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第一区画
48. 最弱の敵スライム
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マンホールから地下に降りた俺と桃乃は奥に向かって歩いていた。明らかに体に違和感を覚えるほどの臭いに足は次第に止まっていく。
「めちゃくちゃ臭いな」
外からの臭いでわかっていたことだが、中はかなりの悪臭だ。溜まっている水は魔物や人型の何かが一緒に流れている。
どれも腐敗が進んでおり、全て死体と鑑定表示がされていた。想像していた下水とは全く違う様子だった。
俺達は服を切り裂き、頭の後ろに縛ることで、簡易的なマスクを作った。これで少しは臭いを感じにくいはずだ。ただ、目や鼻の奥を突く痛みは残っている。
「スライムを探すか」
「はい」
俺は桃乃とともに周囲を警戒しながらスライムを探し始めた。
イメージでは有名なゲームのようなプニプニした存在か、アメーバのような得体の知れない形を想定している。
きっと見た瞬間にスライムだとわかる容姿をしているだろう。できれば、プニプニして可愛い姿であればいいが、コボルトが行きたくないと全身で拒否するぐらいだから、きっと後者の形をしていてもおかしくない。
下水道の中はわずかに通る道はあるが、基本的に水が流れる水路になっている。水が多ければほぼ歩くところがない構造だ。
俺達はそんな下水道の縁を壁伝いに中を通っていく。奥に進むたびに、どんどんと悪臭が強くなってくる。
あまりの悪臭に涙が勝手に溢れ出て視界が見にくくなるほどだ。
ちなみに歩いて数分は経っているが、スライムには遭遇していない。
「本当に死体が多いな……」
奥は行き止まりになっているのか、徐々に水のかさが増していた。
「多分、あそこで魔物が詰まっていると思いますよ」
桃乃が指を差したところに目を向けると、魔物の死体が重なり水路を塞いでいた。
流石にこのままでは奥深くには行けないと思い、恐る恐る近くにいた死体に手を触れる。
「やっぱり無理か」
「先輩どうしたんですか?」
「いやー、死体が邪魔だし回収できないかと思ってな」
「やっぱり自分達が倒したやつのみが対象ってことなんですね」
誰が倒したかはっきりしていない死体を見つけたことがなかったため、回収できるか試しに触れてみた。やはり自ら討伐した魔物以外は回収できない仕組みになっている。
俺達がそんな話をしていると、急に視界に変化が訪れた。今でもずっと探し求めていた下水路を歩いていた。
魔物の死体になんとスライムと表示されていたのだ。
「桃乃下がれ!」
俺は咄嗟に後ろに大きくバックステップする。だが、俺の動きに桃乃はついていけてないようだ。
ステータスの差がこういう時に出るのだろう。
俺は桃乃の手を取り、そのまま抱きかかえるように後ろに下がる。
「あわわわ」
桃乃は驚いて口をカクカクとさせていた。個性的な驚き方に笑いそうになるが、今はそれどころではない。
次第に落ち着いた桃乃は声をかけてきた。
「先輩どうしたんですか?」
「あれが何かわかるか?」
「魔物の死体ですよね?」
どうやら桃乃にはスライムの存在が認識出来ていないようだ。
俺が自動鑑定を持っていなければ、今頃スライムに不意を突かれていたかもしれない。
「いや、あそこにスライムがいる」
俺は魔物の死体に指を差すが、それでも桃乃には見えていないのだろう。辺りをキョロキョロと見渡している。
「私が魔法で──」
「いや、ここでは使わないほうがいい」
俺は桃乃が魔法を使うのを止めた。呪文を詠唱しそうだったがどうやら間に合った。
「えっ? なんでですか?」
桃乃にはまだ環境の判断能力が低いようだ。
「とりあえず、地上に出れる場所を探してくれ」
俺は目の前の死体をさらに警戒する。魔物の死体に"スライム"と表示されているが、どれがスライムなのか数もわからない。
「先輩出口がありました」
「よし、そこから出れるか確認してくれ」
俺はその間も魔物の死体であるスライムへの警戒を緩めなかった。まだ向こうも俺達の存在に気づいていないようだ。
「マンホールが重すぎて……少しは浮きますが移動は難しいです」
どうやら少しは動くようだ。それであれば特に問題はない。俺が思いっきり開けてしまえばいい。
「一回ここから離脱する」
「えっ?」
俺は桃乃のところまで向かい、マンホールをおもいっきり押し上げるように突き上げた。
これで逃げる場所の確保が完成だ。
「いつでも逃げられる準備だけしておいて」
俺は桃乃に一言伝えると、再び魔物の死体に近づいた。
「おりゃー!」
スライムと思われる魔物の死体にスコップを大きく叩きつけた。何かわからない魔物の死体だが、こちらから攻撃すれば反応を示すと思ったのだ。
俺の予想は当たっていた。
スコップが当たった衝撃で、死体の口や体の傷口からドロっとした何かが飛び出してきた。その謎の物体に自動鑑定が反応している。
「予想の斜め上を行きすぎるだろ」
そこにはスライムと表示されている謎の物体がいた。直接姿を表したからなのか、さっきよりは認識しやすくなった。
