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第一区画
80. 第一区画
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俺は桃乃を追いかけるように穴に潜った。どうやら本当にクリアしているらしい。
【特別クエストお疲れ様でした。今回の報酬を計算します】
どうやら今回受けていたのは、そもそも特別クエストというものだったらしい。
今回の報酬は今までの中でも、かなり命懸けだったため報酬結果が待ち遠しい。
本当に死ぬかと思ったのは今回が初めてだった。
【それでは報酬の発表です。ボスモンスターを撃破しましたので、討伐報酬500万円。そして、森の復興報酬350万円。合計850万円を分割し、一人当たり425万円の報酬となりました】
敵も強かったからか全てが破格の報酬となっていた。これでこそ異世界副業での荒稼ぎだ。
それにしてもなんとなくやった森の復興が、大きな利益になるとは思いもしなかった。
桃乃は俺の方を見てドヤ顔をしていた。
【マジックバックの中身は売却しますか?】
俺は今回は何も売却せずに終える。2つの種も今後どこかしらで使う可能性もあるため、そのまま売らずに持っておくことにした。
【お疲れ様でした。これで第一区画の冒険を終了します。またのご利用をお待ちしております】
俺は桃乃と目を合わせた。お互い言いたいことはわかっている。
「先輩、あのりんごって――」
「第一区画ってなんだ?」
「……」
なぜか桃乃が冷たい顔でこちらを見ていた。
脳内で流れているアナウンスは同じはず……?
なのに気になることは違うようだ。確かりんごって言っていたから、トレントの実を売ったのだろう。
「ももちゃんはどうしたんだ?」
「いや、大丈夫です。それで第一区画ってなんですか?」
「ああ、俺も気になったんだがひょっとしたら区画っていくつもあって、そこに今回のクイーンデスキラーアントみたいなボスモンスターがいるってことじゃないか?」
今回の敵は明らかに今までと違い、あのまま戦っていたら勝てなかっただろう。
たまたま清香さんという女性の心を読み取ることが出来たからこそ、足止めできて倒せたと思っている。
そもそもあの時に見た記憶は何なのか俺にもわからない。突然見えた出来事で俺も戸惑ったぐらいだ。
「とりあえず帰りましょうか」
「そうだな」
「それにしてもこんなに分厚い服を着てこなくてもよかったな」
俺が上着を脱ごうとすると、そこには大きく腹部に穴が空いていた。
「おばさんが寒くなるから来た方が良いって言わなければ、先輩ひょっとしたら今頃は死んでたかも知れないですね」
異世界に行く時に隣に住むおばさんからは寒くなるから着ていきなさいと言われ、着ていくことになったダウンジャケット。
しかし、ダウンの中身でわずかな衝撃を吸収し、腹の中心部ではなく脇腹にずれてクイーンデスキラーアントの脚が刺さったため命には関わらなかったのだろう。
「今度、何か持っていかないといけないな」
特に深く考えずに家に戻った。穴から出ると眩しい日差しに目の疲れを感じる。俺は目を擦ると手には何かが握られていた。
今まで異世界から物を持ってくることができなかったが、なぜか手にはドリアードの種が握られている。
「先輩、どうしました?」
「ああ、なぜか手にドリアードの種が握られていてな」
「そうだ! せっかくの第一区画終了の記念に庭に植えましょうよ」
桃乃の意見に俺は戸惑ったが賛成することにした。
異世界から持って帰って来れたということは、何かしらの理由があるのかも知れない。
ただ、俺はこの庭に何かを植えることをもうしたくなかった。
あの時の記憶がフラッシュバックしそうで正直怖い。一人だけ逃げてきたあの出来事が今もはっきりと覚えている。
「先輩大丈夫ですか?」
桃乃は俺の顔を覗き込んでいた。俺は咄嗟に笑って倉庫に向かった。
中はあの日のまま時が止まっていた。近くに立て掛けてあったスコップを取り出すと桃乃のところへ向かった。
「やっぱ先輩って鋸よりスコップって感じですね」
それは悪口なのだろうか?
