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第五章 冬の嵐

123.偽聖女、妹が遊びに来る

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 ポッポをなだめて鶏達に謝るとやっと落ち着いた。

 暴れた影響で周囲には羽が飛び散り、脱毛症になったような鶏がチラホラいる。

 決して寒さに負けて羽毛布団を作るためにやったわけではない。

 これは偶然起きた奇跡なのだ。

 私はそんな鶏達の羽を一枚ずつ拾って袋に詰めていく。

「そんなの拾ってどうするんだ?」

「すごく保温性が優れているので、布団に使おうと思って集めてるんです」

「ならあいつらから剥ぎ取って――」

『グギャアアアアアアアアア!』

 再び鶏達は大パニックになっていた。

 それを見て喜んでいるところを見ると、学生達に暴君と言われていたのが理解できる。

「しぇんしぇい、痛いことしないぽっ?」

「もう、バカ野郎のせいで私まで巻き添いになったじゃないですか!」

「おおお、すまない」

 やっと落ち着いたポッポも再び悲しそうな顔をしていた。

 さっきから何か私が言うたびに、ポッポがチラチラと私を見てくる。

 鶏の前で鶏が美味しい話はしてはいけないだろう。

 ただ、テバサキは以前唐揚げを美味しそうに食べていたが、それぐらいは良いのだろうか。

「次やったら立ち入り禁止ですからね」

 しばらくはバッカアを孤児院に入れないようにしないと、鶏達が落ち着かないだろう。

 あんなにふわぁふわぁな姿をしていたのに、いまではスリムな鶏になっている。

『ンモォー!』

 一方、牛達は声が気にならないのか横向きに寝ながら私達の様子を見ていた。

 魔物の種類ごとで性格がはっきり異なるのだろう。

「そういえば、バカ野郎は何しに来たんですか?」

「ああ、妹がいつになってもマミイモが会いに来てくれないからって」

 そういえば、お姉様になってくださいと言われてから会っていなかった。

 あの言葉に遊びに来てくださいという意味も込められていたとは知らなかった。

 バッカアが指差ししているところに目を向けると、ビクッとしているグシャ公爵令嬢がいた。

 すぐにバレないように隠れようとしているが、さすがに綺麗なドレスを着ているため目立ってしまう。

 私はゆっくり近づいても反応しないため、まだ見つかっていないと思っているのだろう。

「グシャ公爵令嬢、ごきげんよう」

 とりあえず挨拶してみて様子を伺う。

 何をしに来たのかはわからないが、一応貴族のため無礼のないように挨拶をする。

「あらあら、マミイモ姉様偶然ですね」

 さすがに偶然を装うには無理がある。

 バッカアの時も思ったが、貴族は偶然を装って会いにくるのが一般的になんだろうか。

「お久しぶりですね」

「ええ」

 ただの挨拶なのに声は若干裏返り、どこか令嬢は嬉しそうにしていた。

 普段のツーンっとした態度はどこに行ったのかと思うほどだ。

 兄妹揃って近しい人にはデレデレする性格なんだろうか。

「今日はどうしたんですか?」

「えっ……いや、近くを通ったので私の顔を披露しようと思ったのよ!」

 焦って言葉もおかしいし、語彙が迷子になっている。

 ツンデレなのかバカなのかわからないほどだ。

「私に会いに来てくれたんですね」

「そんなことないわよ。あなたが寂しいと思っただけよ!」

 これは会いたくて来たってことだろう。

 本当に素直になれない子だ。

「そうなんですね。ありがとうございます」

 私は子ども達と接するように、令嬢の頭を撫でる。

 令嬢は恥ずかしいのか再び壁に隠れてしまった。

「あっ、すみません」

 さすがに貴族の令嬢を平民が撫でるのはダメだと思いすぐに謝った。

「もっと喜びなさいよ!」

 どうやら撫でられることに関しては怒ってはいないようだ。

 それに撫でて喜べと強要までしてくる。

「しぇんしぇいー! お腹ぺったんこだよー!」

 ちびっこ達が孤児院からゾロゾロと出てきた。

 どうやら昼食の時間になったのだろう。

 鶏達の名前を決めていたため、何も用意はしていない。

「よかったら食べて行きますか?」

「私が平民のご飯なんて――」

「俺は食べていくぞ!」

「へっ!?」

「マミイモの作る飯はうまいからな」

 バッカアは令息でバカだから抵抗がないのだろう。

 最近はご飯だけ食べて、レナードと話して帰る日も増えてきた。

 相手をするレナードも大変そうだが、私がバタバタしているから仕方ない。

 ただ、貴族の令嬢となればそうともいかないのだろう。

「しぇんしぇいの美味しいよ?」

「おいちいよ?」

「わかったよ! 食べていけば良いんでしょ!」

 ちびっこ達の怒涛の攻撃に令嬢も折れたのだろう。

 壁に隠れても隙間から見えるその顔は嬉しそうにしていた。
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