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第二章 精霊イベント

78.NPC、精霊を手に入れた

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 せっかく洗ったのにまた汚れているんだぞ?

 あいつはどこから埃を吸収しているんだ。

 俺は必死に泡をつけて精霊を洗う。

「おいおい、これはどういうことだ?」

「いやいや、俺が聞きたいよ!」

 汚れを落としてやっと綺麗になったのに、もふもふする前に汚れるとは思わないだろう。

 ん?

 そういえば、さっき少しだけ体が透けていた気もするが、今ははっきり見えているぞ。

「ワッシが無理やり契約させられるとは……」

「契約? 精霊と契約なんてできるの?」

「契約できるのは精霊使いだけだ。ただ、それも元素精霊だけだ」

 何か難しいことを言っているが、本来は精霊と契約できることが珍しいらしい。

 勇者がそれだけ珍しい存在なんだろう。

「それでどうやったら契約できるの?」

「はぁー。本当にこやつが主人あるじなのか……」

「へっ?」

「だから今の魔力注入でワッシがお前さんの精霊になったんだよ!」

 どこか怒って足をジタバタしているが、俺にとっては嬉しかった。

 俺だけの精霊。

 誰よりももふもふして魅力的な精霊だ。

「やったあああああ!」

 俺はその場で精霊に抱きついた。

 泡が体に付くがそんなことは関係ない。

 ずっと一緒にいられる。

 それだけでどこか心が満たされる気がした。

「おいおい、朝からうるさいと思ったら何やってるんだ?」

「お兄ちゃん……まだ夜中だよ?」

「ちゃちくー!」

 あまりにもはしゃいでいたからか、みんな起こしてしまったようだ。

 早速、俺の精霊を自慢してみようか。

「見てみて! 俺だけの精霊だ!」

 俺はみんなに精霊を見せつける。

 だが、みんなして首を傾げている。

「あっ、どもども!」

 精霊はめんどくさそうにお尻を掻いていた。

「なんか俺よりも年上そうだな……」

「当たり前だ! ワッシは大――」

「大マーモットらしいよ!」

「大マーモット? それにしてもオジサンぽいけど……お兄ちゃん大丈夫?」

 まぁ、オジサンぽくても精霊だから年齢不詳だろう。

 見た目も勇者達の精霊と変わりない。

「ちゃちくー! こいちゅきりゃい!」

 そんな中、ヴァイルだけが露骨に精霊を嫌っていた。

 今まで誰かを嫌うことはなかったが、獣人と精霊の関係があまり良くないのだろうか。

 もし、そうなら俺が聖霊を捕まえてくると言った段階で怒るだろうし、チェリーのわたあめとは仲良くなれないはず。

「どうしたんだ?」

「ちゃちくはオラの!」

 どういうことだろうか?

 俺が横に首を傾げていると、精霊は短い手で俺の肩を叩いていた。

「一人じゃなくてよかったな」

「どういうことだ?」

「はぁー。主人はバカだな。こやつはワッシに主人が取られると思っているんだぞ」

 ヴァイルはずっと涙目で俺に顔をなすりつけていた。

 全く俺から離れようとしない。

 俺はいつからか一人だと思い込んでしまったようだ。

 それにバビットやチェリーも心配して、こんな時間に起きて来てくれた。

「ははは……」

 どうやら最近の俺はどこか不安定なんだろう。

「お兄ちゃん!?」

「おにゃかへったの?」

 何で今まで一人だと思っていたのだろう。

 俺は一人じゃないのにな。

「お腹が減ったら目からもよだれが垂れてくるからな」

「ちゃちく、しゅごいね!」

 ヴァイルは本当に信じ込みそうだ。

 これは訂正しないといけないぞ。

 ただ、純粋に信じてくれるヴァイルを見て、どこかほっこりとしていた。

「お前も大変なやつの精霊になったな」

「ああ、主人は目からよだれが出てくるんだな!」

 うん、ここにも騙されているやつがいた。

「いや……、まぁヴァイトを頼むぞ」

 新しくマーモットの精霊が家族に加わった。
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