それとも褒めていると捉えても良いのだろうか。
そんなことを考えていると桃乃は穴の隣にある土を触っていた。そこだけ土が柔らかくなっていたため、環境としてはちょうどよかったのだ。
「先輩ここがちょうど良さそうですよ」
穴の横に小さく穴を掘り、ドリアードの種を埋める。
またあそこに何かを植えることになるとは思ってもいなかった。
「じゃあ、飯でも食べるかー!」
俺はスコップを倉庫に片付けて玄関に向かい鍵を開けた。やっと休めると思うと気が抜けてきた。
「はい! あっ、今日は私も少し作りますよ」
「おっ、さすがももちゃん!」
どうやら今日はおばさんのおかず以外に桃乃が何かを作ってくれるらしい。
「ただいま」
後を追うように桃乃が家に入ってきた。
いつもはお邪魔しますという声で家に入ってくる彼女は普段とは異なっていた。
「おかえりなさい」
なぜか自然と優しい気持ちになり、言葉が溢れ出る。
ああ、清香さんもこんな風にみんなの帰りをずっと待ってたのかも知れないと思うと自然と涙が頬を伝っていく。
玄関の閉じる音とともに、俺らの異世界副業の荒稼ぎは第一区画の終了とともに幕を閉じた。
♢
ある部屋の一室でモニター越しに女性は様子を見ていた。
「ああ、今回も無事に生き残ったようね」
彼女はボソボソと独り言を話しながらメモを取っているようだ。
「次はどこにしようかな」
近くにあったペンを掴むと壁に向かって投げる。
そこには地図が貼ってあり、ペンは異様な姿で壁に突き刺さっていた。
「ドワーフの国か……ちょうどいいかしら」
彼女はペンを抜きとると、ペンと壁を交互に見ていた。
「あー、壁に穴が空いちゃったわ」
何も考えずに投げたのだろう。ペンが突き刺さるということは、それだけ大きな穴が空いていないと落ちてしまう。
そんな中、誰かから声をかけられていた。
「おい、帰ったぞー!」
「あっ、早く夕飯の支度をしないと」
彼女は近くに置いてあるエプロンをつけキッチンに向かって行く。
【あとがき】
これにて第一章は完結です!
お気に入り登録やコメントを頂けると嬉しいです(*´꒳`*)
【特別クエストお疲れ様でした。今回の報酬を計算します】
どうやら今回受けていたのは、そもそも特別クエストというものだったらしい。
今回の報酬は今までの中でも、かなり命懸けだったため報酬結果が待ち遠しい。
本当に死ぬかと思ったのは今回が初めてだった。
【それでは報酬の発表です。ボスモンスターを撃破しましたので、討伐報酬500万円。そして、森の復興報酬350万円。合計850万円を分割し、一人当たり425万円の報酬となりました】
敵も強かったからか全てが破格の報酬となっていた。これでこそ異世界副業での荒稼ぎだ。
それにしてもなんとなくやった森の復興が、大きな利益になるとは思いもしなかった。
桃乃は俺の方を見てドヤ顔をしていた。
【マジックバックの中身は売却しますか?】
俺は今回は何も売却せずに終える。2つの種も今後どこかしらで使う可能性もあるため、そのまま売らずに持っておくことにした。
【お疲れ様でした。これで第一区画の冒険を終了します。またのご利用をお待ちしております】
俺は桃乃と目を合わせた。お互い言いたいことはわかっている。
「先輩、あのりんごって――」
「第一区画ってなんだ?」
「……」
なぜか桃乃が冷たい顔でこちらを見ていた。
脳内で流れているアナウンスは同じはず……?
