【書籍化決定】超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中

文字の大きさ
上 下
85 / 150
第二章 精霊イベント

85.NPC、嫌な予感がする

しおりを挟む
「なぜワッシばかりこんな目に合わないといけないんだ……」

 項垂れているオジサンを俺は知らないふりして紐を引っ張る。

 ズルズルと擦られていても、全く気にしないほど落ち込んでいるようだ。

 別にオジサンだけに好かれているわけではない。

 さっきまで女性達ににおいを嗅がれていたからな。

 起きなかったオジサンが悪いだけだ。

 それを伝えて面倒なことになるのも嫌だしな。

 絶対また臭い消しを浴びてアピールしに行くだろう。

「またたくさん作らないといけなくなったから、レモンを買って帰るぞ」

「ワッシに今度こそモテモテになる臭い消しを作ってくれ!」

「あー、色々試してみないといけないな」

 正直モテモテになる臭い消しなんて作れないと思う。

 今だってそんなにオジサンが臭いわけではないからね。

 ただ、せっかく調香師の職業体験ができるなら、香水が今後も作れるようになったら良いな。

 師匠がいるわけではないため、手探りになるだろう。

 俺はこの時、臭い消しがとんでもないことになるとは思いもしなかった。


 翌日、新しく作った臭い消しを持って冒険者ギルドに行くと、すでにレモンのにおいがそこら中からしていた。

「あっ、ヴァイトくんおはよう」

「おはようございます。風邪ですか?」

 冒険者ギルドの職員は布を口元に巻いて、マスクのようにしていた。

「いや、冒険者達が臭い消しをたくさん使っていてね」

「臭い消しですか?」

「ヴァイトくんがみんなに配ったんじゃないの? それでみんな喜んでつけていたわよ?」

「いや、まだ誰にも渡していないですよ。だから、ここに持ってきたんです」

 俺は臭い消しをまだ誰にも渡してはいない。

 作った時点で量も減っていないため、家族の誰かが渡したわけでもない。

 渡すつもりで持ってきた臭い消しをテーブルの上に置く。

「これが臭い消しですか?」

 容器に入れたものを職員がにおいを嗅いでいた。

「昨日と同じにおいがしますね」

 俺の作った臭い消しは、ふんわりとレモンのにおいが香る程度だ。

「オジサンもそこまでに臭くないですよ?」

 オジサンがそこに浸かって体を洗っても、こんなににおいがキツく出ることはないだろう。

「なぁ!? ワッシは臭く……ふわあああああ!」

 女性はオジサンに鼻を近づけてにおいを嗅ぐ。

 急に顔が近づいてきて、オジサンはその場でオドオドとしていた。

 昨日は今よりもすごい状況になっていたとは言えない。

 寝ていてよかったと心から思った。

 確実にあの世に昇天していたからな。

 実際に昨日と同じように作っているが、今日は少しつけて馴染ませてた程度だからレモンのにおいはあまりしない。

 本当に臭い消し程度で使っている。

「おっ、ヴァイト来たか!」

 訓練場からジェイドがやってきた。

 朝活を始めるようになってから、他の冒険者達も朝早くから行動するようになった。

 だが、今までこんなに朝早いことはなかった。

 何か理由があるのだろうか。

「ジェイド……さん!?」

 ただ、それよりも気になることがあった。

「どうしたんだ?」

「すごい虫が寄ってきてないですか?」

 周囲にはハエとハチを混ぜたような虫が飛んでいた。

 ジェイドも邪魔なのか手で払っている。

「ああ、臭い消しをつけてから虫が寄ってきてな。俺は違う人が寄ってきて欲しいんだがな」

 そう言って冒険者ギルドにいる女性に目を向けていた。

 冒険者ギルドの職員に気になる人がいるのだろう。

 ただ、俺は本当のことを告げないといけない。

「きっとその臭い消しは俺が作ったやつじゃないですよ?」

「へっ……?」

「だって俺が持ってきたのはこれですからね」

 俺は持ってきた臭い消しを渡すと、においを嗅いでいた。

「俺のやつと比べてそんなにおいがしないな」

 やはり俺の作った臭い消しと違うものをジェイドは持っているようだ。

 別に何を使おうが、俺には問題ではない。

 ただ、俺には嫌な予感がしていた。

 臭い消しは全て俺が作ったやつってなっているからな。

 それに周囲から虫達が集まってきている。

 さっきから他の冒険者達も姿を見せるが、みんな周囲に虫が飛んでいる。

 まるで花になっているような感じだ。

「これをお渡しするので、代わりにその臭い消しをもらって良いですか?」

「ああ、良いぞ!」

 俺は臭い消しを交換して、別の人が作ったと思われる臭い消しを手に入れた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

処理中です...