ」
「魔力湖?」
「ええ、その魔力湖のことを本来は呪いと言われているわ」
病気のことを呪いと思っていたが、聖女が力で解決できるものを呪いと言っているのだろう。
「魔力湖ができるから魔物が集まるのか、魔物が出現するから魔力湖ができるのかわかりません。その魔力湖をどうにかするのが――」
「聖女の役目ってことですね」
王太后は小さく頷いていた。
病気を治すだけではなく、魔力湖を消滅させるために聖女の力が必要らしい。
そして、その魔力湖が周期的にはそろそろできると言われている。
だから聖愛が聖女として召喚された。
この話自体も王族や一部の貴族しか知らないらしい。
「魔物って冬に入る前のやつより多いんですか?」
「ええ、数時間でこの王都が一瞬で消えるぐらいと言われているわ」
冬の前にあったスタンピードでも、ハラハラとしていたのにそれよりも大規模になるらしい。
だからあれだけみんなが避難できるように準備していたのだろう。
毎年冬前に起きるスタンピード。
それを止めるために王都ができた。
私はそんな気がした。
「何も起こらないといいですね」
「ええ」
そんなことが身近に起きないように、私達は祈るばかりだ。
緊急で何かがあった時のために、すぐに対応できるようにと王から命令されたのだ。
きっと王は自分のことしか考えていないのだろう。
今の孤児院での状況を伝えても、私は帰ることができなかった。
いくら平民達がインフルエンザに罹患していても、同じ命なのに軽くみられているということだ。
「アルヴィンさん、そちらは大丈夫ですか?」
「シルキーがどうにか動いてくれています。ただ、子ども達がマミ先生に会えなくて寂しそうですね」
その言葉を聞いて胸が締め付けられる。
子ども達がインフルエンザに罹らないように、シルキーやアルヴィンを通して何かあれば伝えていた。
そのため、ずっと子ども達には会えていないのだ。
「ふん、あの男も平民なんかに馴れ馴れしくして、貴族として恥はないのか」
「所詮は代わりにもならないやつだからな」
私は近くにいた医師達を睨む。
よほどあんな医師よりアルヴィンの方が助手としても使えるだろう。
ここには使えないが医師は数人在住している。
その医師達よりはマシだ。
そんな私を見てアルヴィンはニコニコしていた。
「どうしましたか?」
「いえ、何もないですよ」
どこか気になるが、本人が何もないというなら気にしない方が良いのだろう。
「では、また明日も来ますね」
「はい」
そう言ってアルヴィン孤児院に帰って行った。
「やっぱり頭が悪い女は、ここがどんなところかもわからないようだな」
「ははは、平民は玉の輿に必死だからな」
「先生達静かに――」
「マロくんは気にしなくて良いですよ。どうせ文句を言うぐらいしかできない人達ですからね」
きっと私の存在が気に入らないのだろう。
正直、男尊女卑があるこの世界で歯向かってくる女性はあまりいないからね。
一方、若手の医師は私から積極的に学ぼうとしていた。
彼の名前はマッシュだが、見た目がふわふわして"マシュマロ"と似ているため、勝手にマロと呼んでいる。
「ふん、どうせお前に治せるはずがない」
「聖女しか呪いは解けないからな」
そう言って医師達はどこかへ行った。
別に私は何を言われても気にしないが、治せるはずがないと諦めてしまうのも、医療従事者としてどうかと思う。
それに相手は王太后なのに、そんなことを言っても良いのだろうか。
王太后の部屋に戻ると、少し起きれるまでに回復したのか椅子に腰掛けていた。
「あなたに迷惑かけてすまないわね」
きっと外で話していた声が聞こえたのだろうか。
「王太后様が気になさらなくて大丈夫ですよ。私はそんなに弱くもないですしね」
実際、男尊女卑はお年寄りには多かった。
セクハラしてくるおじさんや女性だからと文句を言う人も多い。
看護業務以外にも、精神的にストレスがかかるため気にしていたらやっていけない。
「私もあなたみたいに強ければ、時代をもう少し変えていけたのかもしれないですね」
王太后として思うところもあるのだろう。
それなら今すぐにでも息子である王の教育をしてもらいたいぐらいだ。
何事も遅いってことはないからね。
「そういえば、聖女がいないからいけないってさっき聞いたんですが、聖女の役割って主になんですか?」
王族なら本当の聖女の役割を知っているはずだ。
それに病気と聖女が関わっていると言っていた。
今この場に聖愛がいないのも何か理由があるのだろうか。
「聖女は呪いを治すと言われているわ」
「回復魔法とは違う、傷も全て治すと言われている聖属性魔法ですよね?」
その言葉に王太后は頷いていた。
聖属性魔法なら冒険者ギルドに初めて行った時に聞いている。
でも、治療だけなら聖女がなくてもどうにかなる。
「魔物という存在には会ったことありますか?」
「外にピクニックに行った時に会いました」
私の言葉に王太后は微笑んでいた。
「外でピクニックって良いわね。魔物がたくさん集まる場所には魔力湖ができるのよ」
「魔力湖?」
「ええ、その魔力湖のことを本来は呪いと言われているわ」
病気のことを呪いと思っていたが、聖女が力で解決できるものを呪いと言っているのだろう。
「魔力湖ができるから魔物が集まるのか、魔物が出現するから魔力湖ができるのかわかりません。その魔力湖をどうにかするのが――」
「聖女の役目ってことですね」
王太后は小さく頷いていた。
病気を治すだけではなく、魔力湖を消滅させるために聖女の力が必要らしい。
そして、その魔力湖が周期的にはそろそろできると言われている。
だから聖愛が聖女として召喚された。
この話自体も王族や一部の貴族しか知らないらしい。
「魔物って冬に入る前のやつより多いんですか?」
「ええ、数時間でこの王都が一瞬で消えるぐらいと言われているわ」
冬の前にあったスタンピードでも、ハラハラとしていたのにそれよりも大規模になるらしい。
だからあれだけみんなが避難できるように準備していたのだろう。
毎年冬前に起きるスタンピード。
それを止めるために王都ができた。
私はそんな気がした。
「何も起こらないといいですね」
「ええ」
そんなことが身近に起きないように、私達は祈るばかりだ。
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