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第一章 社畜、パパになる

2.社畜、スクーターに驚く

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 俺はいつの間にか寝ていたようだ。

 やはり二日も寝ていないと、少ない睡眠時間では体力がもたなかった。

「あれ、動かないぞ?」

 体を起こそうにも何かが乗って動けないでいた。

 首だけ持ち上げると、そこには幼子のゴボタが上に乗って心地良さそうに寝ていた。

 体は小さくて細いが、思ったよりも重かった。

「ん……」

「ゴボタおはよう」

 むくりと起きたゴボタは俺の顔を見ると、目をパチパチとさせていた。

「とーたん!」

 やはり俺のことは父さんと認識しているような気がした。

 勢いよく俺に抱きついてきた。

 急に眠たくなって寝たから心配したのだろう。

 今も俺の服に顔をスリスリしている。

 俺と同じ迷子になっているため、一人で寂しい思いをさせてしまったようだ。

 そういえばゴボタは服を着ていないが、ずっと全裸で外を出歩いていたのだろうか。

 さすがに一緒にいて、他の人に見られたら怪しまれるだろう。

 俺はゴボタを持ち上げて立たせると、そのまま手を広げるジェスチャーをする。

「ゴボッ!」

 楽しそうに手をパタパタと広げているゴボタ。

 俺はスーツの上着を脱ぐと、ゴボタの股に通す。

 そのまま胸の部分に上着の袖部分を回して結ぶ。

 ゴボタは男の子だから、今までと違った股の感触に戸惑っていた。

 まぁ、さっきまでフルチン状態だったからな。

「これでしっかり隠れるね」

「きゃくれる?」

「ん? なんか前よりも言葉が話しやすいのか?」

「ゴボッ!」

 初めて会った時よりも滑舌が良く、聞き取りやすくなっていた。

 それでも返事は〝ゴボッ!〟なのは変わらない。

 本当に俺達はどこから迷い込んだのだろうか。

 そんなことを思っていると、ゴボタは何かを指さしていた。

「スクーターが気になるのか?」

「しゅきゅーたー?」

「そそ、ブンブンだよ」

「ブンブン!」

 ゴボタはスクーターが気になるのだろうか。

 俺のヘルメットをゴボタに被せて、早速座らせる。

「わぁー!」

 ゴボタはやっぱり男の子なんだろう。

 楽しそうに足をバタバタとしている。

「ちょっと乗ってみるか?」

「ゴボッ!?」

 俺はゴボタの後ろに座りエンジンをかける。

――ドゥンドゥン!

 あれ……?

 いつもとエンジン音が違う。

 壊れたのだろうか。

 俺はいったん降りて確認するが、エンジン音以外は特にいつもと変わらない。

「ゴボッ?」

 ゴボタはそんな俺を心配していた。

「ああ、大丈夫だ」

 俺は周囲を見渡して、警察がいないか確認してスクーターを走らせた。

 さすがに二人乗りができるスクーターでも、前に乗せるのは違反になるからな。

 ただ、小さなゴボタを背中に乗せてバイクに乗る方が怖い。

 俺は早速スクーターを走らせた。

 ゴボタは急に動いたことに驚いていたが、心地良い風に嬉しそうにしていた。

「とーたん!」

「どうした?」

「ゴボォ! ゴボボ!」

 全く何を言っているのかはわからない。

 ただ、ゴボタには少し大きめな大人用のヘルメットから見える顔は嬉しそうだった。

「じゃあ、もっと速くするぞ!」

「ゴボォ!?」

 さらに強くハンドルを握り、スピードを上げる。

「ゴボオオオォォォ!」

 ゴボタは何か叫んでいたが、何もない草原を走るのはとても心地良かった。

 ♢

「おーい、ゴボタくん……?」

「ゴボ!」

 一旦止まってスクーターから降りた時には、ゴボタは震えていた。

 急に速度を上げたことにびっくりしたのだろう。

 俺と顔を合わせようとせずにそっぽ向いて怒っている。

 さすがにこんなに怒るとは思いもしなかった。

 どうしようか迷っていると、俺はあることを思いついた。

 スクーターの椅子部分を持ち上げて、収納部分から鞄を取り出すことにした。

 お腹が減った時のために、鞄の中にはお菓子やプロテインバーが入っている。

 必殺お菓子で仲直りをしよう作戦だ。

 大人気ないと思った?

 それは仕方ない。正直、親戚にも子どもはいないし、小さい子は隣に住む子ぐらいしか相手にしたことがない。

 俺は手を鞄を取り出すために手を入れるが、一向に鞄が見つからない。

「なっ……なんだこれ?」

 視線を手元に移すと、収納部分は底が見えないほど真っ暗な大きな穴のようになっていた。

 手を奥まで入れると、腕も飲み込まれるようにどんどんと中に入っていく。

「とーたん!」

 それに気づいたゴボタは俺を一生懸命に引っ張っている。

 俺がスクーターに食べられていると思ったのだろうか。

 いや、あながち間違いではないだろう。

 見事に顔まで入る勢いだった。

 ただ、そのおかげか鞄は取ることができた。

 俺は早速鞄からプロテインバーを取り出す。

「じゃーん、お菓子でも食べるか?」

「ゴボッ!」

 ゴボタは怒っていたことを思い出したのだろう。

 ただ、何度も俺の方をチラチラと見ている。

 正確にいえばプロテインバーを見ていた。

 やっぱりお菓子が気になるのだろう。

「甘いチョコ味だぞー」

 包装紙を開けると、チョコの香りが漂ってくる。

「ちょこ?」

「うぉ!?」

 気づいた時には俺の顔にベッタリと頬をくっつけるほど近くにいた。

「食べるか?」

「ゴボゴボ……」

 それでもゴボタは悩んでいた。

 俺はゴボタの鼻付近にプロテインバーを近づけてクルクルと回す。

 これでチョコの匂いに釣られるだろう。

「ふああああ……」

 ゴボタの口からはポタポタとよだれが垂れていた。

「仲良くして――」

「しゅる!」

 やはり匂いには耐えられなかったのか、すぐに仲直りをしてくれた。

 プロテインバーを渡すとゴボタは嬉しそうに手に持った。

「ゆっくり……いや、子どもがプロテインバー食べられるのか!?」

 急いでゴボタを見ると、ガジガジとプロテインバーを齧っていた。

 どうやらゴボタはしっかり歯が生えているようだ。
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