上 下
50 / 100
第五章 冬の嵐

131.偽聖女、新しい出会い

しおりを挟む
 外は寒さが増し、本格的に冬に入った。

 暖を取る手段を手に入れた私はやっと活動的になった。

「ママ先生みんなの着替え終わったよ」

「クロとトトありがとう! そろそろ朝食出来るから待っててね」

 今日はゆで卵とマヨネーズで作ったタマゴサラダと葉物をパンで挟んだサンドイッチだ。

 本当は柔らかい食パンで食べたいが、ハード系のパンしかないため仕方ない。

 それでも以前ピクニックで食べたサンドイッチは美味しかった。

「ハムとリリは運んでもらってもいいかな?」

「はーい!」

 出来たものから次々とハムとリリを中心に協力して運んでもらう。

「わぁー、今日はサンドイッチだね!」

 居間から子ども達の喜んだ声が聞こえてくると、つい頬も緩んでしまう。

 サンドイッチってパンの消費も多いから、たくさん買ってこないといけない。

 お金の心配より、単純に買い物に行く回数が増えてしまう。

 それがダウンジャケットと温石のおかげで、気にせずに行けるようになった。

 以前は真冬に半袖で三往復スーパーに行くような感覚だった。

 それだけ私にとって寒さは天敵だ。

 ちなみにダウンジャケットを着て買い物に行ったら、みんな羨ましいのかニヤニヤした顔で見ていた。

「ママ先生準備できたよー!」

 片付けを途中で終わらせて居間に向かうと、すでにみんな座っていた。

 お腹が減ったのか私が来るのを待っていたようだ。

「じゃあ、食べようか。手を合わせてください」

「あわしぇました」
「合わせました」

「いただ――」

「たのもー!」

 食事の挨拶の途中で外から声が聞こえてきた。

「レナードさんは子ども達の面倒を見てもらっても良いですか?」

「わかりました」

 私が急いで玄関に向かうと、そこには二足立ちしたタヌキがいた。

「タヌキ……?」

「あれは半獣です」

 私を追いかけてきたアルヴィンは、タヌキを見て"半獣"と言っていた。

 また聞いたことのない言葉に私は首を傾げる。

「ここにきたら美味しいものが食べられるって本当か?」

 タヌキが話したことに驚いたが、孤児院はレストランのような扱いになっているのだろうか。

 ただ、背中でぐったりしている小さな子タヌキも気になった。

 荷物も持ちやすくするために、布で包んで木の先端についている。

 見た目が日本昔話や紙芝居に出てきそうな姿にそっくりだ。

「寒いから中に入ったらどうかな?」

 まずは子どもの状態を確認する方が先になるだろう。

「嘘だ!」

「嘘だ?」

「そうやってタヌ達を食べるんだろ!」

「いや、さすがにタヌキは食べないよ?」

「ムッ……それは本当か」

 どうやらタヌキは疑い深い性格をしているようだ。

 体がボロボロになっているタヌキを招き入れる。

 少しにおいが気になるのは湯浴みすらしていないからだろう。

「アルヴィンさんは桶にお湯を入れてもらっても良いですか?」

「何かあったらいけないのでクロを呼びますね。クロ、ママ先生の護衛を頼む!」

 クロを呼んでアルヴィンは桶を取りに行った。

 すぐに口の周りにたくさんのタマゴサラダを付けたクロが走って来た。

 きっと呼ばれて急いで口の中に詰めてきたのだろう。

「ぐむむ」

「食べ終わってからでいいよ」

 優しく背中を撫でると、急いで口の中にあるものを流し込んでいく。

「うん、食べ終わったよ」

「ふふふ、えらいね」

 口の中を見せてちゃんと食べたのを伝えてきた。

 マジマジと見たクロは歯がどこか尖っていた。

 犬歯がはっきりと目立つのも特徴なんだろう。

 その様子をどこか羨ましそうにタヌキは見ていた。

「ちょっと手伝ってもらってもいいかな?」

 少しほのぼのと話していたが、クロを呼んでもらったのは話をするためじゃない。

 それに気づいたクロもタヌキを見て、警戒を強める。

「この子誰?」

「ワイはポンタだ!」

「オラ達に何か用か?」

「ここに来たら美味しいものを食べさせてくれるって聞いたから来た!」

 クロは私と目を合わせてため息を吐いた。

「ポンタの分はないぞ?」

「嘘だ!」

「んー、確かに嘘かもしれないね? 私の分が残ってたもんね」

「あれはママ先生のやつだよ?」

 サンドイッチの材料は全て使っているため、ポンタにあげる分はない。

 あるのはまだ食べてない私の分だけ。

 動いたとしても家事をする程度のため、朝食がなくても特に問題はない。

「よかったら食べる?」

「うん!」

 ポンタは目をキラキラさせていた。

 獣人とは違う獣に近い見た目をしている半獣。

 子ども達とはどこか違う可愛さがポンタにはあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ダンジョンに閉じ込められたら社畜と可愛い幼子ゴブリンの敵はダンジョン探索者だった

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
 社畜の門松透汰は今日も夜中まで仕事をしていた。  突然出てきた猫を避けるためにハンドルを切ると、田んぼに落ちてスクーターが壊れてしまう。  真っ暗の中、家に向かって帰っていると突然草原の真ん中に立っていた。  謎の言葉に謎の半透明な板。  わけもわからず睡眠不足が原因だと思った透汰はその場で仮眠をしていると謎の幼子に起こされた。 「とーたん!」  どうやら俺のことを父親と勘違いしているらしい。  俺と幼子は元のところに帰るために、共に生活を始めることにした。  あれ……ゴブリンってこんなに可愛かったけ?  社畜とゴブリンのダンジョンスローライフ。  ※カクヨムやなろうにも投稿しています

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。