上 下
113 / 150
第三章 新しい仲間達

113.NPC、変人扱いされる ※一部ギルドマスター視点

しおりを挟む
 魔物から魔石を回収すると、魔物の死体はユーマ達がインベントリに放り投げていく。

 周囲に転がっていた魔物は全て消え去り、血だらけの俺達が残っていた。

「あっ、今綺麗にするからな」

 解体師のスキルを使って、汚くなった体をすぐに綺麗にする。

 瞬間的にお風呂に入った心地で、スッキリとするため解体師として一番重要な魔法だろう。

 そんな姿に町から来た冒険者達は驚いた表情をしていた。

 実際に口を開けて、ポカーンとしている人は少なくない。

「綺麗にしてほしいのかな?」

「いや、さすがに違うと思うぞ」

「なんかユーマには言われたくないな」

「しょーだしょーだ!」

 頭の上にいるヴァイルもそう言っている。

 実際何に驚いているのだろうか。

「ひょっとして……あなた達は勇者様ですか?」

 ああ、勇者の存在に驚いていたのか。

 こんなバカでも勇者だからな。

 今も隣でジーッと俺の顔を見ているが、まだ声には出していないぞ。

「俺は社畜バイトニストだ」

社畜バイトニスト?」

 男は首を傾げていたが、そんなにおかしなことを言っているのだろうか。

 これでバビットやジェイドは納得していたはずだが、知らない人には伝わらないのか。

「ははは、勇者は俺達三人だ。こいつは食事処の従業員って言った方が伝わりやすいか?」

 珍しくユーマがフォローしてくれた。

 どうやって伝えれば良いのか迷っていたのがバレたようだ。

 どこかムカつくが仕方ない。

「食事処の従業……員? それにしては魔石だけを取り出すのが上手な気もするが……」

 解体師として魔石を取り出していたのが、さらに疑問を抱かせてしまったようだ。

「ギルド前にあるお店で働いているので、ぜひ立ち寄ってください。では、失礼します」

「おっ……おう」

 ついでにお店の宣伝もしておけば、今後に繋がりそうだから問題ない。

 社畜バイトニストについて聞かれても、職場体験中の人としか答えられないからな。

 俺達は訓練を終えて町に戻ることにした。

 冒険者達にジロジロと見られたが、こんなにたくさんの人で何をしにきたのだろう。


 町に戻ると門前にも武装した門番達が集まっていた。

 奥には荷物を急いでまとめている町の人達が見える。

「荷物をまとめたやつからこの町を離れろ!」

「急いでここから逃げるんだ!」

 ひょっとしたら避難訓練でもしているのだろうか。

 ちなみにキシャは町から人が向かってきた段階で逃げるように森の中に隠れていた。

 相変わらず俺達以外とは人馴れしていないようだ。

 まぁ、あいつって少しツルツルしてすべすべボディをしているが見た目はムカデだもんな。

「何かあったのか?」

「いやー、俺も知らないぞ。朝は何もなかったよな?」

 アルやラブも頷いているため、朝に何かあったわけではないようだ。

 俺達が外に出てから何かあったのだろうか。

「何かあったんですか?」

「お前達外から来たけど大丈夫だったか? 魔物の大群が近づいているはずだが……」

「魔物の大群? そんなものなかったよな?」

「ああ、訓練もそこまで大群ではなかったしな」

 魔物大群でよく聞くのがスタンピードだ。

 以前も勇者が町に来る前に似たようなことはあった。

 あの時は大蛇が町に来て大変だったが、今は魔物が近づいてくる気配はない。

 あれから相当俺も強くなったが、気配が少ない魔物がこの辺に多いのだろうか。

 そもそも周囲には魔物がいないからな。

「ねぇ、もうそろそろ営業時間じゃない?」

「早く帰らないと怒られそうですね」

「バイト二日目にして遅刻って結構ヤバイもんな」

 ユーマ達もやっと見習い社畜バイトニストとしての自覚が出てきたのか?

 俺達は門で手続きをして急いでお店に帰ることにした。

 この出来事がきっかけで俺達が一部の人達に知られることになるとは思いもしなかった。





「スタンピードを収めたのって絶対あいつらだな」

「ギルドマスターもさっき見てましたよね。あの技って普通の解体師でもあそこまで魔石を綺麗に取り出せないですよね」

 俺も初めて見た時は何が起きているのかと思った。

 この周辺の魔物はBランクが多く、普通の冒険者では手足も出ない。

 そんな魔物がそこら中に転がっていた。

 その数は100を余裕に超えていただろう。

「むしろ勇者の噂は聞いていたが、社畜バイトニストってなんだ? それに食事処の従業員ってどういうことだ?」

 そんなやつを勇者三人と食事処の従業員がどうにかできるとは思わない。

 勇者の噂もこの町まで流れている。

 なんでも傲岸不遜ごうがんふそんで人として終わっていると聞いた。

 確かにあれだけ見たら人として終わっているだろう。

 まるでどっちが魔物かわからないぐらいだからな。

 それにしても社畜バイトニストとはなんだ?

 冒険者ギルドのギルドマスターとして、もう十年以上は働いているが聞いたことがない。

 その前にも各地を冒険者として旅をしていたが、初めて聞いた言葉だった。

「さぁ、お前達帰るぞ!」

「ギルドマスター報酬はないですかー?」

「これじゃあ、ただの無駄足ですよー」

 依頼を受けずに集まってくれた冒険者達から文句が聞こえてくる。

 こいつらは朝から駆けつけてくれたからな。

 ここで俺が何もしなければこいつらはこの町から離れてしまう。

 それこそ町として痛手になるだろう。

 そういえば、あの変わり者はギルド近くの食事処で働いているって言ってたよな。

「よし、昼飯は俺が奢ってやるからそれで勘弁してくれ!」

「お酒もいいですか?」

「ああ、なんでも構わんぞ」

「うおおおおおお!」

 冒険者達は嬉しそうに町に戻っていく。

 人が全く集まらない三兄弟のところで働いているって本当に謎のやつだ。

 社畜バイトニストが何者かを探る必要があるからな。

 俺はギルドマスターとして何か変なことをしないか、あいつをしばらくの間、監視することにした。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

社畜だった私は異世界転生をする 〜第一王女なんて聞いてません〜

mikadozero
ファンタジー
私佐藤凛は、一日七時間働き、その後上司に「サービス残業お願いね」そう言われて上司は先に帰る始末。 そんな生活に私はうんざりしていた。そんな私は一日に五時間ほどしか睡眠が取れない。(時間がある日) そんな生活を送っていると流石に体がついてこなくなった。 私は、家の中で倒れてしまうのだった。独身で誰も周りに友達もおらず、勉強一筋で生きてきた私に価値などなかったのだ。 目を覚ますと、そこは知らない建物が立っているところであり!? ケモ耳が生えているもののいたりエルフの特徴に当てはまる人もいた!? だが……そんな楽しい生活を楽しみたかったが……前世の癖で仕事を求めてしまう。 そんな彼女がたどり着いた職業とは…… ※絵はイメージです

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

処理中です...