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第二章 精霊イベント

94.NPC、友達ができる

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 ヴァイトはムカデを退治した。

 と言いたいところだが、いまだに退治できないでいる。

『キシャアアアア……』

 なぜかムカデはたくさんある脚を閉じて伏せていた。

 まさに抵抗する気はないので助けてくださいと言っているように見えた。

 その姿に冒険者や勇者も目を大きく開けて驚いた表情をしている。

 実際に俺も驚いている。

「これじゃあ、防具の素材にできないよ?」

『キシャ……シャシャ……』

 もうムカデが震えて怯えていた。

 しかも、一体ならわかるが全員震えている。

「きっとあのデカいやつがボスじゃないのか?」

「結構統率が取れてたからそうかもしれないですね」

『キシャキシャ!』

 ムカデは頭を上げて頷いている。

 どうやら俺が一番はじめに大きなムカデを倒したことで、勝てないと気づいたのだろう。

 ただただ、一番大きい方が素材に使えそうだなと思っただけなのに……。

「でも、防具には……」

「ヴァイト、このままだと社畜じゃなくて鬼畜だぞ?」

「いや、俺はどこから見ても鬼畜じゃないぞ?」

『キシャ?』

 なぜかムカデも驚いたように首を傾げていた。

 いや、あそこは首で良いのだろうか。

 最終的に体を大きく曲げている。

 あー、どこかで見たことあるような芸人に似ているぞ。

 たしかうんこみたいな卑猥な言葉を使っていたかな。

 昔だからはっきりとは覚えていないや。

「じゃあ、もう人を襲わないと約束できるか?」

『キキキ……』

「できるか?」

『キシャ……アアアアア』

 人を襲わないように約束はしてくれた。

 一応呪術師でマーキングをしておけば大丈夫だろう。

 何か悪いことをしたら、すぐに防具の素材にすれば良いからな。

「やっぱり鬼畜だな……」

「僕達では倒せない魔物を従えているもんね」

 アルは俺がムカデを従えていると言っていた。

 いや、本当に従えているなら〝テイマー〟とか〝魔物使い〟のデイリークエストが出てくるはず。

 それなのに出てこないのは、また従えていないということだろう。

「ヴァイト、こっちはご馳走が確保できたぞ!」

「シュリンプローチも活きが良くて大変だったぞ」

 冒険者達に捕獲されたのか、助けて欲しそうな目で訴えてくる。

 瞳がウルウルしていてもゴキブリには変わりない。

「うっ……気持ち悪いな」

 同じ虫でもまだムカデの方が可愛げがある。

 今でもなぜか震えてお皿を動かした時のプリンやゼリーみたいだ。

「とりあえず帰ろうか」

「緊急クエストも終わったみたいだしな」

 どうやらムカデ達が進行を止めたことで、勇者達の緊急クエストは終わりを告げたようだ。

 これで町が魔物に襲われることはないだろう。

 ただ、外で暴れたことで周囲は荒れていた。

 道はボコボコになり、森の木は薙ぎ倒されて直すのにも時間がかかるだろう。

 まぁ、ほとんどが俺の弓矢が色々と吹き飛ばしていたからな。

 さらに強い弓矢を作ろうと思っていたがやめておいた方がよさそうだ。

「そういえば、最近ナコを見かけないがどうしているんだ?」

「んー、ちょっと友達のことで悩んでいるらしいぞ」

 緊急クエストなら聖職者であるナコも来ると思ったが、いないことに今気づいた。

 ナコはユーマ達以外に友達がおり、忙しくしているのだろう。

 そもそも彼女は戦うことに不向きな人だもんな。

「あー、俺にももっと友達が欲しかったな」

「おいおい、俺がいるだろ!」

 そんなに胸を張って自慢しなくてもな。

 ユーマは友達じゃなくて親友だ。

 きっとそんなことを言えば、ずっとニヤニヤしてくるから言うつもりもない。

「いやいや、俺にはお前達しかいないぞ?」

 俺って本当に友達が少ない。

 1日の全てをデイリークエスト消化に時間を使っているから仕方ない。

「社畜だもんね……」

 そんな俺をラブは残念そうな目で見ていた。

 社畜は別に悪いことではないからな。

 仕事に一生懸命なだけだ。

 たぶん……?

「まぁ、今度俺の友達を紹介してやるよ!」

「はぁー、ユーマに友達紹介されるって嫌だな」

「なっ……、てめえー!」

 ユーマは俺を叩いているがどこか嬉しそうだ。

 友達って自然にできるようなものだろうしな。

『キシャキシャ!』

 鳴き声がすると思ったら、ムカデが一匹残っていた。

 なぜか俺達を見て喜んでいる。

「あれ……お前いつまでいるんだ?」

『キシャ!?』

 ムカデは後ろを振り返る。

 周囲に他のムカデがいないことに今気付いたのだろう。

 周りを見てあたふたとしていた。

「ひょっとしたらお前と友達になりたいんじゃないか?」

「ムカデが……?」

 俺はムカデを見ると、再び震え出した。

 これは友達になりたいという証だろうか。

 昔にやったゲームでスライムは友達になりたくて震えていたとあったからな。

「まぁ、そうか……。俺と友達になりたいのか」

『キシャ……』

「なりたくないなら防具の――」

『キシャキシャ!』

 ムカデは嬉しそうに鳴いていた。

 さっきよりも震えが一段と増しているからな。

「やっぱり鬼畜だよね……」

「人外と鬼畜攻めって意外に相性が良いのかもね」

「うぇ!?」

 どうやら俺は新しい友達を手懐けた・・・・ようだ。
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