【書籍化決定】超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

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第二章 精霊イベント

64.NPC、卵を取りに戻る

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 俺は町に帰ったらすぐに店に戻って行く。

「ヴァイトさん、鬼ごっこしませんか?」

「きゃー、ヴァイトさんこっちに視線ください!」

 勇者達から声をかけられるが、俺にはそんな声すら聞こえない。いや、聞こえないふりをしている。

 だって……。

「卵をもらってくるのを忘れたあー!」

 みんな卵を持って歩いているからな。

 俺も卵をもらいに隣町に行ったのに、もらってくるのを忘れていた。

 ただの嫉妬で無視をしている。

 それにいざ戻ってもらうのも気が引ける。

 だって、あの町の人達の顔を見たか?

 俺に対しての目が怖かった。

 優しい人達に囲まれているここが、一番俺にとって居心地が良い。

 少し観光はしたいが、次に行くならお忍びだろう。

 しばらくすると、チェリーも帰ってきていた。

「ただいま!」

「あー、おかえ……」

 チェリーの手には大きな卵を持っていた。

 白銀のような色をして、どこか輝いているようにも見える。

「お兄ちゃん卵もらって来なくてよかったの?」

「だって……あいつら俺を悪く言うから居づらくてさ」

「鬼畜って言われても仕方ないよ。実際に鬼畜なんだもん」

「社畜ならまだわかるけど、俺のどこが鬼畜なんだ?」

「まぁー、そのうち気づくよ」

 どうやらチェリーも詳しくは教えてくれないようだ。

 俺は人とどこか感覚が違うのだろうか。

 俺が鬼畜なら弟子のチェリーも鬼畜のはずなのに。

「また明日内緒でもらってくるよ」

「お店も始まっちゃうもんね」

 日も暮れていつも通りに夜の営業が始まった。

 勇者達がこの町に帰ってきて、客も増えたからバタバタして大変だ。

 それにみんなして鬼ごっこがしたいと言われたら、落ち込んでいたのを忘れてしまう。

 いつのまにか嫉妬心も忘れて、スッキリとしていた。


 朝活を終えた俺は早速隣町に行くことにした。

 少し観光しながら新しいデイリークエストのヒントをみつけるのも良いだろう。

 俺が町に近づくと、昨日とは違う門番がいた。

「朝早くから大変ですね」

「ああ、町の安全を守るのが俺達だからな」

「そういえば、悪いことをした人達は誰が対応するんですか?」

「そりゃー、俺達警備隊だろ」

 昨日門番に悪党を任せたが、どうやら門番は警備隊という警察官みたいなものに所属しているらしい。

 だから、あの男が後の処理をしていたのだろう。

 その後も普通に受付をして町の中に入る。

「そういえば、悪党を捕まえた人も似たような名前だったような……」

 門番は何かを言っていたが、俺は気にせずに町の中に入っていく。

 まだ早朝だからか、人は少ないようだ。

 誰かにみつかるのもめんどくさいため、俺は身を隠しながら町の中を移動する。

 まずは俺の町にはないお店探しから始めることにした。

 って言っても見た感じでは、町の構造は違っても変わった何かがあるわけでもない。

 気になるのは教会が町の中央にあることくらいだろう。

 俺が住む町より、教会を大事にしているのかもしれない。

 まぁ、病院みたいなところだからな。

 そんなことを思っていると、突然誰かに服を引っ張られた。

「きちくー!」

「いや、俺は社畜だ!」

 振り返るとそこには小さな子どもがいた。

 斥候スキルで隠れているはずなのにみつかったようだ。

 そういえば、昨日助けた時に似たような子どもがいた。

 頭に耳が生えて、尻尾がある……って獣人じゃないか!?

 あの時は全く気づかなかったが、獣人を見たのは初めてだ。

 どこか犬のような姿に少し可愛らしさを感じる。

「こんなところでどうしたんだ?」

「おれいってない」

「俺言ってない?」

 この子は男の子なんだろうな。

「ありあと!」

「へっ!?」

「おれいってないの」

 どうやら助けた時のお礼を伝えていなかったと。

 小さな獣人少年からの一言で、俺は間違った行動をしていなかったと気づかされた。

 本当に子ども達を助けることができて、良かったと思う。

「あっ、鬼畜さん!」

「いや、だから俺は社畜だって……」

 子どもを追いかけて親が来たのだろう。

 声をかけてきたのは、町の中でハッヤイーナに卵を盗まれていた女性だった。
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