146 / 156
第二区画
146. 桃乃の策略 ※一部第三者視点
しおりを挟む
あれから元部長の柿谷は仕事に来なくなった。どれだけ連絡しても、繋がることはなく引き継ぎがないまま俺は仕事に追われている。
実際部長のやっていた仕事は、さほど大変な作業でもなく、俺は勝手に引き継いで、どうにか期限に間に合わせることができた。
部長という役職名はついたが、特に普段と変わりない。直接俺ができるものに関しては、俺がやることにして、他の人に向いているものは振り分けて仕事をしている。
気づいた頃には、全員が定時に帰れることが当たり前になっていた。
実際は俺が定時には帰れと言って、オフィスから追い出しているけどな。
そういえば、この間手に入れた謎のアイテムはウィンドウが表示されたのが一度きりだ。何度見ても出ることはなかった。
俺の目がおかしくなってきているのだろうか。
「そういえば、最近笹寺さんに会いましたか?」
「誠か? 連絡は取ってるけど会ってないぞ?」
「あのあと異世界のことに関しては何も言ってこないですか?」
帰ってきた時には大体の説明をしたが笹寺自身から異世界の話を振ってくることはなかった。
「私も相当悩みましたからね」
桃乃の時は仕事を休むぐらいだった。電話越しの笹寺の声は問題なさそうだ。
現在は問題が解決するまで、自営業をしているが、今はそっちの方で忙しそうだ。
「久々に行ってみるか」
「えっ?」
俺は仕事帰りに桃乃と一緒に笹寺の家に向かうことにした。
♢
笹寺道場に着くと桃乃は驚いて立ち止まっている。
「笹寺さんの道場ってこんなに大きかったんですね」
「道場をやってるってことは知ってたんか?」
「むしろ先輩知らなかったんですね」
桃乃の言い方だと笹寺の道場が有名のようだが……。
「この辺に住んでいる人は誰も知っていると思いますよ。たしかお兄さんが――」
「おお、お前達来てたのか」
桃乃が話そうとした瞬間に道場の扉が空いた。ちょうど習い事が終わったのか、子供達が道場から出てくる。
「あっ、この間の強いおじさ――」
「誰がおじさんだ!」
俺は子供を捕まえるとそのまま上に投げた。コボルトと遊ぶように投げたはずが、思ったよりも投げてしまったようだ。
「うっ……」
何事もなくキャッチすると子供は小さく震えていた。どうやら怖がらせてしまったらしい。
「あっ……すまない。お母さん達はいないよな?」
俺は周りに保護者がいないか確認する。変な大人が子供を泣かしたとなれば問題になるはずだ。だが、子供達の反応は違った。
「おじさんもう一回やって!」
「えっ?」
「だからさっきの投げるやつもう一回やってよー!」
どうやら子供は怖がっているのではなく、興奮して震えていたようだ。
変にビビらせやがって。
その後も俺は一種の遊園地アトラクションのように子供達を投げ続ける。
今まで子供に好かれることはなかったが、これも何かスキルや称号が関係しているのだろうか。
「おじさんありがとう! また来てね」
「だからおじさんじゃないわ!」
子供達は迎えに来た保護者とともに帰って行った。保護者は何も言わずに、"楽しそうで良いわね"と保護者同士で話していた。
「先輩お疲れ様です」
「ああ、もう疲れたわ」
現実世界でも体力は上がった方だが、さすがに30分連続で子供を投げ続けるのは無理がある。
次第に大人達も混ざって並んでいるため、さすがに断った。ここに来る人達はどことなく笹寺に似ている気がする。
一方、俺が子供達と遊んでいた時に、桃乃と笹寺は話し合っていた。
「笹寺さんと話し合いの結果、明日異世界に行くそうです」
どうやら俺の予定も聞かずに、異世界に行くことが決まったらしい。
彼女もいないし、やることがない俺はドリアードの種に水と肥料をあげるぐらいだ。
「俺も行ったら強くなれるらしいな! だから明日一緒に行くぞ」
特に行く予定もなかったが、桃乃が笹寺の後ろで謝っていた。きっと桃乃も断るのがめんどくさかったのだろう。
笹寺って基本考えずに行動するため、この前話したことも忘れている気がする。
「ということだからお前の家に今から行くぞ!」
「はぁん? 今か?」
「何かダメな理由はあるのか? 家なら酔っても大丈夫だろ?」
急に話を進めたのは何か理由があるのだろうか。桃乃も初めの時は自分を変えたいと言っていた。
「おー、良いですね! なら私が何か作りますね」
いつのまにか話が進み、俺の家に事前に泊まることになった。なぜか笹寺と桃乃はにやにやと笑っている。
流石に男二人のところに桃乃を泊まらせるわけにはいかない。
「ちょっと準備してくるから待ってろよ」
