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第四章
129.NPC、幽霊に会う
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「もう行っちゃうんですか?」
「まだあそびたりないよ?」
ベンとルーは名残惜しいのか、俺にくっついて離れようとしない。
「一旦帰宅するだけだから大丈夫だぞ?」
さすがにこのままずっとこの町にいたら、家出息子だとバビットに怒られるだろう。
前に伝えていた日よりもすでに数日過ぎているからな。
「兄ちゃんも寂しいぞー?」
「アランはベンとルーに相手してもらえず寂しいんだろ?」
「それもそうだな。出来損ないの兄だからな……」
アランって思ったよりもめんどくさい性格をしているようだ。
あれから訓練は毎日のように続き、今後の課題も伝えている。
才能も兄弟で異なり、アランは剣士、ベンは魔法使い、ルーは斥候に向いていることがわかった。
その他はあまり変わらないが、着々と社畜に近づいている気がする。
「また戻ってくるから、数日は店をよろしくな」
「イエッサアアァァァ!」
返事からして社畜の魂は受け継いでいるようだ。
向いている職業がわかっても、みんな社畜を目指しているからな。
「いい返事だな!」
返事は社会に出たら当たり前だからな。
こんな俺でも生きている時に、最近の新入社員はあいさつや返事すらまともにできないやつが多いとテレビで見た。
そんなやつらにならないように教育は必要だ。
店も店主達と三兄弟で役割分担すれば営業もできるから、こいつらともお別れだろう。
「ヴァイト、助かったな」
グスタフは一冊の本を手渡してきた。
【鑑定結果】
アイテム名:洋食のレシピ
効果:レシピを覚えることで、上級職洋食技匠に転職することができる。
どうやら転職方法にも色々な方法があるようだ。
「また戻ってこいよ」
「勝手に弟子にしたからな」
その後もハンから中華のレシピ、サトウから和食のレシピを受け取った。
どちらも炎匠、薬膳料理人に転職できるようだ。
これで帰ってもバビットには怒られずに済みそうだな。
「みんな大袈裟ですよ」
この町までキシャで数時間で着くのに、こんなに見送ってもらえるとは思いもしなかった。
「では、行ってきます!」
「またねー!」
関わった人達にあいさつをして、家族が待つ家に帰ることにした。
あいさつを済ませて、外に出るとすぐに何かが勢いよく走ってくる。
「魔物か!?」
門番の人達が警戒を強めているが、特に問題はないだろう。
「俺の友達なので大丈夫ですよ」
だって俺の移動手段が近づいているだけだからな。
『キシャアアアアアアアア!』
あれ?
本当に大丈夫なんだろうか。
牙を剥き出しにして怒っているような気がする。
「ごめんごめん、少し忙しくてな」
到着するやいなや頭突きを繰り返す。
――ボスッ! ボスッ!
鈍い音が響いている。
これは寂しかったのか、それとも怒って頭突きをしているのかどちらなんだろう。
『キシャ! キシャアアア!』
ただ、途中でスリスリしている気もする。
しばらく外に出ていなかったから、キシャの存在を忘れていた。
いつも森の中で隠れたり、擬態して過ごしていたのだろう。
何も言わずに放ったらかしにしていたら、怒るのは仕方ない。
そういえば俺の精霊も放ったらかしにしていたな。
縄が解けていないか心配だ。
『キシャシャ? キシャー!』
俺はキシャを宥めるといつものように頭の上に乗る。
もちろん俺はいつものようにヴァイルを肩車している。
「ご迷惑をおかけしました」
門番にあいさつをして、今度こそ本当に家に向かうことにした。
「ボス……私を置いていくなんてひどいですわ……」
どこかで女の声が聞こえたが何か忘れているのだろうか。
キシャの上で優雅に旅をしていると、ヴァイルが何かに気づいたようだ。
「ちゃちく、あれにゃに?」
どこか洞窟のような姿に俺達は目を合わせる。
以前、ヴァイルが誘拐されていた時にいた洞窟にどことなく似ていたからだ。
また山賊か何かのアジトだろうか。
「中に入るか?」
「んー、ちゃんけんちゅる!」
「様子だけ見に行くか」
ゆっくりと洞窟の中に足を踏み入れると、突然声のようなものが聞こえてきた。
『ちょ……久しぶりで準備できていないってば!』
誰かがいるのかと思い警戒を強める。
だが、どこにも人がいる気配がない。
「おーい、誰かいるのか?」
「いりゅのー?」
洞窟内に静かに声が響く。
帰ってくるのは俺達の声だけだ。
足音が聞こえるわけでもなく、俺達が動かなければ何も聞こえてこない。
『ゴホン! えー、ダンジョンへよう――』
「何もないから帰るか!」
「しょうだね!」
誰もいないため俺達は帰ることにした。
早く帰らないとバビットに怒られるからな。
『うぉーい! 久しぶりに誰か来てくれたのに帰らないでよー!』
やっぱり声が聞こえてくる。
洞窟の中だからどことなく寒気がしたのかと思った。
だが、まさか幽霊がいるとは誰も思わないだろう。
チラッとヴァイルの顔を見ると、ヴァイルもこっちを見ている。
「聞こえたか?」
「うん……」
やはりヴァイルも聞こえていた。
どうやら空耳ではないようだ。
微かに震えているヴァイルを抱きかかえる。
『ダンジョン攻略で――』
俺はすぐに走り出した。
さすがに幽霊に取り憑かれるのは嫌だからな。
『待ってよおおおおおおおお!』
ほら、今も俺達を呪おうとしている。
呪術師になれても、霊媒師ではないからな。
