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第二章 社畜、現実を知る

41.社畜、家族の大事さ

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「ダンナ様、もう少ししたらありますよ!」

 草原の中をホワイトに引っ張られながら、歩いていると何か違和感を感じた。

「ここです」

 ちょうど違和感を感じたところと、ホワイトがみつけた変なところは同じだった。

 パッと見た時は、そこまで違和感を感じないだろう。

 だが、ずっと見ていると空間がおかしいと感じる。

 どこか景色が歪んでいるように見えるのだ。

 たしか心菜がはじめに襲って来た方に歩いてきた気がする。

 ひょっとしたらこれがダンジョンから出るゲートなんだろうか。

 俺はゆっくりと近づき、手を触れようとする。

「ダメ!」

 突然ホワイトは俺を引っ張って、触らないように止めた。

 実はダンジョンのゲートではない何かだろうか。

 俺よりも魔物であるホワイトの方が、その辺の危険察知能力は高いからな。

 一度どうなっているのか調べてみることにした。

 その辺に生えていた草を抜いて投げてみる。

 歪んでいる空間の中に入ると、どこかに消えてしまった。

「ひょっとしたら俺の腕がなくなっていたかもな」

 今度は投げずに手に持ったまま、入れたり抜いたりを繰り返すことにした。

 やはり草を入れた途端は先が見えなくなる。

 ただ、ゆっくりと抜いていくと草はそのまま生えていた。

 きっとダンジョンのゲートで間違いないだろう。

「これがゲートだな」

 ホワイトの方を見ると少し寂しそうな表情をして、こっちを見ていた。

「俺は帰らないから大丈夫だぞ」

「本当に?」

 どうやら俺を帰らせないように、手を入れるのを止めていたのかもしれない。

 そんなに離れるのが嫌だと聞いたら、俺も嬉しくなってしまう。

「じゃあ、せっかくのデートだから遊ぼうか!」

「いいの!?」

「ああ」

 遊ぶといってもその辺の魔宝石を集めてくるだけだ。

 それなのにホワイトは嬉しそうに魔宝石を集めていた。

「ダンナ様、こんなに集めてどうするんですか?」

 俺とホワイトの腕の中には、たくさん集めた魔宝石を持っている。

 特に魔宝石で何かしたくて集めたわけではない。

「ゴボタやリーゼントが間違えて入ったら危ないからな」

 ゴボタは手押し車、リーゼントはスクーターに乗っている。

 勢いよく走っているため、外に出てしまう可能性があった。

 だから、目印に魔宝石を使おうと思ったのだ。

 俺はダンジョンゲートの周囲を回りながら、一定の間隔で魔宝石を円状に置いていく。

 その後、間に魔宝石を置くと綺麗な円ができた。

「これならあいつらでも、さすがに気づくだろ?」

「さすがダンナ様ですね」

 何をやっても褒めてくれるホワイトはどこか居心地がよかった。

 外も暗くなった俺達はホワイトと拠点に戻ることにした。


「とーたああああん!」

 拠点が遠くに見えて来た時には、ゴボタが名前を呼びながら走ってきた。

「おう、ただいま!」

 大きくジャンプしたゴボタを俺は抱きかかえる。

「おっ、真っ黒だな!」

「ぎゃんばった!」

 拠点を直す作業を頑張っていたのだろう。

 体が真っ黒になっていた。

 右手にゴボタ、左手にホワイトの手を繋いで帰っていく。

 社畜の時と比べたら、数日でだいぶ生活環境が変わった。

 こんなに平和な日々を過ごせるとは思ってもいなかった。

 いや、実際は20年だったか。

「とーたん、みてみて!」

 突然、ゴボタが引っ張って見せてきたのは木で作った小屋だった。

「えーっと……小屋?」

「ゴボォ!」

 小屋なのはあっているらしい。

 ただ、こんなところに小屋はなかったはずだ。

 しっかり壁や屋根だけではなく、扉もできており、ちゃんと外と中が区別できるようになっていた。

――ガチャ!

「あっ、お兄ちゃんおかえりなさい!」

 中から心菜が出てきた。

 なぜか心菜も体が汚れていた。

「これってどういうことだ?」

「ああ、リーゼントがほぼ一人で使っていたわよ。あの子は犬でも魔物でもなく、建築士だったのよ」

 心菜はついに頭でもおかしくなったのだろうか。

 それを感じたのか、心菜は握り拳をつくっていた。

「いや、俺は何も言ってないぞ!」

「今何か言おうと――」

「あっ、ボスおかえりー!」

 まだ何かを作っているのか、ツルを編み込みながらリーゼントは歩いてきた。

「ボス、オラが家を作ったんだぞ!」

「ああ、すごいな」

「エッヘン!」

 リーゼントを褒めるが、どこか浮かない顔をしていた。

 いつもより表情が暗いのは何かあったのだろうか。

「だからいつでも帰って来てね」

「ん? どういうことだ?」

「帰るお家があればいつかは帰ってくるでしょ?」

 その言葉を聞いて俺はすぐにリーゼントを抱きしめた。

 あれだけ帰らないと言ったのに、俺の言葉を信じていなかったのだろうか。

「俺はどこにも行かないぞ」

「オラ達のわがままにボスを振り回しちゃダメだもん」

 リーゼントの目からはポタポタと涙が流れ出てくる。

 それよりも鼻水が垂れて、無様な顔になっている。

 普段なら汚いと言うが、そんな気持ちは全くない。

 思う存分俺で鼻水を拭けば良い。

 俺はみんなに寂しい思いをさせていたんだろう。

「あっちにもボスの家族がいるでしょ?」

「ああ、母さんが――」

 俺はその時、母のことが頭によぎった。

 心菜が大人になったら、母も歳をとっているはず。

 元気に過ごしているのだろうか。

「心菜、母さんは元気か?」

 心菜は俺の実家の隣に住んでいた。

 母のことは心菜が知っているはずだ。

「ごめんなさい。お兄ちゃんのお母さん入院しているんです」

 その言葉を聞いて俺の頭は真っ白になった。
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