庭にできた異世界で丸儲け。破格なクエスト報酬で社畜奴隷からニートになる。〜投資額に応じたスキルを手に入れると現実世界でも無双していました〜

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139.おい……働けよ!

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 秋晴れの澄み切った空が、頭上一杯を覆っている。
 ひんやりとした涼しい空気が、辺りを埋め尽くしていた。
 蝉の声も絶えて久しく、辺りに響くのは人の放つ歓声のみである。
 その歓声の寄せる中心に、康介は立っていた。
 マウンドから見渡す景色は今日も変わらず、直線上に打者の姿が見えるばかりであった。
 そう、『いつも』と何も変わりはしない。
 キャッチャーのサインにうなずいた後、康介はゆっくりと振り被った。
 『いつも』と変わらず、これまでずっと繰り返して来た通りに。
 指先から、白球が飛び出して行った。
 ホームベースへ向けて、その奥に構えられたミットに向けて、放たれたボールは真っ直ぐに突き進む。
 空気を唸らせて、バットがそこへ食らい付いた。
 周囲から、一際大きな歓声が上がった。
 金属バットが白球をね返すあの甲高い音は、ついに上がらなかった。
 代わって、アウトとチェンジを告げた審判の声がマウンドにまで届いた。
 深く、そして緩やかに息を吐くと、康介は三塁側のダグアウトへと戻って行く。野手も次々と駆けて来る中、康介も小走りになって己の陣地へと帰ったのだった。
 攻守所を変え、野手達はグローブをバットに持ち替えて打席へと向かう。
 その中で一人、奥のベンチにて身を休める康介の下へ、ふと影が差した。顔を上げてみれば、壮年の監督がいつしか目の前に立っていた。
「今の投球は良かったぞ」
「どうも……」
「中継ぎも板に付いて来たな」
 照れと恐縮から思わず目を逸らした康介の前で、壮年の監督は笑顔を浮かべた。
 康介はただ、自分の手先を見つめた。
 つい先程まで白球を握り締めていたその手を、彼は見ていたのである。
 ロジンバッグの白い粉がこびり付いた、誰のものでもない己の手を。
 そうだ。
 これが、この有様こそが本来の自分の姿なのだ。
 そう在るべきなのだ。
 『いつも』通りに振る舞えれば何も問題は無い。
 この腕が、この指先が十全に動けば、結果は必ず付いて来る。
 きっと大丈夫だ。
 きっと。
「いいピッチングだった」
 壮年の監督がそう讃えた時、その背後から快音が届いた。
 康介が顔を上げてみれば、打席を飛び出した打者が一塁を回った所であった。内野の頭上を飛び越えた打球が返って来るまでの間に、走者へと変わった彼は二塁にまで進む。
 康介の周囲は、にわかに盛り上がった。
 壮年の監督も挑戦的な笑みを唇端に湛え、二塁に立つ選手を見遣る。
「いい音したなぁ……」
 日陰の中でも、ベンチは俄然がぜん盛り上がりを見せた。
 その陰の奥から、康介は今も眩い日差しの満ちるグラウンドへ目を向ける。
 輝く光の中に、『あいつ』の姿が浮かび上がっていた。
 二塁を踏み締め、誇るでもなく毅然と構えながら、真っ直ぐにホームベースを見据える透の姿が。
「野手転向は正解だったかな。投げるより打つ方が性に合ってんじゃないか、あいつ」
 壮年の監督が喜色を露わにした。
 その背後で、康介の眼差しが静かに下降して行く。
 康介はただ、己の手を見つめた。
 大丈夫だ。
 このままでも、俺は行ける。
 前へと進める。
 でも……
 日陰の中で、その双眸そうぼうが弱いきらめきを発した。
 その先で、俺はどうする積もりなんだ?
 俺は、『あいつ』を追い越したいのか。
 それとも……
 そこで、康介はむっくりと顔を上げた。
 燦々と降り注ぐ日差しの中に、尚も『あいつ』は立っていた。
 まるで一枚の写真のように、金子透は光の中に立っていたのだった。
 ……『あいつ』に置いて行かれたくないだけなのか。
 ベンチに腰掛けたまま、康介はわずかに肩を落としたのだった。
 試合の白熱した空気とは別に、乾いた風がダグアウトに吹き込んで来た。
 木枯らしの気配を乗せた、冷たい風であった。
 冬が、間近に迫りつつあった。
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