恐怖を感じた俺達は洞窟を進むこともなく、キシャの元へ戻った。
『ぐすん……またひとりぼっちだよ……』
「まだあそびたりないよ?」
ベンとルーは名残惜しいのか、俺にくっついて離れようとしない。
「一旦帰宅するだけだから大丈夫だぞ?」
さすがにこのままずっとこの町にいたら、家出息子だとバビットに怒られるだろう。
前に伝えていた日よりもすでに数日過ぎているからな。
「兄ちゃんも寂しいぞー?」
「アランはベンとルーに相手してもらえず寂しいんだろ?」
「それもそうだな。出来損ないの兄だからな……」
アランって思ったよりもめんどくさい性格をしているようだ。
あれから訓練は毎日のように続き、今後の課題も伝えている。
才能も兄弟で異なり、アランは剣士、ベンは魔法使い、ルーは斥候に向いていることがわかった。
その他はあまり変わらないが、着々と社畜に近づいている気がする。
「また戻ってくるから、数日は店をよろしくな」
「イエッサアアァァァ!」
返事からして社畜の魂は受け継いでいるようだ。
向いている職業がわかっても、みんな社畜を目指しているからな。
「いい返事だな!」
返事は社会に出たら当たり前だからな。
こんな俺でも生きている時に、最近の新入社員はあいさつや返事すらまともにできないやつが多いとテレビで見た。
そんなやつらにならないように教育は必要だ。
店も店主達と三兄弟で役割分担すれば営業もできるから、こいつらともお別れだろう。
「ヴァイト、助かったな」
グスタフは一冊の本を手渡してきた。
【鑑定結果】
アイテム名:洋食のレシピ
効果:レシピを覚えることで、上級職洋食技匠に転職することができる。
どうやら転職方法にも色々な方法があるようだ。
「また戻ってこいよ」
「勝手に弟子にしたからな」
その後もハンから中華のレシピ、サトウから和食のレシピを受け取った。
どちらも炎匠、薬膳料理人に転職できるようだ。
これで帰ってもバビットには怒られずに済みそうだな。
「みんな大袈裟ですよ」
この町までキシャで数時間で着くのに、こんなに見送ってもらえるとは思いもしなかった。
「では、行ってきます!」
「またねー!」
関わった人達にあいさつをして、家族が待つ家に帰ることにした。
あいさつを済ませて、外に出るとすぐに何かが勢いよく走ってくる。
「魔物か!?」
門番の人達が警戒を強めているが、特に問題はないだろう。
「俺の友達なので大丈夫ですよ」
だって俺の移動手段が近づいているだけだからな。
『キシャアアアアアアアア!』
あれ?
本当に大丈夫なんだろうか。
牙を剥き出しにして怒っているような気がする。
「ごめんごめん、少し忙しくてな」
到着するやいなや頭突きを繰り返す。
――ボスッ! ボスッ!
鈍い音が響いている。
これは寂しかったのか、それとも怒って頭突きをしているのかどちらなんだろう。
『キシャ! キシャアアア!』
ただ、途中でスリスリしている気もする。
しばらく外に出ていなかったから、キシャの存在を忘れていた。
いつも森の中で隠れたり、擬態して過ごしていたのだろう。
何も言わずに放ったらかしにしていたら、怒るのは仕方ない。
そういえば俺の精霊も放ったらかしにしていたな。
縄が解けていないか心配だ。
『キシャシャ? キシャー!』
俺はキシャを宥めるといつものように頭の上に乗る。
もちろん俺はいつものようにヴァイルを肩車している。
「ご迷惑をおかけしました」
門番にあいさつをして、今度こそ本当に家に向かうことにした。
「ボス……私を置いていくなんてひどいですわ……」
どこかで女の声が聞こえたが何か忘れているのだろうか。
キシャの上で優雅に旅をしていると、ヴァイルが何かに気づいたようだ。
「ちゃちく、あれにゃに?」
どこか洞窟のような姿に俺達は目を合わせる。
以前、ヴァイルが誘拐されていた時にいた洞窟にどことなく似ていたからだ。
また山賊か何かのアジトだろうか。
「中に入るか?」
「んー、ちゃんけんちゅる!」
「様子だけ見に行くか」
ゆっくりと洞窟の中に足を踏み入れると、突然声のようなものが聞こえてきた。
『ちょ……久しぶりで準備できていないってば!』
誰かがいるのかと思い警戒を強める。
だが、どこにも人がいる気配がない。
「おーい、誰かいるのか?」
「いりゅのー?」
洞窟内に静かに声が響く。
帰ってくるのは俺達の声だけだ。
足音が聞こえるわけでもなく、俺達が動かなければ何も聞こえてこない。
『ゴホン! えー、ダンジョンへよう――』
「何もないから帰るか!」
「しょうだね!」
誰もいないため俺達は帰ることにした。
早く帰らないとバビットに怒られるからな。
『うぉーい! 久しぶりに誰か来てくれたのに帰らないでよー!』
やっぱり声が聞こえてくる。
洞窟の中だからどことなく寒気がしたのかと思った。
だが、まさか幽霊がいるとは誰も思わないだろう。
チラッとヴァイルの顔を見ると、ヴァイルもこっちを見ている。
「聞こえたか?」
「うん……」
やはりヴァイルも聞こえていた。
どうやら空耳ではないようだ。
微かに震えているヴァイルを抱きかかえる。
『ダンジョン攻略で――』
俺はすぐに走り出した。
さすがに幽霊に取り憑かれるのは嫌だからな。
『待ってよおおおおおおおお!』
ほら、今も俺達を呪おうとしている。
呪術師になれても、霊媒師ではないからな。
恐怖を感じた俺達は洞窟を進むこともなく、キシャの元へ戻った。
『ぐすん……またひとりぼっちだよ……』
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