なのに気になることは違うようだ。確かりんごって言っていたから、トレントの実を売ったのだろう。
「ももちゃんはどうしたんだ?」
「いや、大丈夫です。それで第一区画ってなんですか?」
「ああ、俺も気になったんだがひょっとしたら区画っていくつもあって、そこに今回のクイーンデスキラーアントみたいなボスモンスターがいるってことじゃないか?」
今回の敵は明らかに今までと違い、あのまま戦っていたら勝てなかっただろう。
たまたま清香さんという女性の心を読み取ることが出来たからこそ、足止めできて倒せたと思っている。
そもそもあの時に見た記憶は何なのか俺にもわからない。突然見えた出来事で俺も戸惑ったぐらいだ。
「とりあえず帰りましょうか」
「そうだな」
「それにしてもこんなに分厚い服を着てこなくてもよかったな」
俺が上着を脱ごうとすると、そこには大きく腹部に穴が空いていた。
「おばさんが寒くなるから来た方が良いって言わなければ、先輩ひょっとしたら今頃は死んでたかも知れないですね」
異世界に行く時に隣に住むおばさんからは寒くなるから着ていきなさいと言われ、着ていくことになったダウンジャケット。
しかし、ダウンの中身でわずかな衝撃を吸収し、腹の中心部ではなく脇腹にずれてクイーンデスキラーアントの脚が刺さったため命には関わらなかったのだろう。
「今度、何か持っていかないといけないな」
特に深く考えずに家に戻った。穴から出ると眩しい日差しに目の疲れを感じる。俺は目を擦ると手には何かが握られていた。
今まで異世界から物を持ってくることができなかったが、なぜか手にはドリアードの種が握られている。
「先輩、どうしました?」
「ああ、なぜか手にドリアードの種が握られていてな」
「そうだ! せっかくの第一区画終了の記念に庭に植えましょうよ」
桃乃の意見に俺は戸惑ったが賛成することにした。
異世界から持って帰って来れたということは、何かしらの理由があるのかも知れない。
ただ、俺はこの庭に何かを植えることをもうしたくなかった。
あの時の記憶がフラッシュバックしそうで正直怖い。一人だけ逃げてきたあの出来事が今もはっきりと覚えている。
「先輩大丈夫ですか?」
桃乃は俺の顔を覗き込んでいた。俺は咄嗟に笑って倉庫に向かった。
中はあの日のまま時が止まっていた。近くに立て掛けてあったスコップを取り出すと桃乃のところへ向かった。
「やっぱ先輩って鋸よりスコップって感じですね」
それは悪口なのだろうか?
それとも褒めていると捉えても良いのだろうか。
そんなことを考えていると桃乃は穴の隣にある土を触っていた。そこだけ土が柔らかくなっていたため、環境としてはちょうどよかったのだ。
「先輩ここがちょうど良さそうですよ」
穴の横に小さく穴を掘り、ドリアードの種を埋める。
またあそこに何かを植えることになるとは思ってもいなかった。
「じゃあ、飯でも食べるかー!」
俺はスコップを倉庫に片付けて玄関に向かい鍵を開けた。やっと休めると思うと気が抜けてきた。
「はい! あっ、今日は私も少し作りますよ」
「おっ、さすがももちゃん!」
どうやら今日はおばさんのおかず以外に桃乃が何かを作ってくれるらしい。
「ただいま」
後を追うように桃乃が家に入ってきた。
いつもはお邪魔しますという声で家に入ってくる彼女は普段とは異なっていた。
「おかえりなさい」
なぜか自然と優しい気持ちになり、言葉が溢れ出る。
ああ、清香さんもこんな風にみんなの帰りをずっと待ってたのかも知れないと思うと自然と涙が頬を伝っていく。
玄関の閉じる音とともに、俺らの異世界副業の荒稼ぎは第一区画の終了とともに幕を閉じた。
♢
ある部屋の一室でモニター越しに女性は様子を見ていた。
「ああ、今回も無事に生き残ったようね」
彼女はボソボソと独り言を話しながらメモを取っているようだ。
「次はどこにしようかな」
近くにあったペンを掴むと壁に向かって投げる。
そこには地図が貼ってあり、ペンは異様な姿で壁に突き刺さっていた。
「ドワーフの国か……ちょうどいいかしら」
彼女はペンを抜きとると、ペンと壁を交互に見ていた。
「あー、壁に穴が空いちゃったわ」
何も考えずに投げたのだろう。ペンが突き刺さるということは、それだけ大きな穴が空いていないと落ちてしまう。
そんな中、誰かから声をかけられていた。
「おい、帰ったぞー!」
「あっ、早く夕飯の支度をしないと」
彼女は近くに置いてあるエプロンをつけキッチンに向かって行く。
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