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第三章 新しい仲間達

104.NPC、人間関係に苦戦する

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「依頼の受付はこちらでお願いします」
「パーティーメンバーを募集しています。ヒーラーはいませんか?」
「解体はこちらです」

 冒険者ギルドに入ると、いつもと違う雰囲気に驚いて言葉が出なかった。

 あまりにも人が多すぎて何を言っているのか聞き取れないぐらいだ。

 それぐらい人混みで奥も見えない。

「ちゃちく、あっちだよ!」

 肩車しているヴァイルは奥にある受付まで俺を案内していく。

 町が違えばギルドがこんなに変わるとは思いもしなかった。

「こんにちは!」

「こんにちは! 依頼ですか?」

「あっ、職業体験できるところってありますか?」

「職業体験……ですか?」

 受付嬢はその場で何かを考えているが、中々出てこないようだ。

 いつもならこれでお店や師匠の居場所を教えてもらっていたが、何かきっかけがないといけないのだろうか。

「ひょっとして転職のことですか?」

 転職ってさっき食事処でHUDシステムに出てきたやつのことだろう。

 俺が頷くと受付嬢は話を続けた。

「それなら誰かと関係を気づいて、教えを乞う立場になれば良いと思いますよ」

「それは師匠と弟子ってことですか?」

「んー、ここでは師弟関係よりも才能を開花する方法を教えてもらうに近いですね」

 前は師弟関係になって、成長するまで教えてもらって一人前になる。

 だが、今の段階ですでに一人前のため、転職は自分の持っている能力の新しい使い方を知るのに近いらしい。

 転職サイトのCMも新たな高みを目指すとか給料が上がるとか言っていたもんな。

 俺は近くにいる人に声をかけることにした。

「あのー、少し良いですか?」

「ひょっとしたらヒーラーですか?」

 どうやらヒーラーというのを探しているらしい。

「回復魔法は使えますか?」

「一応聖職者ではありますが……」

「聖職者か……。それなら役不足かな」

 聖職者の回復魔法では足りないのだろう。

 俺もまだまだ弱いってことだな。

「例えばどんな人を探しているんですか?」

「回復魔法だけじゃなくて、補助魔法や薬の作成ができる人がいいかな。例えば聖導師や製薬術師だと助かるね」

 聞いたことのない職業に今の自分では力不足だと実感した。

 思ったよりも多方面に才能がある人を探しているようだ。

 ただ、新しい職業があると知っただけでもワクワクしてきた。

 職業体験からさらに深いところまで学ぶことができるって俺にとっては経験したことないことだからな。

「ありがとうございます」

 俺はお礼を伝えて、すぐに転職に協力してくれそうな人に声をかけることにした。

「あのー、少しお時間――」

「今は忙しいから後にしてくれ!」

 声をかけようとしても全くこっちに聞く耳も向けず、相手にしてくれなさそうだ。

 何度もギルドの人に声をかけてみるも、どこか俺に対して受け入れは良くない気がする。

「ちゃちく、だいひょーぶ?」

「ああ、自分から声をかけるのって難しいな」

 自分から誰かに声をかけて教えを乞うのが、こんなに難しいとは思いもしなかった。

 これが都会というところだろうか。

 他人事のような距離感をどうしても感じてしまう。

 まるで実力がないやつはいらないと言っているようだ。

「今日はやめて商業ギルドに行こうか」

「うん!」

 俺は冒険者ギルドを出て、すぐ近くにある商業ギルドに向かった。

「こんにち――」

「おい、この値段で鎧を買い取るつもりか?」

「こっちも商売だからな」

「何言ってるんだ! これを作るのにどれだけ時間がかかっていると思っているんだ!」

「それは知っているが、売れないとお前達も金がないだろう」

「くっ……」

 扉を開けた瞬間、ドワーフ族と人族の男が言い合いをしていた。

 これが当たり前なのか、他のところでも言い合いをしている。

「お兄さん達こっちにおいでー!」

 俺は間を通り抜けて呼ばれた方に向かう。

 見たことない剣や槍、鎧やアクセサリーなど様々な物が集まっている。

「何か欲しいものでもあったかな?」

「商業ギルドを見に来たけど、いつもこんな感じなんですか?」

「あー、仕入れの時間だから仕方ないよ」

 この町でも生産者と販売者は商業ギルドに所属している。

 ただ、違うのは直接生産者と販売者が接しているってことだ。

 まるで商業ギルドの中が市場みたいになっていた。

 基本的に生産者が商業ギルドに卸し、生産者はお店に起きたい商品を伝えて、ギルドから入荷する。

 だが、ここでは値段交渉を自分でして、自分達でお店に並べる物を買い取ることもあるらしい。

 生産者が実力をアピールする場でもあり、商業ギルドは場所を提供しているだけだ。

「町によってギルドのルールは違うんですか?」

「基本的なルールは同じですよ。ただ、その町の特色にあったやり方があるってことかな。気になるなら直接聞いてみなよ」

 俺は言われるがまま、さっきのドワーフに近づき話を聞くことにした。

「これってどんな剣ですか?」

「あん?」

 話しかけただけなのになぜか圧を放たれた。

 さっきのことがまだ尾を引いているのだろう。

 それにこんな態度だとせっかくの良い武器も霞みそうだ。

「ああ、この剣は魔法剣と言われて火属性の魔石が反応して属性が付与されるんだ」

 自分の作品を愛しているのだろう。

 さっきとは異なり、笑顔で話をしていた。

 今まで魔法剣すら聞いたこともないのに、そんな発想を思いつくこともなかった。

 それだけ彼は俺より才能があるのだろう。

 お願いして剣を握らせてもらうことにした。

――ボゥ!

「どうだ? 俺の剣は使いやすいだろ?」

 剣を握るとすぐに魔石から魔力が込められたのがわかった。

 ただ、普通に剣を使いたい時には使い勝手は悪そうだ。

 岩を砕く時とか、木を切り落とす時には邪魔になりそう。

「はい! ぜひとも作り方を教えて欲しいです」

「作り方? そんなもん簡単に教えるはずないだろ!」

 やっぱり知らない技術を教えてもらうには関係性が必要のようだ。

 今まで人間関係に悩むことはなかったが、一から関係を気づくのがこんなに大変だとは思いもしなかった。

「ちゃちく、がんばろ?」

「うん」

 ヴァイルに慰められて、俺は商業ギルドを後にした。
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