偽聖女はもふもふちびっこ獣人を守るママ聖女となる

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第五章 冬の嵐

140.偽聖女、インフルエンザと戦う

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 牛や鶏と入れ替わるように子どもを抱えた私と母親が小屋に入る。

「ちゃんと綺麗にしておいたわよ」

 シルキーはしっかり小屋を綺麗にしてくれていた。

「本当にシルキーがいてよかったよ」

「ふん、そんなこと言っても嬉しくないわよ。それで次は何をやるのよ!」

 視線を合わせないが、頼られて嬉しいのだろう。

「キキにたくさんマスクを作ってもらうように頼んで貰ってもいいかな?」

「マスクって今着けている変な形のやつだよね?」

 私は予防のために子ども達以外に会う時はマスクをつけている。

 街に出ると不思議な目で見られていたが、また寒さ対策だと思われていた。

「この風邪は飛沫感染と接触感染が多いのよ」

 きっと私以外はここでマスクが必要になることに気づいてなかっただろう。

 インフルエンザの感染経路は基本的に飛沫感染と接触感染だ。

 咳やくしゃみで空気中にウイルスが飛び散って、直接鼻や口などの粘膜に入る。

 また、ウイルスが付いた物に触れて体に入れてしまう。

 それを防ぐのがマスクと手洗いになる。

「あとはたくさんお酒を集めるようにアルヴィンさんに伝えてくれると助かるかな」

「こんな時にお酒を飲むつもりかしら?」

 シルキーはどこか怒っているようだ。

 さっきまで喜んでいたり、本当に喜怒哀楽が態度と表情にコロコロ変わる。

 見ていて飽きないが、今はそれどころではないのだろう。

 アルコールの消毒も重要になってくる。

 シルキーが行動している間に、脈拍と呼吸数を測っていく。

 直接触れて体表面でも熱を帯びているが、脈拍や呼吸数が多いため、熱が上がっているのは間違いない。

「寒いよ……」

 寒さで震えている子どもをゆっくりと母親が包み込んでいた。

 悪寒が続いているのだろう。

 これも普通の風邪と異なり、インフルエンザの症状として特徴的だ。

 私はダウンを脱いで、そっと二人にかける。

 バタバタ動いていたから、体も少しずつ温まっている。

「マミ先生、他にも呪いになったと孤児院に来ました」

 アルヴィンが小屋まで発熱者を案内してくれた。

 どうやらインフルエンザが他にも流行ってきているようだ。

「ここに来る人全員にマスクを配ってください。あとは刺激が強いお酒を染み込ませた布で、家の中を拭くように伝えてください」

「わかりました」

「あとはレナードさんに氷を温石の袋に入れるように伝えてもらえると嬉しいです」

 アルヴィンは何か言うわけでもなく、頷いて孤児院に戻って行った。

 来る人全員の状態を確認して、熱が高い人とそうではない人を分けていく。

「僕死なないよね?」

「うちの子は大丈夫ですか?」

 聞こえてくるのはそんな声ばかりだ。

 解熱剤やインフルエンザの薬がないこの状況でできるのは、感染者を増やさないことと環境を整えることだけだ。

 あとは自身の免疫力に頼るしかない。

 おまじない程度で脾臓とリンパ節に回復魔法をかけていく。

 どちらも免疫細胞に関わり、脾臓なら免疫細胞を増やす中心的な役割を持っている。

 また、リンパ節には体内の感染に対する免疫応答を補助する。

 幸いなことに肺炎などの重症な症状が出ている人はいない。

 ある程度意識も保たれているし、意思疎通はできている。

「ポカポカする」

 回復魔法を使うとみんな同じことを言っていた。

 少し症状が落ち着いているのだろうか。

「何でこんな状況で笑っているのよ」

 そんな中、帰ってきたシルキーが私を見て驚きの発言をしていた。

「えっ?」

 どうやら笑っていたらしい。

 久しぶりの忙しい現場に、私の中にある看護師としての気持ちが表情として溢れて出ていたのだろう。

 病気で苦しむ人達の手助けができる。

 これが看護師になって、私がやりたかったことだからね。

「シルキー、また頼みごとしても良いかな?」

「本当にあんたは人使い荒いわね!」

 そう言いながらもシルキーは嬉しそうに、ずっと手伝ってくれた。


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