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第三章 新しい仲間達
98.NPC、懐かしいパンを味わう
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「みんないないね?」
キシャを説得という名の躾をしながら、隣町に行くと勇者達の姿は以前よりも少なくなっていた。
「やっぱり他の町に行ったのかな?」
「みんなくいしんぼうだね」
ヴァイルは勇者達みんなが食いしん坊だと思っているのだろう。
それにさっきキシャに美味しいものがあるかもしれないと言ったばかりだからな。
「おっ、今日もパンを買いに来たのかい?」
「ここのパンが一番美味しいですからね」
「あら! 色男がこんなおばさんに色目を使って!」
パン屋のおばさんは嬉しそうに僕を叩いてくる。
一応パン職人の師匠はこのおばさんだ。
中々上手く作れない時は彼女に聞くと、アドバイスをたくさんくれる。
「ヴァイルくんもお兄ちゃんとお使い偉いわね!」
「おにいちゃんじゃないよ? ちゃちくだよ?」
ヴァイルは相変わらず俺のことを社畜というのも変わらない。
そんなヴァイルを微笑ましく思う。
「ちゃちく! おなかへった!」
朝早くから来ているからお腹が減ったのだろう。
まだ、朝食も食べずに隣町に来たからな。
「何か食べてから帰るか?」
「んーん! おうちでたべる!」
バビットが作るご飯が一番美味しいからな。
ただ、肩車をしているからか、ヴァイルのお腹の音がよく聞こえてくる。
「よかったらこれサービスしておくわ! この間アイデアをもらったから作ってみたのよ!」
手渡されたパンの表面から黒や茶色の何かが散りばめてあった。
「レーズンパンですか?」
「そうなのよ! レーズンっていうフルーツはなかったけど、ちょうど似たようなフルーツがあったからね」
以前何か面白いパンがないかとアイデアを聞かれた。
この世界にはハード系のパンが多く、柔らかいパンは存在しない。
ここのパンは辛うじて柔らかく感じるハード系のパンに近い。
どうやって作るのかを考えていたが、そもそもあるパンを改良したらどうかと思ったのだ。
そこで思いついたのがレーズンパンだ。
小学校は少ししか通えなかったけど、普通のパンよりレーズンパンやくるみパンなどの変わり種が出てきた時は嬉しかった記憶がある。
本当は柔らかいパンで作りたかったけど、ハード系でも合うのではないかと思った。
「ちゃちくちょーらい!」
ヴァイルはレーズンパンが気になるのだろう。
俺はヴァイルに手渡すと、キラキラした目でレーズンパンを見ていた。
こんがりと綺麗な焼き目がついており、小さなひび割れや粉が振ってあることでいつものパンとそこまで見た目は変わらない。
特にレーズンを気にすることなく、ヴァイルは大きく口を開けて一口食べた。
「おいちいー!」
形が丸いブールとレーズンとの相性は良いのだろう。
「一口ちょうだい」
「はい!」
上から被さるようにヴァイルはレーズンパンを口に入れてきた。
「おー、いつもよりしっとりしてますね!」
「そうなのよ! 普通のやつだとベチャベチャになるから乾燥したものを使ってみたの!」
「ドライフルーツってやつですか?」
「そんな名前だったかしらね? 冒険者が干し肉と一緒に持っていくやつだったけど、少し水に戻したらちょうど使いやすくてね」
生のフルーツでは水分が多くて、パンがベチャベチャになってしまう。
そこでドライフルーツを使ったが、今度はドライフルーツが水分を吸い取ってしまい、パンがカチカチになる。
そこで一度ドライフルーツに水を含ませてから作ってみたら、このパン屋の特徴でもあるふかふかさを残した状態で焼けたらしい。
さすが師匠と呼べるだけある。
それにレーズンが入っているだけで、しっとり感が追加されていた。
そりゃー、ヴァイルがもう一つ欲しそうに見ているわけだな。
「このパンはまだ売ってないんですか?」
「まだ試作段階なのよ。発売したら買ってちょうだいね」
俺達はまんまとおばさんの試食による宣伝に負けたようだ。
またパン屋に行かないといけなくなったからね。
