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第二区画

153.助産師ももちゃん

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 俺はリズウィンに話を聞き桃乃のところへ向かう。出産間近の妊婦さんは急な出産にも対応できるように、一箇所に集められているらしい。

「ももちゃ――」

 扉を開けるとそこは一種の戦場と化していた。

「すぐに桶と布をお願いします」

 桃乃は必死にドワーフ達に指示をしていたが、言葉が伝わらないようだ。

「早く桶と布を準備しろ! 何かやることはあるか?」

 俺の言葉に反応した他のドワーフ達は、すぐに桶と布を取りに行く。その場に駆けつけると桃乃は俺に気づいたのか、通訳するように頼んできた。

「持ってきました」

 俺はドワーフから受け取ると桃乃に手渡す。

「ウォーターボール」

 桃乃は水属性魔法を唱えると、水を桶の中に入れて回復魔法を唱えた。こういう時に魔法が使えると本当に便利だ。

「ああぁぁー!」

 ドワーフの女性が男達に抑えられている光景が衝撃的だった。まるで出産後に動かないようにしているようだ。

「もうすぐ生まれてくるぞ! 皆、武器の準備をしろ!」

 突然聞こえた言葉に俺は戸惑う。言われたとおりに魔刀の鋸を出そうとしたが、桃乃は俺の方を見て首を横に振っていた。

 少しずつ赤ちゃんの頭が出てくる。

「もう少しだ。頑張れ!」

 初めて間近で見る出産に俺も声をかける。だが、生まれてくる赤ちゃんの産声は、俺の想像を超えていた。

「ぐあぁー!」

 赤ちゃんの泣き声と思えないほど威圧的な声が聞こえてきた。その声は魔物が人間を襲うときの声に似ている。

浄化プリフィケーション

 しかし、桃乃が呪文を唱えるとすぐに子供は落ち着きを取り戻す。今は桃乃の腕の中でスヤスヤと眠っている。

「先輩お願いします」

 俺は子供を預かったがその場で固まってしまった。そもそも生まれたばかりの子供を抱いたこともない。

 必死にスキルで検索するが、混乱して頭が働かないんだろう。どうすればいいのかわからず戸惑っていると、リズウィンが俺から子供を取り上げた。

 濡れた布で赤ちゃんの体を綺麗に拭いていく。

「先輩……あんな感じでお願いします」

 桃乃は説明するのがめんどくさいのか、それだけ伝えてすぐに部屋の奥に入っていく。

 俺が桃乃について行くと、そこにはお腹を触って必死に耐えているドワーフの女性達がいた。

「これが最後の人達になると思います」

 後ろから入ってきたリズウィンは今の状況を説明する。

「初めに産まれた子以外はさっきの子みたいに私達を襲ってきたんです。その原因が分からないので、私達はお母さんの意思も聞かずに殺してきました。すでに子どもに指を食べられた仲間もいるんです」

 自分達の命か子どもの命を天秤にかけた時に、オークとのハーフの子どもは殺すしかなかったと。リズウィンはその場で泣き崩れた。

 リズウィンが話したことを桃乃に伝えると、少し考え始めた。しばらくすると女性に近づき回復魔法を唱え始める。

「今からここにいる女性全ての子供を出産させます」

 この部屋にいる女性は助けた女性のほぼ半数だ。それだけ妊婦がいるということだ。

「おい、ももちゃんどういうことだ?」

「多分ですが、私が回復魔法を唱えて出産しているかの違いになると思います」

「どういうことだ?」

「初めに生まれた子のときは私が出産に立ち会ったんです。何をすればいいのかわからなかったから、ただ回復魔法をかけていたのを覚えています」

 回復魔法を唱えるとさっき生まれた時と全く同じ光景だったらしい。

「早く私を殺して……。もう殺人鬼を産みたくないの!」

 突如女性が声を荒げて叫びだした。それに反応して周囲の女性達も泣き叫ぶ。

 俺はアイテムからヒーリングポットを取り出す。今まで使わずに残しておいたが、リップルの実を簡単に手に入れることが出来るとわかったため、残りの一つを使うことにした。
 
「大丈夫です。母子ともにちゃんと生まれますよ」

 しっかり無事に母親になって欲しいという願いも込めて俺も声をかける。次第に女性は覚悟を決めたのか真剣に子供を産もうと力み始めた。

 やはり母親になる女性は強い。何度もオークとの子供を産んでいたのだろう。

「先輩交代します! 生まれそうな人に声をかけてください」

「わかった」

 俺はリズウィンとともに桶と布の準備を始める。女性達の戦いが始まろうとしていた。





「お疲れ様!」

 俺は桃乃の肩を軽く叩くと、その場で桃乃は崩れるように倒れた。いつのまにか俺の力はさらに強くなったのだろうか。毎回制御できないのも問題だ。

「おおお、大丈夫か?」

「なんとか……MP切れのようです」

 どうやら回復魔法の使い過ぎで倒れたらしい。それだけ常に回復魔法をかけ続ける必要があった。

 その結果子供達は人を襲うことなく、無事に産まれることができた。

「本当に助産師みたいだったな」

「まさかこんなに人の命が産まれる瞬間に立ち会えとは思わなかったです」

 桃乃の姿は助産師そのものだった。子供が無事に産まれた母親も体調に問題はなく、今も子供と一緒にゆっくりと寝ている。

「ももちゃんがいなかったら助からなかった命だね」

「問題は山積みですけど、ひとまずよかったです」

 今後もオークのような魔物に襲われて子供が産まれる可能性も考えられる。実際に第一区画ではお腹を突き破ってゴブリンが産まれるぐらいだから魔物によって異なるだろう。

 そう思うと今後の課題はまだまだ残っている。

「でも流石に今日は休ませた方がいいな」

 俺の肩にもたれるように桃乃は静かに眠りについた。
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