26 / 156
第一区画
26. 最近仲が良いですね?
しおりを挟む
最近は部長の嫌がらせを回避しながら、普段と同様に仕事をしていた。というよりは自身の仕事スピードが早くなって、部長から任される仕事もそこまで負担に感じなくなってきている。
「桃乃くんちょっといいかな?」
今日もあいつは桃乃を当たり散らかす予定だろう。俺は咄嗟に部長のオーラを感じ取り、デスクに準備していた資料を持って立ち上がった。
「あっ、部長! 資料の確認お願いします! デスクに置いておきますね」
俺は笑みを浮かべながらデスクに資料を置いていく。
早くその仕事を始めないと定時に帰れなくなる量を毎回一気にデスクに置いていくのが最近の日課だ。
以前なら俺が終業に間に合わず、部長が帰ってからデスクに置いていたため、次の日の朝に確認してもらうことが多かった。
それを早めに置くことで仕事を残しておきたくない部長は必死にやっていた。
これが俺の最近の楽しみになっている。今まで散々こき使った仕返しだ。
それでもちゃんと部長の仕事をこなしている俺を褒めてもらいたいぐらいだ。
「服部! またお前は一気に持ってきやがって……定時に帰れないじゃないか」
「部長、まだ時間はありますよ」
俺が嫌味を込めて言うと、部長は資料を読み始めた。
俺ならそんなに時間もかからないが、部長ならあの量だと1時間はかかるだろう。定時まであと1時間は切っている。
これで部長の残業は確定だ。
「部長……要件は?」
「ああ、別に大丈夫だ。戻れ!」
桃乃は部長の前まで来たのに、あっちに行けと手をひらひらと振られていた。今日も無事に桃乃を守ることができた。
「ちょっと、休憩してきます」
俺は桃乃とともにデスクに戻るわけでもなく、オフィスから離れた。
自動販売機の前に休憩しにきたのだ。最近はこのパターンであのオフィスから逃げている。
「ははは、またやってやったぜ」
俺が桃乃に向かって笑うと桃乃も笑っていた。
「先輩助かりました!」
「ももちゃんもすまないな」
俺が出来るのはこれぐらいしかないと、自身の無力さに落ち込みそうだ。
部長をあの席から引きずり下ろせばどうにかなるが、昔からのコネと上司に対する愛想だけは評判良いらしい。伊達に部長をやっているわけではない。
俺は能力を全く見ないこの会社にも嫌気がさしていた。年功序列、上司への機嫌取りは当たり前で、同僚が辞めていくのが理解できる。
そろそろ時間も作ることができたため、転職活動をするタイミングなんだろう。
「先輩、今日飲みにいきませんか?」
「ああ、今日はいつも頑張っているももちゃんのために奢ってあげよう」
俺は桃乃にコーヒーを渡した。桃乃も最近疲れ切っているのだろう。俺に出来ることはこれぐらいしかない。
お金ならこの間、庭にできた異世界である程度稼いでいるからな。
「そうかそうか。今日はお前の奢りなんだな」
後ろから誰かが俺の肩を叩いている。この声に明るいオーラは奴しかいない。
「笹寺は自分で払えよ?」
俺の肩を叩いていたのは笹寺だった。そもそも、明るいオーラで俺に対して友好的なのは会社の中でこの二人ぐらいだ。
「なっ、俺も奢ってくれよ! お前この間稼いでいるって言ってたじゃないか」
なぜか俺の懐事情に敏感だ。庭の異世界について話したことはないはず……。
「俺って何か言ったか?」
笹寺を見ると何とも言えない表情をしていた。
話してもいないのに「何を言っているんだ?」と言っているようだ。
俺は必死に思考を加速して過去を振り返る。
「この前もETFを買い増ししたって言ってたよな?」
「ああ、そうだったな」
本当に庭の異世界について話したのかと思ってヒヤヒヤした。俺に好意を寄せている二人には話してもいいかもしれないが、流石に頭のおかしいやつって認識されるだろう。