「じゃあ、店に戻ろうか」
「うん!」
パンを買った俺達はすぐに戻ることにした。
キシャを説得という名の躾をしながら、隣町に行くと勇者達の姿は以前よりも少なくなっていた。
「やっぱり他の町に行ったのかな?」
「みんなくいしんぼうだね」
ヴァイルは勇者達みんなが食いしん坊だと思っているのだろう。
それにさっきキシャに美味しいものがあるかもしれないと言ったばかりだからな。
「おっ、今日もパンを買いに来たのかい?」
「ここのパンが一番美味しいですからね」
「あら! 色男がこんなおばさんに色目を使って!」
パン屋のおばさんは嬉しそうに僕を叩いてくる。
一応パン職人の師匠はこのおばさんだ。
中々上手く作れない時は彼女に聞くと、アドバイスをたくさんくれる。
「ヴァイルくんもお兄ちゃんとお使い偉いわね!」
「おにいちゃんじゃないよ? ちゃちくだよ?」
ヴァイルは相変わらず俺のことを社畜というのも変わらない。
そんなヴァイルを微笑ましく思う。
「ちゃちく! おなかへった!」
朝早くから来ているからお腹が減ったのだろう。
まだ、朝食も食べずに隣町に来たからな。
「何か食べてから帰るか?」
「んーん! おうちでたべる!」
バビットが作るご飯が一番美味しいからな。
ただ、肩車をしているからか、ヴァイルのお腹の音がよく聞こえてくる。
「よかったらこれサービスしておくわ! この間アイデアをもらったから作ってみたのよ!」
手渡されたパンの表面から黒や茶色の何かが散りばめてあった。
「レーズンパンですか?」
「そうなのよ! レーズンっていうフルーツはなかったけど、ちょうど似たようなフルーツがあったからね」
以前何か面白いパンがないかとアイデアを聞かれた。
この世界にはハード系のパンが多く、柔らかいパンは存在しない。
ここのパンは辛うじて柔らかく感じるハード系のパンに近い。
どうやって作るのかを考えていたが、そもそもあるパンを改良したらどうかと思ったのだ。
そこで思いついたのがレーズンパンだ。
小学校は少ししか通えなかったけど、普通のパンよりレーズンパンやくるみパンなどの変わり種が出てきた時は嬉しかった記憶がある。
本当は柔らかいパンで作りたかったけど、ハード系でも合うのではないかと思った。
「ちゃちくちょーらい!」
ヴァイルはレーズンパンが気になるのだろう。
俺はヴァイルに手渡すと、キラキラした目でレーズンパンを見ていた。
こんがりと綺麗な焼き目がついており、小さなひび割れや粉が振ってあることでいつものパンとそこまで見た目は変わらない。
特にレーズンを気にすることなく、ヴァイルは大きく口を開けて一口食べた。
「おいちいー!」
形が丸いブールとレーズンとの相性は良いのだろう。
「一口ちょうだい」
「はい!」
上から被さるようにヴァイルはレーズンパンを口に入れてきた。
「おー、いつもよりしっとりしてますね!」
「そうなのよ! 普通のやつだとベチャベチャになるから乾燥したものを使ってみたの!」
「ドライフルーツってやつですか?」
「そんな名前だったかしらね? 冒険者が干し肉と一緒に持っていくやつだったけど、少し水に戻したらちょうど使いやすくてね」
生のフルーツでは水分が多くて、パンがベチャベチャになってしまう。
そこでドライフルーツを使ったが、今度はドライフルーツが水分を吸い取ってしまい、パンがカチカチになる。
そこで一度ドライフルーツに水を含ませてから作ってみたら、このパン屋の特徴でもあるふかふかさを残した状態で焼けたらしい。
さすが師匠と呼べるだけある。
それにレーズンが入っているだけで、しっとり感が追加されていた。
そりゃー、ヴァイルがもう一つ欲しそうに見ているわけだな。
「このパンはまだ売ってないんですか?」
「まだ試作段階なのよ。発売したら買ってちょうだいね」
俺達はまんまとおばさんの試食による宣伝に負けたようだ。
またパン屋に行かないといけなくなったからね。
「じゃあ、店に戻ろうか」
「うん!」
パンを買った俺達はすぐに戻ることにした。
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