パーティーを追放された付与術師の俺。なぜかスローライフを監視されているんだが?〜追放したお前らがストーカーしてくるなよ!〜

k-ing ★書籍発売中

文字の大きさ
上 下
17 / 70
ストーカーライフ

17. 邪魔はさせねえよ

しおりを挟む
「フルールさん、あちらにクレープがあってよ!」
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。

先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。

「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
人類がリアルから撤退して40年。 リアルを生きてきた第一世代は定年を迎えてVR世代との共存の道を歩んでいた。 笹井裕次郎(62)も、退職を皮切りに末娘の世話になりながら暮らすお爺ちゃん。 そんな裕次郎が、腐れ縁の寺井欽治(64)と共に向かったパターゴルフ場で、奇妙な縦穴──ダンジョンを発見する。 ダンジョンクリアと同時に世界に響き渡る天からの声。 そこで世界はダンジョンに適応するための肉体を与えられたことを知るのだった。 今までVR世界にこもっていた第二世代以降の若者達は、リアルに資源開拓に、新たに舵を取るのであった。 そんな若者の見えないところで暗躍する第一世代の姿があった。 【破壊? 開拓? 未知との遭遇。従えるは神獣、そして得物は鈍色に輝くゴルフクラブ!? お騒がせお爺ちゃん笹井裕次郎の冒険譚第二部、開幕!】

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...