「最近業績をあげているやつに言われたくないな」
総務部は営業部からの仕事も回って来るから、俺も笹寺の業績も把握済みだ。
「チクショー! まぁ、俺も混ぜてくれよ! ももちゃんいいだろう?」
なぜか笹寺まで桃乃をももちゃんと呼んでいた。いつの間にか距離感が近くなっていた。
もしかしたら二人は付き合っているのだろうか。
お互い気があるのなら俺はひっそりと帰ることも視野に入れないといけない。
「じゃあ、今日何時に集合にしようか……?」
「営業は何時に終わるんだ?」
俺達は時間の都合を合わせられるが、営業に出ている笹寺は営業の時間によって退社時間が異なる。そのため、笹寺に合わせた方が時間の都合は良いだろう。
「あー、今日は特に営業もないから俺も定時に帰れるぞ」
「ももちゃんはどう?」
俺は定時に帰れるがあとの問題は桃乃だった。部長に任される仕事の量によっては異なる。
「あー、今日は先輩のおかげで部長の仕事はないので大丈夫ですよ」
俺のナイスアシストで桃乃の仕事が増えずに済んだのだろう。
「はぁん? あいつ今度はももちゃんに仕事振ってるのか?」
桃乃の話を聞き笹寺は怒っていた。やっぱりこいつもいい奴だ。
「じゃあ、定時に玄関集合でいいか?」
「オッケー」
俺達は日頃の鬱憤を晴らすために、飲み会の予定を立ててオフィスに戻るのだった。
俺達が戻った時には真っ黒な闇のオーラを放つ部長がこちらを睨んでいた。彼は仕事を終わらせるのに必死に作業をしていたのだろう。
俺と桃乃は笑いが止まらなかった。
「桃乃くんちょっといいかな?」
今日もあいつは桃乃を当たり散らかす予定だろう。俺は咄嗟に部長のオーラを感じ取り、デスクに準備していた資料を持って立ち上がった。
「あっ、部長! 資料の確認お願いします! デスクに置いておきますね」
俺は笑みを浮かべながらデスクに資料を置いていく。
早くその仕事を始めないと定時に帰れなくなる量を毎回一気にデスクに置いていくのが最近の日課だ。
以前なら俺が終業に間に合わず、部長が帰ってからデスクに置いていたため、次の日の朝に確認してもらうことが多かった。
それを早めに置くことで仕事を残しておきたくない部長は必死にやっていた。
これが俺の最近の楽しみになっている。今まで散々こき使った仕返しだ。
それでもちゃんと部長の仕事をこなしている俺を褒めてもらいたいぐらいだ。
「服部! またお前は一気に持ってきやがって……定時に帰れないじゃないか」
「部長、まだ時間はありますよ」
俺が嫌味を込めて言うと、部長は資料を読み始めた。
俺ならそんなに時間もかからないが、部長ならあの量だと1時間はかかるだろう。定時まであと1時間は切っている。
これで部長の残業は確定だ。
「部長……要件は?」
「ああ、別に大丈夫だ。戻れ!」
桃乃は部長の前まで来たのに、あっちに行けと手をひらひらと振られていた。今日も無事に桃乃を守ることができた。
「ちょっと、休憩してきます」
俺は桃乃とともにデスクに戻るわけでもなく、オフィスから離れた。
自動販売機の前に休憩しにきたのだ。最近はこのパターンであのオフィスから逃げている。
「ははは、またやってやったぜ」
俺が桃乃に向かって笑うと桃乃も笑っていた。
「先輩助かりました!」
「ももちゃんもすまないな」
俺が出来るのはこれぐらいしかないと、自身の無力さに落ち込みそうだ。
部長をあの席から引きずり下ろせばどうにかなるが、昔からのコネと上司に対する愛想だけは評判良いらしい。伊達に部長をやっているわけではない。
俺は能力を全く見ないこの会社にも嫌気がさしていた。年功序列、上司への機嫌取りは当たり前で、同僚が辞めていくのが理解できる。
そろそろ時間も作ることができたため、転職活動をするタイミングなんだろう。
「先輩、今日飲みにいきませんか?」