そう言って笹寺は道場の鍵を閉めて家の中に戻って行く。
「急に伺うことになってすみません」
「あー、ももちゃんは帰れよ?」
俺の言葉に桃乃は残念そうにしていた。そんなに笹寺と仲良くしたいなら、二人で過ごせばいいだろう。
「そんなに笹寺さんと二人が好きなんですね」
何か勘違いをしているような気もするが、桃乃が泊まらなければ問題ないだろう。確かに男二人なら気にしなくても良いからな。
♢
女はモニターの電源を消すと急いで台所に向かう。今日もいつものように作業を始める。
「まさかの一人追加なのね!」
女は小さな冷蔵庫を開けると材料を取り出した。出てきた材料は何日分のご飯を作るのかというぐらいの量だった。
材料を包丁で素早く切り下準備をする。その姿は早すぎて目が追いつかないほどだ。
「あー、今週もあっちの世界に行くなら早く準備したわよ。絶対あの子たくさん食べるタイプだわ」
女は買った材料を鍋に入れると、適当に醤油や砂糖を入れ味付けをする。計量しなくてもできるのが、主婦歴の長さを物語る。
「これで肉じゃがはいいわね」
「おーい、帰ってきたぞー!」
玄関から男の声が聞こえてきた。きっと女のことを呼んでいるのだろう。
「チッ!」
無視して料理を続けていると、再び女を呼ぶ声が聞こえてくる。男は玄関で何かを言い続けていた。女のイライラは収まらない。
まな板に乗っている魚には、包丁が真っ直ぐに突き刺さっていた。
実際部長のやっていた仕事は、さほど大変な作業でもなく、俺は勝手に引き継いで、どうにか期限に間に合わせることができた。
部長という役職名はついたが、特に普段と変わりない。直接俺ができるものに関しては、俺がやることにして、他の人に向いているものは振り分けて仕事をしている。
気づいた頃には、全員が定時に帰れることが当たり前になっていた。
実際は俺が定時には帰れと言って、オフィスから追い出しているけどな。
そういえば、この間手に入れた謎のアイテムはウィンドウが表示されたのが一度きりだ。何度見ても出ることはなかった。
俺の目がおかしくなってきているのだろうか。
「そういえば、最近笹寺さんに会いましたか?」
「誠か? 連絡は取ってるけど会ってないぞ?」
「あのあと異世界のことに関しては何も言ってこないですか?」
帰ってきた時には大体の説明をしたが笹寺自身から異世界の話を振ってくることはなかった。
「私も相当悩みましたからね」
桃乃の時は仕事を休むぐらいだった。電話越しの笹寺の声は問題なさそうだ。
現在は問題が解決するまで、自営業をしているが、今はそっちの方で忙しそうだ。
「久々に行ってみるか」
「えっ?」
俺は仕事帰りに桃乃と一緒に笹寺の家に向かうことにした。
♢
笹寺道場に着くと桃乃は驚いて立ち止まっている。
「笹寺さんの道場ってこんなに大きかったんですね」
「道場をやってるってことは知ってたんか?」
「むしろ先輩知らなかったんですね」
桃乃の言い方だと笹寺の道場が有名のようだが……。
「この辺に住んでいる人は誰も知っていると思いますよ。たしかお兄さんが――」
「おお、お前達来てたのか」
桃乃が話そうとした瞬間に道場の扉が空いた。ちょうど習い事が終わったのか、子供達が道場から出てくる。
「あっ、この間の強いおじさ――」
「誰がおじさんだ!」
俺は子供を捕まえるとそのまま上に投げた。コボルトと遊ぶように投げたはずが、思ったよりも投げてしまったようだ。
「うっ……」
何事もなくキャッチすると子供は小さく震えていた。どうやら怖がらせてしまったらしい。
「あっ……すまない。お母さん達はいないよな?」
俺は周りに保護者がいないか確認する。変な大人が子供を泣かしたとなれば問題になるはずだ。だが、子供達の反応は違った。
「おじさんもう一回やって!」
「えっ?」
「だからさっきの投げるやつもう一回やってよー!」
どうやら子供は怖がっているのではなく、興奮して震えていたようだ。
変にビビらせやがって。
その後も俺は一種の遊園地アトラクションのように子供達を投げ続ける。
今まで子供に好かれることはなかったが、これも何かスキルや称号が関係しているのだろうか。
「おじさんありがとう! また来てね」
「だからおじさんじゃないわ!」
子供達は迎えに来た保護者とともに帰って行った。保護者は何も言わずに、"楽しそうで良いわね"と保護者同士で話していた。
「先輩お疲れ様です」
「ああ、もう疲れたわ」
現実世界でも体力は上がった方だが、さすがに30分連続で子供を投げ続けるのは無理がある。
次第に大人達も混ざって並んでいるため、さすがに断った。ここに来る人達はどことなく笹寺に似ている気がする。
