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第二章 もふもふはモサモサ

14.もう僕は一人じゃないようです

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 音がしない静かな集落に僕は戸惑う。僕に釣られてかモススも辺りをキョロキョロと見渡している。

 明らかに人間が住んでいるような生活音が聞こえてこない。それに簡易的な建物は全体的に小さく、一番大きな家でも一般的な家と同じぐらいの大きさ。

 絶対足を踏み入れたらいけない場所の一つとも言われているところに僕は来たようだ。

「ここってゴブリンの住処――」

『キュキュキュキュー!!』

 モススは何かを知らせたいのか、大きく鳴き始めた。辺りからは忌々しい空気が肌を刺激する。

 建物に隠れていたのか、ゾロゾロと誰かが出てきた。

 ゴブリンだと思ったがそいつらは違った。

 その中にさっきまで僕を追いかけていた大きなコボルトがいた。

 ここはゴブリンの集落ではなく、コボルトの集落だった。

 きっと元々はゴブリンの集落だったのかもしれない。

 獰猛な牙が飛び出して、よだれがだらだらと垂れている。だが、彼らは草食の魔物のはずだ。

 まるで僕達が獲物だと思っているのだろう。

 僕の顔を見て、大きなコボルトはにやりと笑った。

『キュキュ!』

 モススは髪の毛を引っ張り、逃げるように伝えているのだろう。ただ、コボルトの数に圧倒されて体が全く動く気がしない。

 僕は集落までコボルトに誘導されたことにやっと気づいた。

 少しずつ近づいてくるコボルト達に、モススは目を光らせている。秘技モスモスビームだ。

 何もできない僕のために必死に対抗している。

 直接目を見たコボルトは何かに操られているのか、大きなコボルトに向かって噛みつき出した。

 ただ大きなコボルトは物ともせず、体に付いた水を飛ばすようにブルブルと体を震わす。

 全くコボルトの攻撃が効いていないのだろう。

『キュー!』

 モススの甲高い声が響くと、さっきまで動けなかった体が軽くなった気がする。今なら逃げ切れるってなぜか思った。

 僕は少しずつ後ろに下がると、一気に体の向きを変えて走り出した。

 だが、あの時の顔を見たらやはり勘違いだったと思わされてしまう。

 大きなコボルトは再びにやりと笑っていたのだ。

 それでも僕ができるのは、必死に逃げてこの森から出ることだ。

 足が絡まってもなるべく大きく、そして早く一歩を出すしかない。

 早く走っているからか、周りの音が聞こえなくなる。耳に入るのは風を切る音だけだ。

「グオォォー!」

 そんな中、背後からコボルトの声が聞こえてきた。

「えっ……なんでここに――」

 走っている僕の横にはにやりと笑うコボルトがいた。

 突然感じる腹部の痛みとともに体が宙を舞う。

「くっ……」

 体が何かにぶつかると勢いは収まり、その場で崩れ落ちる。

 ああ、僕はコボルトに遊ばれていたのだろう。目を開けると僕は集落の真ん中に倒れていた。

 きっと弱い存在を痛ぶるのが好きなんだろう。近づいてくるコボルトの目からはそう感じた。

「モスス……お前だけは逃げろ」

 視界がチカチカとする中、モススは僕を守るように羽を広げていた。

 あっ……あいつ後ろ脚で立つことができたのか。

 初めて見る姿に僕はつい笑ってしまう。モススも怖いのか体を震わせている。

 僕も強い敵に体の震えが止まらない。初めてフェンリルを見た時と同じだ。

 ただ、あの時と違うことが一つだけある。

 それは僕にはモススというパートナーがいるということだ。

 僕を守るためにモススは必死に戦おうとしている。家族でパートナーである僕は何もできずに倒れているだけだ。

 本当にこのまま震えているだけでいいのか。

 僕の運命を変えたあのフェンリルにお礼も伝えてないじゃないか!

「僕は何をやってるんだ! 僕が家族を守るんだ!」

 悔しさのあまり唇を強く噛む。すると痛みからか震えが収まってきた。

 息をすると胸が痛い。

 立ち上がると体がギシギシとなっている。

 それでも手を動かすとまだまだ動けるようだ。

 まだ僕は諦めたわけではない。

 絶対一緒にマリアが待つ宿屋に帰るんだ。

「モスス一緒に戦うぞ!」

『キュ!』

 モススに声をかけると、嬉しそうに僕の頭に乗ってきた。モススの定位置は僕の頭のようだ。

 僕はベルトに引っ掛けている短杖を取り出して魔力を込める。

 さぁ、ここからが僕達の戦いだ。
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