「ああ、今日はいつも頑張っているももちゃんのために奢ってあげよう」
俺は桃乃にコーヒーを渡した。桃乃も最近疲れ切っているのだろう。俺に出来ることはこれぐらいしかない。
お金ならこの間、庭にできた異世界である程度稼いでいるからな。
「そうかそうか。今日はお前の奢りなんだな」
後ろから誰かが俺の肩を叩いている。この声に明るいオーラは奴しかいない。
「笹寺は自分で払えよ?」
俺の肩を叩いていたのは笹寺だった。そもそも、明るいオーラで俺に対して友好的なのは会社の中でこの二人ぐらいだ。
「なっ、俺も奢ってくれよ! お前この間稼いでいるって言ってたじゃないか」
なぜか俺の懐事情に敏感だ。庭の異世界について話したことはないはず……。
「俺って何か言ったか?」
笹寺を見ると何とも言えない表情をしていた。
話してもいないのに「何を言っているんだ?」と言っているようだ。
俺は必死に思考を加速して過去を振り返る。
「この前もETFを買い増ししたって言ってたよな?」
「ああ、そうだったな」
本当に庭の異世界について話したのかと思ってヒヤヒヤした。俺に好意を寄せている二人には話してもいいかもしれないが、流石に頭のおかしいやつって認識されるだろう。
「最近業績をあげているやつに言われたくないな」
総務部は営業部からの仕事も回って来るから、俺も笹寺の業績も把握済みだ。
「チクショー! まぁ、俺も混ぜてくれよ! ももちゃんいいだろう?」
なぜか笹寺まで桃乃をももちゃんと呼んでいた。いつの間にか距離感が近くなっていた。
もしかしたら二人は付き合っているのだろうか。
お互い気があるのなら俺はひっそりと帰ることも視野に入れないといけない。
「じゃあ、今日何時に集合にしようか……?」
「営業は何時に終わるんだ?」
俺達は時間の都合を合わせられるが、営業に出ている笹寺は営業の時間によって退社時間が異なる。そのため、笹寺に合わせた方が時間の都合は良いだろう。
「あー、今日は特に営業もないから俺も定時に帰れるぞ」
「ももちゃんはどう?」
俺は定時に帰れるがあとの問題は桃乃だった。部長に任される仕事の量によっては異なる。
「あー、今日は先輩のおかげで部長の仕事はないので大丈夫ですよ」
俺のナイスアシストで桃乃の仕事が増えずに済んだのだろう。
「はぁん? あいつ今度はももちゃんに仕事振ってるのか?」
桃乃の話を聞き笹寺は怒っていた。やっぱりこいつもいい奴だ。
「じゃあ、定時に玄関集合でいいか?」
「オッケー」
俺達は日頃の鬱憤を晴らすために、飲み会の予定を立ててオフィスに戻るのだった。
俺達が戻った時には真っ黒な闇のオーラを放つ部長がこちらを睨んでいた。彼は仕事を終わらせるのに必死に作業をしていたのだろう。
俺と桃乃は笑いが止まらなかった。
23
お気に入りに追加
1,186
あなたにおすすめの小説


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

ダンジョンが出来た世界でお金儲けをする⁉︎
ガチ中のガチ
ファンタジー
ある日、現実世界にダンジョンが出来た。ダンジョンは世界各国に無造作にできた。もちろん日本にもできた。ダンジョンに入り、モンスターを倒すと16歳以上の人間には、特別な力『スキル』が、貰える。その『スキル』にも、戦うためのもの、又は、ものをつくるためのものがある。そんな中、主人公は『生産の神』というスキルを使って様々な方法で大儲けする。
カクヨム および 小説家になろう にも同時連載しております
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

寝て起きたら世界がおかしくなっていた
兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる