47 / 70
ストーカーライフ
47. 今日もトラップ日和です
しおりを挟むエーメ男爵はダンピエール伯爵の手駒になって、他にも様々な事を行ってきたこと。しかし、愚かな男爵本人は、いつでもダンピエール伯爵ひいてはエヴルー侯爵家が守ってくれると信じていたそう。
今回の件についても私に向かって堂々と「揉み消してもらう」などとのたまっていたが、彼は本気でそう思っていたんだろう。当のエヴルー侯爵は「知らない」と当然のようにトカゲのしっぽ切りをして男爵を見捨てたわけだが。
エヴルー侯爵が、孫娘ルイーズを王太子の正妃にするために一番邪魔なのは、ルテール公爵令嬢アリス。
馬車の事故を装って、邪魔なアリスを消そうとしたが、幸いなことにかすり傷ですんでしまった。その後、学園までの通学に、公爵家は護衛を増やしたので次の機会を伺っていたそう。
そこに偶然、エーメ男爵が下町でアリスと遭遇したことを聞いたダンピエール伯爵は、男爵夫人を使ってアリスをお茶会に招き、男爵邸にて拉致・略取することを計画した。
ちなみに殺害を指示されたが、男爵は私を奴隷として売るつもりだったらしい。
それが男爵が口にしていた「取引」なのかな?
もしかしたら、お金が欲しかったのかもしれない。殺したふりをして、実際は殺さないかわりに国に戻って来るなという「取引」をしようとしたのかも……もうどうでもいいけど……。
「現段階で物的証拠は何もなく、ただ、男爵の自白のみ。だが、そもそも王太子殿下が正妃をまだ決めていない事に端を発したわけだから、殿下がこうおっしゃったそうだ……」
私は、手を握り締めて沈黙していた。
断りたい。是非ともお母様に力添え頂いて断りたい!!
王家からの遣いによる伝言はこうだった。
「アリスと結婚したい」
「僕がアリスの立場をはっきりさせていたら、今回のような事件は起きなかったかもしれない」
「許されるならば、正式に婚約の申し出をしたいので、明日にでも公爵家を訪問したい」
書面ではなく口頭での使者だが、王太子付きの侍従長自らが来たそうだから、ラファエル様は本気なんだろう。
彼なりに心配してくれたんだろうけど……
……だから私の気持ちを考えろと言ったはずだが?
しかも明日? ……って今日じゃん!!!
「ルテール公爵家としては断る理由はない」
父の言葉に私と母は黙った。公爵家としてはない。アリス個人としてはあるけれど。
なんとか声を絞り出して言った。
「……体調がすぐれないということで保留できませんか?」
浅知恵しか浮かばない。体調が回復したら、返事はしなくてはならない。
「分かった。急ぐ理由もなくなったし、ひとまずはそう返事しよう」
てっきりお父様は一刻も早く返事したいのではと思っていたから、驚いて聞いた。
「急ぐ理由がなくなったとは……?」
「アリスには伝えておこう。これもまだ内々のことで国王陛下にも王太子殿下にもお伝えしていない……」
何だろうと思ってお父様を見ると、父はにっこりと笑っていた。
「マクシムはルイーズ嬢と婚約することになるよ」
その言葉に目の前が真っ暗になった気がした。
……嗚呼、お兄様……。
王太子妃の第二候補者がいなくなってしまった……。
確かに、お父様の言う通り、私とラファエル様の婚約を急ぐ必要はない。こうなれば、必然的に私が王太子妃になるのだろうから。
エヴルー侯爵とダンピエール伯爵の画策も、ルイーズ嬢の恋によって何の意味もなくなってしまったという事かあ……。
お茶会の日程が重なったのは、偶然だったんだ。
これがもし、ルイーズ嬢のお茶会が一週でも早かったら、事態は変わっていただろう。
さらわれ損じゃん、私……。
うなだれた私の頭の中には「バッドエンド」の文字が踊り、今度こそ思考回路がショートした。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!


劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
人類がリアルから撤退して40年。
リアルを生きてきた第一世代は定年を迎えてVR世代との共存の道を歩んでいた。
笹井裕次郎(62)も、退職を皮切りに末娘の世話になりながら暮らすお爺ちゃん。
そんな裕次郎が、腐れ縁の寺井欽治(64)と共に向かったパターゴルフ場で、奇妙な縦穴──ダンジョンを発見する。
ダンジョンクリアと同時に世界に響き渡る天からの声。
そこで世界はダンジョンに適応するための肉体を与えられたことを知るのだった。
今までVR世界にこもっていた第二世代以降の若者達は、リアルに資源開拓に、新たに舵を取るのであった。
そんな若者の見えないところで暗躍する第一世代の姿があった。
【破壊? 開拓? 未知との遭遇。従えるは神獣、そして得物は鈍色に輝くゴルフクラブ!? お騒がせお爺ちゃん笹井裕次郎の冒険譚第二部、開幕!】

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる