上 下
57 / 150
第二章 精霊イベント

57.NPC、新しい町でも鬼ごっこをする

しおりを挟む
 隣町までは――。

 想像以上に近かった。

 以前半日の距離と聞いていたが、一時間もかからない程度で着いた。

 俺はチェリーを下ろして、早速町の中に入ろうとしたら門番に止められた。

「お前達この町に何のようだ?」

「卵をもらいにきました」

「卵? 何を言ってるんだ?」

 どうやら卵を配っていることを門番は知らないようだ。

 それになぜか俺よりもチェリーに警戒心が強い気がする。

 ひょっとして、ここでも勇者達が何かやらかしたのだろうか。

「まぁ、変な行動はしないように頼むぞ。ここ数回、町で事件が起きて封鎖していたんだ」

「事件ですか?」

「ああ。町の中のものが紛失したり、壊れたりしたんだ」

「えーっと……ツボが割れたり、タルが壊されたり、不法侵入されたり……」

「なっ!? ひょっとしてお前達が犯人か――」

「犯人だったらそんなこと言わないですよ」

「ああ、それもそうか。すまない」

 門番は俺達に頭を下げた。

 どうやら勇者達はここでも悪事を働いていたのだろうか。

 あれだけダメだと言っていたのに、またやっていたとは……。

 ため息が出てしまう。

「僕達の町も同じような被害に遭ったばかりですからね」

「そうか……。まぁ、この町では安全に過ごしてくれよ」

 そう言われて俺達は町の中に入った。

 どこか静まり返った町の雰囲気に、少し違和感を感じる。

 ただ、俺が住んでいる町とは構造が違うためか、店が入り混じっているようだ。 

 飲食店の隣に野菜屋や武器屋があったりなど、所属ギルド毎に分けられてない。

 それにしても、お店を営業しているのに、誰も呼び込みをしていない。

 それに町の中を歩く人たちは、何かに警戒しているようだ。

 まるで何かを守るように歩いている。

 そんな中、どこからか声が聞こえた。

「すみません、誰かその人を捕まえてください」

 叫ぶ女性の前にはイカつい見た目をした男が走っている。

 男はそのまま俺達の目の前を通り過ぎていく。

 俺はすぐに倒れている女性に駆け寄る。

「捕まえる人ってあの人か?」

「はい! 大事な卵を盗んで行ったんです」

 ひょっとしたら今配っていると言われる卵だろうか。

 一人一つまでしかもらえないのに、卵を盗むなんて許せないな。

 俺はすぐに男を追いかけた。

「お兄ちゃんならすぐに捕まえてきますよ」

「あの人は極悪人で逃げ足の速いハッヤイーナです。流石に……」

 そのまますぐに追いかけたが、いつもやっている鬼ごっこよりは遅かった。

 俺は男を捕まえると、そのまま肩に担いで、女性のところに戻ってきた。

 暴れてめんどくさいため、しっかりと縄師のスキルでグルグル巻きにしてある。

「あの人を捕まえて――」

「緊急クエスト? いや、クリア済み?」

 俺が戻ってくると、チェリーは何かを考えていた。

「何かあったのか?」

 HUDシステムを触って何かを確認しているようだ。

「転職クエストの時のようなものが出たんですが、気のせいだったのかな?」

「ユーマもたまに触っていたけど、何かあると出てくるらしいぞ」

 以前、レックスの家を掃除する時に依頼クエストというものを手伝ったことがある。

 きっとそういうのに似たのが出てきたのかもしれない。

 今倒れている彼女を助けて欲しいとかね。

「ユーマって誰ですか?」

「チェリーと同じ勇者だぞ」

「ってことはプレイヤーか」

 チェリーは再び何かを考えていた。

「それより捕まえてきたけど、この人はどうしたら良いんだ?」

 俺は彼女に確認しようとしたら、驚いた顔をしていた。

 そんなに驚くようなことなんだろうか。

「ハッヤイーナを捕まえたんですか!?」

「ああ」

 俺は肩に担いでいた男を下ろす。

 その様子を見ていた周囲の人達は声を上げた。

「うおおおおお、あのハッヤイーナを捕まえたぞ!」

「ああ、これでこの町は平和になるぞ!」

 何やら静まりかえっていた町の様子が嘘みたいだ。

 それにこの声に気づいたのか、近くにいた門番が駆けつけてきた。

「お前らやっぱり何かしたんだな!」

「門番さん! ついにハッヤイーナが捕まりました」

「なに!?」

 これは何が起きているのだろうか。

 気づいた時には俺とチェリーが町の住人に囲まれていた。

「お兄ちゃん何かやらかしたの?」

「いや、俺にもよくわからんわ」

 戸惑っていると、女性が衝撃的な事実を語り出した。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

社畜だった私は異世界転生をする 〜第一王女なんて聞いてません〜

mikadozero
ファンタジー
私佐藤凛は、一日七時間働き、その後上司に「サービス残業お願いね」そう言われて上司は先に帰る始末。 そんな生活に私はうんざりしていた。そんな私は一日に五時間ほどしか睡眠が取れない。(時間がある日) そんな生活を送っていると流石に体がついてこなくなった。 私は、家の中で倒れてしまうのだった。独身で誰も周りに友達もおらず、勉強一筋で生きてきた私に価値などなかったのだ。 目を覚ますと、そこは知らない建物が立っているところであり!? ケモ耳が生えているもののいたりエルフの特徴に当てはまる人もいた!? だが……そんな楽しい生活を楽しみたかったが……前世の癖で仕事を求めてしまう。 そんな彼女がたどり着いた職業とは…… ※絵はイメージです

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

処理中です...