「それにしても気持ち悪いにも限度があるだろ」
スライムは死体に寄生する魔物だった。
「めちゃくちゃ臭いな」
外からの臭いでわかっていたことだが、中はかなりの悪臭だ。溜まっている水は魔物や人型の何かが一緒に流れている。
どれも腐敗が進んでおり、全て死体と鑑定表示がされていた。想像していた下水とは全く違う様子だった。
俺達は服を切り裂き、頭の後ろに縛ることで、簡易的なマスクを作った。これで少しは臭いを感じにくいはずだ。ただ、目や鼻の奥を突く痛みは残っている。
「スライムを探すか」
「はい」
俺は桃乃とともに周囲を警戒しながらスライムを探し始めた。
イメージでは有名なゲームのようなプニプニした存在か、アメーバのような得体の知れない形を想定している。
きっと見た瞬間にスライムだとわかる容姿をしているだろう。できれば、プニプニして可愛い姿であればいいが、コボルトが行きたくないと全身で拒否するぐらいだから、きっと後者の形をしていてもおかしくない。
下水道の中はわずかに通る道はあるが、基本的に水が流れる水路になっている。水が多ければほぼ歩くところがない構造だ。
俺達はそんな下水道の縁を壁伝いに中を通っていく。奥に進むたびに、どんどんと悪臭が強くなってくる。
あまりの悪臭に涙が勝手に溢れ出て視界が見にくくなるほどだ。
ちなみに歩いて数分は経っているが、スライムには遭遇していない。
「本当に死体が多いな……」
奥は行き止まりになっているのか、徐々に水のかさが増していた。
「多分、あそこで魔物が詰まっていると思いますよ」
桃乃が指を差したところに目を向けると、魔物の死体が重なり水路を塞いでいた。
流石にこのままでは奥深くには行けないと思い、恐る恐る近くにいた死体に手を触れる。
「やっぱり無理か」
「先輩どうしたんですか?」
「いやー、死体が邪魔だし回収できないかと思ってな」
「やっぱり自分達が倒したやつのみが対象ってことなんですね」
誰が倒したかはっきりしていない死体を見つけたことがなかったため、回収できるか試しに触れてみた。やはり自ら討伐した魔物以外は回収できない仕組みになっている。
俺達がそんな話をしていると、急に視界に変化が訪れた。今でもずっと探し求めていた下水路を歩いていた。
魔物の死体になんとスライムと表示されていたのだ。
「桃乃下がれ!」
俺は咄嗟に後ろに大きくバックステップする。だが、俺の動きに桃乃はついていけてないようだ。
ステータスの差がこういう時に出るのだろう。
俺は桃乃の手を取り、そのまま抱きかかえるように後ろに下がる。
「あわわわ」
桃乃は驚いて口をカクカクとさせていた。個性的な驚き方に笑いそうになるが、今はそれどころではない。
次第に落ち着いた桃乃は声をかけてきた。
「先輩どうしたんですか?」
「あれが何かわかるか?」
「魔物の死体ですよね?」
どうやら桃乃にはスライムの存在が認識出来ていないようだ。
俺が自動鑑定を持っていなければ、今頃スライムに不意を突かれていたかもしれない。
「いや、あそこにスライムがいる」
俺は魔物の死体に指を差すが、それでも桃乃には見えていないのだろう。辺りをキョロキョロと見渡している。
「私が魔法で──」
「いや、ここでは使わないほうがいい」
俺は桃乃が魔法を使うのを止めた。呪文を詠唱しそうだったがどうやら間に合った。
「えっ? なんでですか?」
桃乃にはまだ環境の判断能力が低いようだ。
「とりあえず、地上に出れる場所を探してくれ」
俺は目の前の死体をさらに警戒する。魔物の死体に"スライム"と表示されているが、どれがスライムなのか数もわからない。
「先輩出口がありました」
「よし、そこから出れるか確認してくれ」
俺はその間も魔物の死体であるスライムへの警戒を緩めなかった。まだ向こうも俺達の存在に気づいていないようだ。
「マンホールが重すぎて……少しは浮きますが移動は難しいです」
どうやら少しは動くようだ。それであれば特に問題はない。俺が思いっきり開けてしまえばいい。
「一回ここから離脱する」
「えっ?」
俺は桃乃のところまで向かい、マンホールをおもいっきり押し上げるように突き上げた。
これで逃げる場所の確保が完成だ。
「いつでも逃げられる準備だけしておいて」
俺は桃乃に一言伝えると、再び魔物の死体に近づいた。
「おりゃー!」
スライムと思われる魔物の死体にスコップを大きく叩きつけた。何かわからない魔物の死体だが、こちらから攻撃すれば反応を示すと思ったのだ。
俺の予想は当たっていた。
スコップが当たった衝撃で、死体の口や体の傷口からドロっとした何かが飛び出してきた。その謎の物体に自動鑑定が反応している。
「予想の斜め上を行きすぎるだろ」
そこにはスライムと表示されている謎の物体がいた。直接姿を表したからなのか、さっきよりは認識しやすくなった。
「それにしても気持ち悪いにも限度があるだろ」
スライムは死体に寄生する魔物だった。
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