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3.芋聖女、政略結婚させられる

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「んっ……」

「ああ、起きたか」

 目を覚ますとベッドの横には父が座っていた。

 この国の宰相で王の側近でもある頭が切れる男だ。

「ローズが心配していたぞ。懐妊した妹に迷惑をかけるとは本当に使えない娘だ」

「すみません」

 私は父に愛されていないのは知っている。

 昔から優しく愛を向けられていたのは、妹のローズだけだった。

「しかもその相手がお前の婚約者だとはな。男の一人も立派に操作できずに何が聖女だ! 宰相の娘とは言えないほど頭が回らない子だとは思わなかったぞ」

 倒れたばかりの私の頬を父は強く叩いた。

 頬の痛みなのか、心の痛みなのかわからないもうわからない。

 もうこの場から消えたい。

 今すぐにでも死にたいと思うほど私は追い込まれていた。

 "婚約者を妹に奪われた惨めな聖女"

 私はこれからこうやって呼ばれるのだろう。

「これでも聖女だから、お前にはこの国のために新しい使い道がある」

 投げられた紙にはある人の名前が書かれていた。

「セイグリッド・シャーロン?」

「ああ、遠い国で関係を保つために政略結婚相手を探していたんだ」

 その言葉に嫌な予感がした。

 頭の中で警鐘が鳴り響く。

「うっ……」

 頭を抱えて苦しむ娘も気にせず、父は話を続けていく。

「相手はお前よりも20歳も上だが王位継承を放棄している王族だ。これでお前も使い道があってよかったな」

 それだけ言って父は部屋から去っていく。

 政略結婚に使われた私が、再び政略結婚に使われるとは思いもしなかった。

 死ねるなら今すぐにでもナイフを刺して空を飛んでいきたい。

 でも、聖女である私はある程度の傷であればすぐに治してしまう。

 死にたくても死ねないのがこんなに辛いとは思いもしなかった。
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