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第五章 冬の嵐

130.偽聖女、袋を作る

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「キキは見に行かなくてもいいの?」

「んー、キキは戦いに興味ないもん! ママ先生と勉強する方が好き」

 みんながバッカアとレナードの決闘をみに行く中、キキは私にべったりとしていた。

 実際に戦いに興味がないのもあるが、他の子達がいないため独り占めできると思っているのだろう。

「キキは将来天才になるからね!」

 私はキキを撫でると嬉しそうに尻尾を振っていた。

 キツネの尻尾はフカフカしており、私にとっては暖かさとして認識している。

 それがわかっているのか、私の足に巻きつけたり、背中に擦り付けたりしてくるので可愛さも倍増だ。

「ママ先生は何を作ろうとしたの?」

「今度は懐炉かいろを入れる袋を作ろうとおもったの」

「かいろ?」

「懐炉って言っても温石おんじゃくって言って石を温めたものを入れようかなって」

 カーテンを止めるために使った石と一緒に小さな平たい石を探してもらっていた。

 子ども達にとったら石集めが楽しかった程度だろう。

 懐炉が欲しいと思ったがさすがに作り方がわからないため、思いついたのが温石だった。

 たしか学生の時にどこかの博物館で見たことを思い出したのだ。

 火は料理でも使うため、石を温められる頻度は多い。

 私にとってはあるかないかで、外出できるかどうか変わると思っている。

 懐炉とダウンジャケットがあれば、外出も完璧だろう。

 それにホットパックの代わりにもなるため、お腹を温めるのにも使える。

「せっかくだからキキもやってみる?」

「うん!」

 私は縫い針を一つ渡して縫い方を説明する。

「ここの穴に糸を通してね」

 この世界の縫い針は何かの骨で作ってあるのか、削って尖らしたものに糸を通す穴が空いている形をしている。

「んー、これで良いのかな?」

「さすが器用だね」

「へへへ」

 キキは獣人の影響もあるのか手先が器用だ。

 目も良いため、針に糸を通すのも一瞬でできてしまう。

 私は目を細めながら、何度も挑戦することでやっと穴に通すことができた。

「このままだと糸が抜けちゃうから、玉結びをして糸が抜けないようにするね」

 人差し指に糸を巻いて、捻るように抜いていくと小さく丸まった玉結びを作る。

「わぁー、ママ先生すごーい!」

「私も初めて見た時は全然できなくてね。よくお母さんに教えてもらってたの」

「ママ先生のお母さんはどんな人なの?」

「とても優しい人だったよ。お母さんの力になりたいと思って、私も医療の道に進もうと思ったんだ」

「ならキキと同じだね。私もママ先生の力になりたいもん」

 キキの優しい気持ちについつい涙が出そうになる。

 みんなが私の力になりたいと思って行動をしている。

 それだけ私は子ども達に返せているのかと思ってしまうほどだ。

「いつもキキには助かっているよ」

 嬉しそうな顔をしているキキの頭を撫でる。

 私に出来ることは愛情たっぷり大事に子ども達を育てることだろう。

「さぁ、作業を続けようか」

「はーい!」

「袋は簡単に縁を縫い合わせればいいから、隙間が空きすぎないように波縫いをするね」

「波ってなに?」

「んー、水に触れた時に外に広がってウニョウニョしたのわかる?」

「ウニョウニョ?」

 急に説明を求められると中々答えられない。

 しばらく悩みながら縫っていると、キキは閃いた顔をしていた。

「ウニョウニョが波なのね!」

 うん……。

 理解しているのかはわからないが、適当なことを言ったらいけないことに気づいた。

 キキは器用なのもあり、言われた通りに針で縫っていく。

「縫い終わったら針に糸を巻きつけて、玉留めしたら完成だよ」

 今回は折りたたんだ布の両縁を波縫いをした簡単なものだ。

「じゃあ、見ててね」

 私はそのままくるりとひっくり返すと、簡単に袋が完成した。

 ちゃんと紐通し口も作れば便利な巾着になるだろう。

「ママ先生見てー!」

 キキも初めて作ったのに上手に出来ていた。

 二人で袋ができたことを喜んでいると、決闘が終わったのかゾロゾロと子ども達が帰ってきた。

「やっぱりレナねえは強いよね」

「バカにいは何も考えてないもんね」

 子ども達にも何も考えてないと言われて、バッカアも落ち込んでいた。

 何かあるたびに決闘している気もするが、そろそろ学習しないのかと思ってしまう。

 キキはレナードの姿を見つけると、できたばかりの袋を持っていく。

「あっ、レナねえ見てみて!」

「おー、さすがキキですね」

「これね……レナねえのために作ったの!」

 モジモジとしながらも、キキはレナードに袋をプレゼントしていた。

 その姿にほっこりとしていたが、なぜか子ども達はバッカアを慰めていた。

「早くしないとキキに取られちゃうよ?」

「キキはバカにいよりも頭が良いからね」

「くっ……」

 クロとトトはバッカアに対して容赦ないようだ。

 ひょっとしたら私の知らない間に新しい恋が始まったのかもしれない。

 そういうのは子どもの方が敏感だからね。

 二人を見届けたアルヴィンも戻ってきた。

「マミ先生、その手にあるのは――」

「あっ、温石を入れる袋です!」

「そうですか……」

 アルヴィンは声をかけてきたのに、すぐに落ち込んでどこかへ行ってしまった。

「あっちはあっちで大変だね」

「ママ先生はオラの婚約者だからな」

「いや、ママ先生はオイラと結婚するんだ」

「なんだと! トト決闘だ!」

「望むところだ!」

 クロとトトは再び庭に走って遊びに行った。

「二人ともそんなに動くとお腹減るよ?」

 その後ろをハムが追いかけていた。

 外は寒いけど今日も孤児院は、暖かくて賑やかな場所だ。
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