53 / 100
第五章 冬の嵐
134.偽聖女、スッキリする
しおりを挟む***
次の日、無断欠勤した宮本のスマホに江藤が電話した。いつもなら秒で繋がるのに、残念ながらそれがまったく繋がらないのである。LINEをしても、既読にもならないことを不審に思い、兄である雅輝に連絡を入れた。
「もしもし、雅輝。今大丈夫か?」
「おはよ、江藤ちん。朝からどうした?」
「それがよ、宮本のヤツが無断欠勤していてな。今までそんなことをしたことがないから、なにか知ってるかと思ってさ」
「俺はアイツから、なにも聞いてない。具合が悪くなったとかそういうのも、一切知らないが」
「わかった。ちょっと上にかけ合って、アイツの家にこれから行ってみる。なにかわかったら、また連絡するから」
江藤は気落ちしながらスマホをオフにし、重たい腰をあげて、宮本の自宅に行くことの許可を得にいく。ダメだと言われたら、有給を使ってでも行こうと考えていたのに、あっさり認められたことにより、大手を振って宮本が住むマンションに向かった。
恋人から渡されている合鍵を、不安な気持ちで使うことになろうとは、夢にも思わなかった。
「部屋でぶっ倒れて、冷たくなっていたらどうする……」
震える手でなんとか開錠して、見慣れた扉を勇気を出して開け、奥歯を噛みしめながら中に入ったのだが。
「宮本がいない。どういうことだよ?」
想像していたことが杞憂になったのはいいが、本人がいないことにふたたびぞわっとするものが、江藤の中に沸き起こった。
どこかに連れ去られて拉致監禁、身代金の請求。それとも外で誰かと逢ってトラブルに巻き込まれて、怪我をして病院に搬送されている。それとも――。
悪いことばかりが頭に浮かんでは消えていく現状を打破すべく頭を振って、散らばっているメモ帳をテーブルの上にかき集めた。なにか証拠が残っている可能性を、すべて潰していくために。
真っ白なメモ帳の中に、ひとつだけ筆圧で凹んだものを見つけた。それを探るために、テーブルに置きっぱなしになっている鉛筆を使って、メモ紙の表面を薄く塗ってみる。
「パワースポット・みかさ山入口ちゅうしゃ場のわき水・ドジを直すべし・湧き水向かって左・ありがた系の恋愛長寿……。なんで恋愛成就じゃねぇんだ、あのバカ!」
江藤は黒く塗ったメモ紙を破り、その場にへたり込んだ。宮本が行方不明の原因がわかってほっとして、力が一気に抜けてしまった。
恋愛長寿――自分との恋愛を末永いものにしたい。そんな宮本の気持ちを察してしまい、涙が滲みそうになった。
「みずからの努力を怠り、パワースポットを使って、俺様との恋愛を長続きさせようなんてするから、山の神様に魅入られてしまうんだ」
震える手でスマホを握りしめ、もう一度雅輝に連絡した。
「雅輝、何度も悪い。宮本の行方がわかったんだが――」
江藤の説明を聞いた雅輝は、自分の仕事を中断して山に入ると言い出すが、それを断った。
「俺様は一度自宅に帰って、入山できる準備をする。だから迎えに来てほしいんだ。雅輝は三笠山のことについて詳しいんだろ? 行く道中にいろいろ聞きたいこともある」
そうして一緒に、三笠山へ向かうことになった。
次の日、無断欠勤した宮本のスマホに江藤が電話した。いつもなら秒で繋がるのに、残念ながらそれがまったく繋がらないのである。LINEをしても、既読にもならないことを不審に思い、兄である雅輝に連絡を入れた。
「もしもし、雅輝。今大丈夫か?」
「おはよ、江藤ちん。朝からどうした?」
「それがよ、宮本のヤツが無断欠勤していてな。今までそんなことをしたことがないから、なにか知ってるかと思ってさ」
「俺はアイツから、なにも聞いてない。具合が悪くなったとかそういうのも、一切知らないが」
「わかった。ちょっと上にかけ合って、アイツの家にこれから行ってみる。なにかわかったら、また連絡するから」
江藤は気落ちしながらスマホをオフにし、重たい腰をあげて、宮本の自宅に行くことの許可を得にいく。ダメだと言われたら、有給を使ってでも行こうと考えていたのに、あっさり認められたことにより、大手を振って宮本が住むマンションに向かった。
恋人から渡されている合鍵を、不安な気持ちで使うことになろうとは、夢にも思わなかった。
「部屋でぶっ倒れて、冷たくなっていたらどうする……」
震える手でなんとか開錠して、見慣れた扉を勇気を出して開け、奥歯を噛みしめながら中に入ったのだが。
「宮本がいない。どういうことだよ?」
想像していたことが杞憂になったのはいいが、本人がいないことにふたたびぞわっとするものが、江藤の中に沸き起こった。
どこかに連れ去られて拉致監禁、身代金の請求。それとも外で誰かと逢ってトラブルに巻き込まれて、怪我をして病院に搬送されている。それとも――。
悪いことばかりが頭に浮かんでは消えていく現状を打破すべく頭を振って、散らばっているメモ帳をテーブルの上にかき集めた。なにか証拠が残っている可能性を、すべて潰していくために。
真っ白なメモ帳の中に、ひとつだけ筆圧で凹んだものを見つけた。それを探るために、テーブルに置きっぱなしになっている鉛筆を使って、メモ紙の表面を薄く塗ってみる。
「パワースポット・みかさ山入口ちゅうしゃ場のわき水・ドジを直すべし・湧き水向かって左・ありがた系の恋愛長寿……。なんで恋愛成就じゃねぇんだ、あのバカ!」
江藤は黒く塗ったメモ紙を破り、その場にへたり込んだ。宮本が行方不明の原因がわかってほっとして、力が一気に抜けてしまった。
恋愛長寿――自分との恋愛を末永いものにしたい。そんな宮本の気持ちを察してしまい、涙が滲みそうになった。
「みずからの努力を怠り、パワースポットを使って、俺様との恋愛を長続きさせようなんてするから、山の神様に魅入られてしまうんだ」
震える手でスマホを握りしめ、もう一度雅輝に連絡した。
「雅輝、何度も悪い。宮本の行方がわかったんだが――」
江藤の説明を聞いた雅輝は、自分の仕事を中断して山に入ると言い出すが、それを断った。
「俺様は一度自宅に帰って、入山できる準備をする。だから迎えに来てほしいんだ。雅輝は三笠山のことについて詳しいんだろ? 行く道中にいろいろ聞きたいこともある」
そうして一緒に、三笠山へ向かうことになった。
174
お気に入りに追加
3,802
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?
藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」
愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう?
私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。
離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。
そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。
愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。