【一巻3月中旬発売】NPCに転生したら、あらゆる仕事が天職でした~前世は病弱だったから、このVRMMO世界でやりたかったこと全部やる~

k-ing ★書籍発売中

文字の大きさ
上 下
67 / 151
第二章 精霊イベント

67.NPC、家畜と家に帰る

しおりを挟む
 再び肩車して、俺の住む町に戻っていく。

「ちゃちくのおうちはどんなの?」

「んー、ご飯が食べられるとこかな」

「ごはん!?」

 雨が降ってきたと思ったら、獣人の少年からよだれがポタポタ垂れていた。

 たしかお腹が鳴っていた子もこの子だった気がする。

 相当お腹が空いているのだろうか。

「昨日はご飯食べたの?」

「んーん、きゃちくはたべたらだめなの」

 その言葉にまた胸が締め付けられる。

 昨日はあれから逃げるようにいなくなったと聞いている。

 誰も食事を与えていなかったら、この子は何も食べずに過ごしていたことになるだろう。

「そうか。帰ったらたくさんご飯食べような」

「うん! たのちみ!」

 町に着くまで獣人の少年は楽しそうに、肩の上で静かに座ってた。

 何を食べるのか考えているのか、俺の髪の毛は家に着く時にはベタベタになっていた。


 町の中に入ると、やはり俺の頭の上にいる少年が注目された。

 いや、一部は俺の変わった行動に、また何かあったのかと聞いてくる人もいる。

 よくユーマやレックスを肩に担いでいたから、そういう風に見えるのかもしれない。

「ただいま!」

「おっ、やっと帰って……子どもでもできたんか?」

 バビットは何を言っているのだろうか。

 さすがにすぐ子どもができるはずない。

 子どもはコウノトリが運んできてくれるって聞いたからな。

 そういえば、家畜にはコウノトリがいっぱい運んでくるのだろうか。

「ちょっと調理場を借りるね」

 俺は獣人の少年を椅子に座らせると、すぐに調理場で簡単に食べられるものを用意する。

 あまり食べていないなら、胃に入っても刺激が強くないものが良いだろう。

 できたものをテーブルに置くと、キラキラした目で見ていた。

「ちゃちく、ちゃべていいの?」

「ああ、いいぞ」

 獣人の少年はよほどお腹が空いていたのか、すぐに食べようとしていた。

「あちっ!?」

「スープだから冷まさないといかんぞ?」

 俺はスプーンで一口掬うと、フーフーと冷まして口の中に入れる。

 とろけたような表情に変わり、頬を手で押さえていた。

「おいちい!」

「当たり前だ。俺がここに来て一番美味しいと思った料理だからな」

 俺が作ったのはこの世界に来て、一番初めに食べたバビットが作ったスープだ。

 レシピは以前聞いていたため、初めて作ったが俺でも上手にできた。

 いざ作ってみると、お肉と野菜も入って栄養面がしっかりしているのに、スープになっているから体が温まって食べやすい。

 それに硬いパンと違って、食べやすいのが特徴だ。

 そんな様子をバビットは笑ってみていた。

 やっぱりバビットから見ても、獣人の子どもは可愛いからな。

「それでその獣人・・の子はどうしたんだ?」

 バビットも突然獣人の子が来て驚いていたからな。

 それだけこの町で獣人を見かけることがない。

 いるのは人族かブギーやボギーといった小人族ぐらいだ。

「きゃちくなの!」

 口から野菜を飛ばしながら話している。ただ、バビットにはちゃんと聞こえていたのだろう。

 一瞬にして表情が変わった。

「家畜か?」

 その言葉に俺は頷く。

 バビットの強く握る手から、何を考えているのかすぐにわかった。

 きっと俺と同じ気持ちなんだろう。

 それだけ家畜と言われる存在が、あまり良くないものだと知れ渡っている。

「きゃちくいいよ? ちゃちくとにてるよ?」

 そんなことも知らない獣人の少年の笑顔に、俺は居ても立っても居られなかった。

 気づいた時には強く抱きしめていた。

「ちゃちく痛いよ……」

「ああ、そうだな」

「ちゃちく……あったかいね」

 この子は愛情も感じることなく、何も知らずに生きてきたのだろう。

 俺の体に体をスリスリとしていた。

 うん。

 俺は決心した。

「この子も一緒に――」

「住んでもいいですか?」
「住むぞ!」

 俺とバビットの声が重なった。

 どうやら考えは同じようだ。

「ちゅむの?」

 ただ、獣人の少年にはうまく伝わっていないような気がする。

 首をずっと傾げていたからな。

 そもそも家畜なら、どこかに住むという認識もないかもしれない。

「ああ、毎日遊んで美味しいご飯を食べようか!」

「あしょぶ! たべりゅ!」

 きっとこうやって言われたら嬉しいだろう。

 そう思って伝えてみたら理解したようだ。

 俺達に新しい家族が仲間入りした。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...