一方、俺が子供達と遊んでいた時に、桃乃と笹寺は話し合っていた。
「笹寺さんと話し合いの結果、明日異世界に行くそうです」
どうやら俺の予定も聞かずに、異世界に行くことが決まったらしい。
彼女もいないし、やることがない俺はドリアードの種に水と肥料をあげるぐらいだ。
「俺も行ったら強くなれるらしいな! だから明日一緒に行くぞ」
特に行く予定もなかったが、桃乃が笹寺の後ろで謝っていた。きっと桃乃も断るのがめんどくさかったのだろう。
笹寺って基本考えずに行動するため、この前話したことも忘れている気がする。
「ということだからお前の家に今から行くぞ!」
「はぁん? 今か?」
「何かダメな理由はあるのか? 家なら酔っても大丈夫だろ?」
急に話を進めたのは何か理由があるのだろうか。桃乃も初めの時は自分を変えたいと言っていた。
「おー、良いですね! なら私が何か作りますね」
いつのまにか話が進み、俺の家に事前に泊まることになった。なぜか笹寺と桃乃はにやにやと笑っている。
流石に男二人のところに桃乃を泊まらせるわけにはいかない。
「ちょっと準備してくるから待ってろよ」
そう言って笹寺は道場の鍵を閉めて家の中に戻って行く。
「急に伺うことになってすみません」
「あー、ももちゃんは帰れよ?」
俺の言葉に桃乃は残念そうにしていた。そんなに笹寺と仲良くしたいなら、二人で過ごせばいいだろう。
「そんなに笹寺さんと二人が好きなんですね」
何か勘違いをしているような気もするが、桃乃が泊まらなければ問題ないだろう。確かに男二人なら気にしなくても良いからな。
♢
女はモニターの電源を消すと急いで台所に向かう。今日もいつものように作業を始める。
「まさかの一人追加なのね!」
女は小さな冷蔵庫を開けると材料を取り出した。出てきた材料は何日分のご飯を作るのかというぐらいの量だった。
材料を包丁で素早く切り下準備をする。その姿は早すぎて目が追いつかないほどだ。
「あー、今週もあっちの世界に行くなら早く準備したわよ。絶対あの子たくさん食べるタイプだわ」
女は買った材料を鍋に入れると、適当に醤油や砂糖を入れ味付けをする。計量しなくてもできるのが、主婦歴の長さを物語る。
「これで肉じゃがはいいわね」
「おーい、帰ってきたぞー!」
玄関から男の声が聞こえてきた。きっと女のことを呼んでいるのだろう。
「チッ!」
無視して料理を続けていると、再び女を呼ぶ声が聞こえてくる。男は玄関で何かを言い続けていた。女のイライラは収まらない。
まな板に乗っている魚には、包丁が真っ直ぐに突き刺さっていた。
6
お気に入りに追加
1,186
あなたにおすすめの小説
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう
なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。
だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。
バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。
※他サイトでも掲載しています

現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~
波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。
アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。
自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。
天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。
その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?
初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。
最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!
果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?
目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる