【書籍化決定】超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

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第二章 精霊イベント

95.NPC、友達を脅す ※一部咲良視点

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 俺達は町に帰ることにした。

 だが、距離としては結構離れているため、みんなと帰れば時間がかかるだろう。

 冒険者達はジタバタとしているシュリンプローチを運んでいるからな。

「そういえば、お前はどうしようか?」

『キシャ……』

 ムカデはなぜか怯えたように俺の方を見ていた。

 どうしようかって別に防具の素材にするつもりで聞いたわけではない。

 オジサンと違って大きさ的に町に入ることはできない。

 それに見た目が怖い。

 普通のムカデと違って顔も可愛いし、気持ち悪くないけどな……。

 他の人から見たら、ただの魔物には変わらない。

『キシャ! キシャ!』

 ムカデは何かを伝えたいのか、俺の周りをクルクルと回り出した。

 まるで線路の上を走る電車のように見えてきた。

 ん?

 電車……?

「ひょっとしてお前の上って乗れたりしないか?」

『キシャ?』

 俺がムカデの上によじ登ると、ムカデは驚いている。

 さっきまでクルクルしてたのに急停止しているのだ。

「座り心地はあまり良くないけど、乗れないことはないな。ちゃんとエンジンも搭載されていそうだしな」

『キシャ……』

 ムカデはエンジンの揺れを演出しているのか、どこか震えている。

「やっぱりヴァイトって鬼畜だな」
「ムカデの感情が僕達でもわかるぐらいだもんね」
「これがリアル鬼畜攻めね」

 ユーマ達も俺達の方を見ているが、歩いて町まで帰るつもりなんだろうか。

「お前らは乗っていかないのか?」

「いやー、さすがにムカデの上は――」

「俺達は乗って行くけどな」
「こいつら結構重たいからちょうどよかった」

 ジェイドをはじめとする冒険者達は、次々とムカデの体節毎に一人ずつ乗っていく。

 結構体が長いため、一回にある程度の人数は乗ることができそうだ。

「なんかこのゲームのNPCって根性あるよな。あいつらさっきまで敵同士だったよな?」
「リアルなゲームなのに、ここはリアルぽくはないよね」
「ケンカップルがいるくらいだから世の中なんでも良いのよ。せっかくなら私も乗ってみよ」

 コソコソと話している中、ラブが他の勇者達を気にせずムカデに乗ってきた。

 女性が一番ムカデのような虫が苦手なような気がするが、ラブは違うようだ。

「やっぱりお前の見た目が怖いからか?」

 ユーマ達の方がムカデに乗るのに抵抗感があるような気がする。

『キシャ……』

「もっと怖くないアピールが必要なんじゃないか?」

『キシャ……キシャ! キシャ!』

 ムカデは体をクネクネさせて何かのアピールを始めた。

 冒険者達は突然動いたことで、驚きながらもしっかり捕まっている。

 まるでムカデ版のロデオみたいだ。

「おっ、あれってステータス上がるのかな?」
「STRとかVITは上がりそうだね」

 それでもユーマ達は乗りたくないのか、俺達を眺めている。

「ほら、もっとアピールが必要なんじゃないか?」

『キシャアアアアアアアアア!』
 
 ムカデは叫ぶとさらに動き出した。

 今にも飛んで行ってしまうような勢いに、他の勇者達は遠い目をしていた。

 まるで俺がムカデを脅していると言わんばかりの表情で見ている。

「俺も乗ってみようかな」
「なんかムカデが可哀想に見えてくるもんね」

 アピールが成功したのか、ユーマ達もムカデによじ登ると跨った。

「他の勇者は良いのかな?」

 あれだけアピールしたのに乗ってこないってことは、他の勇者達は乗る気がないのだろう。

 歩いて帰るのも良い散歩になる。

 世の中無理強いしてパワハラと言われるかもしれない。

 ちゃんと確認はしているからな。

「じゃあ、町に戻るぞ」

『キシャ……キシャアアアアアアアアア!』

 まるで機関車の汽笛を鳴らしているかのように、ムカデは町に向かって走り出した。


 ♢


「咲良はゲーム始めたかな?」

「うん」

 私は玄関の扉を背に座り込んで友達と話していた。

 部屋から出られるようになったと母から聞いて、友達がまた毎日家に来ることになった。

 だけど私は家から出ることもできないし、親以外に家に人が入ってきたら、今度は私が部屋から出ることができなくなってしまった。

 自分でも何が起きているのかわからない。

 私も友達に会いたいのに、心と体がそれを許してくれない。

「私、今聖職者と薬師の依頼をやっていてね。職業柄、小さな聖女って言われているんだよ」

「ふふふ、奈子って昔から優しいもんね。本当に聖女みたいだし……」

 そんな私に会いにきてくれる奈子は聖女みたいに優しい。

 昔から彼女の優しさを私は知っている。

「そんなことないよ? だって転校してきたばかりで引っ込み思案の私を助けてくれたのは咲良だよ?」

 そういえば、引っ越してきたばかりの奈子はいつも一人でいた。

 ちょうど小学校高学年の思春期に入った頃だったのが影響して、奈子はみんなにいじめられていた。

 いじめって言っても、何かするわけでもなく話しかけないなどの仲間外れにされる程度だ。

 転校生ってだけで注目が集まるのに、見た目も小柄で可愛いからね。

 男子が囲んで声をかけていたら、その当時の女子は良い気持ちではなかったのだろう。

「奈子と仲良くなったのもお兄ちゃんがきっかけだっけ?」

「そうそう! 公園に一人でいたら、急に電動車椅子で追いかけてきた時はびっくりしたよ」

「懐かしいね。お兄ちゃん知らない人にも声をかけるようなタイプだもん」

 そんな奈子と仲良くなるきっかけを作ったのが兄だった。

 家に帰りたくない奈子を公園で見つけたのか、電動車椅子で追いかけ回していた。

 きっとあの兄なら、鬼ごっこで追いかける相手を間違えていただけのような気もするけどね……。

「私もまたお兄さんに会いたいな……」

「そうだね。きっと今頃天国で走り回っていそうだけどね」

「確かにそんな感じがする。じゃあ、暗くなる前に私は帰るね」

「今日もありがとう」

 そう言って大事な友達の顔も見ないまま、彼女は自宅に帰っていく。

 今日も私は一日外に出ることができなかった。

 そんな簡単なことなのになぜできないのだろうか。

 きっと兄なら早く出てこいって外に連れ出してくれるだろう。

 それだけ私にとって兄の存在は大きかった。

「私もお兄ちゃんに会いたいな……」

 小さく呟く私の声は天国の兄に聞こえているのだろうか。
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