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第三章 新しい仲間達

122.NPC、久しぶりの鬼畜訓練

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 今日も冒険者ギルドは朝から賑わっていた。

 ほとんどがギルドの依頼を受けにきた人達ばかりのようだ。

 これなら裏手にある訓練場を使う人も少ないだろう。

 そもそも、ここにいる人達が訓練場を使うかもわからない。

 建物の形状からして、そこまで大きな訓練場は用意されていないはず。

「ちゃちく、るーがいないよ?」

「アランはどこだ?」

「兄さん? さっきまで後ろにいたはずだけど……」

 人混みでも肩車をしているヴァイルからは、ルーの姿は見えるはず。

 それなのにいないということは、肩車をやめたのか他に理由があったことになる。

――ドン!

 突然、何かが壁にぶつかる音が聞こえてきた。

 周囲は静かになり、声がはっきりと聞こえてくる。

「おいおい、俺達の荷物持ちをするのがお前の仕事だろ!」

「ルーはヴァイトさんのところに行っておいで」

 声からしてアランが誰かに絡まれているのだろう。

「ちょっとヴァイルを頼む!」

 ヴァイルをベンの肩に乗せる。

「べんべん、よろちく!」

 いつもと違う高さにヴァイルは楽しそうにしている。

 ベンぐらいの体格なら、肩車ぐらいはできそうだから問題ないな。

「あれ? ヴァイトさんどこ?」

 俺は人混みの間を抜けて近づいていく。

「おい、俺の荷物持ちの分際で無視するとは――」

「おい、こいつは俺の社畜見習いバイトニストベイビーだが」

 今にもアランを殴りそうな男の手を止める。

 うん、思ったよりもここの冒険者の力は強くなさそうだ。

 これなら魔法使いのジェイドの方が力が強い気がする。

 あの人は性格が変わってから体も強くなったからな。

「てめぇ、何様だ。俺はパーティーメンバーに声をかけただけだ」

「はぁん? 俺はブラック企業のパワハラ上司様だ」

 周囲は静かになると、すぐに笑い声に包まれた。

「くくく、お前頭おかしいんじゃないか」
「全く何を言ってるかわからないぜ」
「やっぱり貧乏人の上司も頭の中が貧乏なんだな」

 これってバカにされているんだよな?

 冒険者って何かやってはいけないルールってあったっけ?

 俺は別にバカにされても構わない。

 だが、全世界のブラック企業のパワハラ上司をバカにするのは許せない。

 あの頭が弱いユーマが、せっかく俺に合った言葉を知識がない頭から、捻り出して教えてくれたからな。

「ヴァイト、その手を放した方が良い。彼らはここのギルドでも強い人達だ」

「ははは、さすが荷物持ちはわかっているじゃないか」

 どうやらアランが生きてこられたのはパーティーメンバーではなく、こいつらの荷物持ちをしていたからだ。

 それに兄弟には知られたくなかったのだろう。

 荷物持ちという言葉に反応して、眉間にシワが寄り、口元が無理に笑おうと引き攣っている。

 その笑みは明らかに不自然で、唇は微かに震えている。

「兄ちゃん?」

 ルーに呼ばれても、アランは一向に視線を合わせようとしない。

 握り込まれた拳はまるでミシミシと音が鳴っているようだ。

「兄ちゃんは……荷物持ちじゃないもん!」

「おい、ルー!」

「お前なんか兄ちゃんのお荷物――」

「うるせーガキだな!」

 再び男は手を振り上げた。

 あいつはルーを殴る気だろうか。

 アランはそんなルーを守ろうと、すぐに抱きかかえる。

 だが、弟を守るには戦う力がないと守れない。

「やっぱりお前って良い兄ちゃんだな」

 それでも弟を一番に守ろうとしたところは評価できる。

 さすが社畜見習いバイトニストベイビーだな。

 俺はその場で男の腕を掴み一捻りする。

 関節技?

 いや、こんな男は腕の一本ぐらい折っても構わない。

「うわああああああ!」

 大きな声が冒険者ギルドに響く。

 すぐに冒険者ギルドの中が騒然となる。

 そりゃー、さっきまで静かにして周囲が様子を伺っていたからな。

 それに階段から急いで降りてくるギルドマスターが見えている。

「お前何してくれたんだ!」

 仲間の二人がすぐに武器を構えた。

 一人は剣士で、もう一人は杖を持っているから魔法使いだろう。

「それで冒険者なのか」

 剣を構えてから攻撃に移るモーションも遅いし、魔法使いなんて詠唱をしている。

 そんなに遅いと、攻撃されて一瞬で終わりだ、

 すぐに剣を奪い取ると、剣士の首元に剣を押し当てる。

「それ以上詠唱を続けると死ぬよ?」

 その間に魔法使いの周囲には、魔法をいくつか展開しておいた。

 詠唱するほど時間が無駄なことはないし、動きながらも詠唱できない魔法使いはいらない。

 そんなことエリックが昔から言ってた。

 あいつは魔法を発動しながら、呪いまでかけて逃げられなくするからな。

 まぁ、俺は呪い返しするからどうってことない。

「俺達が悪かった」

「剣を下ろしてくれ」

 魔法使いはその場で詠唱をやめた。

「お前らそんなんだと死ぬぞ?」

 それで助けてもらえると思ったら間違いだ。

 可愛いヴァイルの友達を殴ろうとしたのを俺が許すわけがない。

 それに大事な従業員だからな。

 俺はそのまま剣を剣士の足元に突き刺し、魔法使いには魔法をぶつけた。

 冒険者ギルド内には男達の叫び声が響く。

「おい、ヴァイト! お前は何をしでかしたかわかってるのか!」

 近くで見ていたギルドマスターが、顔色を変えてやってきた。

 なんかめちゃくちゃ怒っているな。 

「何って普通に訓練だよ?」

「これのどこが訓練なんだ!」

 すぐに聖職者のスキルを発動させる。

 これぐらいの傷で文句を言われたらたまったもんじゃない。

 骨折なんてすぐにくっつくし、傷は一瞬にして治る。

 普段は痛みを感じる前に発動させるが、こいつらには少し痛い目を見てもらわないといけない。

 怪我が治ったのに怯えた顔をしている男達三人。

 むしろアラン達にもトレーニングの一貫として、やってもらうつもりだったがダメなのか?

「何言ってるんだ……」

「いや、これぐらい朝飯前だぞ?」

 実際にこれって朝飯前にチェリーやヴァイルとやっていた。

 時折、師匠達も混ざってみんなでワイワイとしているのが当たり前だったぞ?
 
「ヴァイルだって普通に避けられるよ?」

「しょーだよ! まふぉーのおにごっこたのちいよ?」

 後からやってきたヴァイルはベンの上から、俺の肩に乗り移ってきた。

 やはり俺の肩がちょうど良いのかな。

「あとひゃっかいはやりゃないとね!」

「おー、さすが俺の弟だな」

 俺のことをよくわかっている弟の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めている。

 だが、冒険者ギルドにいた人達は違う意味で目を細めていた。
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