【書籍化決定】超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

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第二章 精霊イベント

48.NPC、宿屋がどこにあるかわからない

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 謎の女性チェリーを町まで案内していく。

 歩く速さが遅くて抱えて帰ろうかと思ったが、ナコのことがあったからゆっくり歩いている。

「勇者達はああやって突然出てくるのか?」

「あー、そうみたいですね? 私もいまいちわからなくて」

「なんか大変だな」

「えっ……ええ」

 風が吹く音さえも聞こえるほど静かだ。

 初対面の女性ってこんなに話しづらかっただろうか。

 女性って言っても関わるのは、ナコとラブぐらいだからな。

 ラブなんて最近は雄叫びのようなものをあげている。

「あのー、町に行ったら何をしたら良いですか?」

「ん? 何をしたら……あっ、ツボやタルを割るのはダメだぞ。あと、不法侵入もやめた方が良い」

「本当にチュートリアル通りなのね……」

 また勇者達は俺の知らない言葉を呟いていた。

「そのチュートリアルっていうのはなんだ?」

「えーっと、この世界に来る前にある説明みたいなものですね。そこでもさっき言われたことや、何かあったら町にいる人達と関わるようにしてと言われました」

 どうやら勇者達はここに来る前に説明があるらしい。

 勇者達は別の世界からこの世界に召喚されている。

 きっと神様のような人が、俺達を心配して説明しているのだろう。

 そんな話をしていると、いつのまにか町が見えていた。

 何を話せば良いのか悩んでいたが、気づいたら時間が経っていたようだ。

「ありがとうございます! あとは町の案内をしてくれる人を探して――」

「それなら俺がしようか?」

 町の案内なら一度アルにしている。

 それに勇者だと何をやらかすかわからないからな。

 町に来たばかりの勇者には要注意だ。

「では、お願いします」

 俺はそのままチェリーに町の中を案内していく。

 初めてみる町に興味深々なんだろう。

 アルの時もびっくりしながら見ていたからな。

「おっ、ヴァイト! ついに弟子をとったんか?」

 声をかけてきたのは肉屋の店主だ。

 この町で初めてみるチェリーが弟子に見えるのだろう。

 もしくは、俺に弟子を取ることを望んでいるのだろうか。

 その後も町の案内をしていると、同じように声を掛けられる。

「あのー、ヴァイトさん?」

「ああ、自己紹介していなかったね」

 チェリーは俺がヴァイトと呼ばれていることで、名前に気づいたのだろう。

「さっきから皆さんが言っている弟子ってなんですか?」

「弟子ってのは職業の見習いのことだな。確か勇者だと二つの才能があるって言っていたぞ」

「ちなみにヴァイトさんは何をされているんですか?」

「俺は社畜バイトニストだ」

「あー、バイトニスト?」

 チェリーには伝わらないようだ。

 バイトニストって言葉としての定義はないからな。

 剣士なら主に剣を持って戦う人だし、魔法使いなら魔法を使う人。

 それならバイトニストは働く人ってことだろうか。

 いや、それだとみんなと同じになってしまう。

「たくさんの職業を学んでいるやつってことだな」

「だから弓や盾を背負って、剣も持っているんですね」

 俺の見た目が気になっていたのだろう。

 ただ、それがチェリーには一番伝わりやすかったようだ。

「ちなみに見習いの時には外に出るなよ? 他の勇者達が見習いで外に出て問題になったからな」

「気をつけますね」

 俺はその後も三つのギルドの話やお金の話。できる範囲内で知識を伝えた。

「あとは宿屋ですね」

「宿屋……あれ? ここの宿屋ってどこにあったかな?」

 たしか勇者達は宿屋に泊まっていると、ユーマから聞いたことがある。

 ただ、俺は一度も宿屋を見たことがなかった。

 宿屋なら新しい職場体験ができそうだな。

 そう思い一緒に宿屋を探すことにした。


「全然ないですね……」

「こんなに宿屋ってないものなのか?」

 勇者達が泊まるっていうぐらいだから、宿屋は大きいはず。

 そう思っていたのに、全く見つからなかった。

 それに全くどこにあるのかも記憶にない。

 仕事内容的には商業街にあるはず……。

「ちょっと家に戻って聞いても良いですか?」

 一度店に戻って町に詳しいバビットに聞きにいくことにした。

「ヴァイトおか……女か?」

 バビットはなぜかニヤニヤしながら聞いてきた。

 視線の先にはチェリーがいる。

 どこから見てもチェリーは女性にしか見えない。

 もしかして男性に見えるのだろうか?

「女性ですよね?」

 そんな俺を見てバビットは大きなため息を吐いていた。

 どうやら何か間違えたようだ。

「それで何かあったのか?」

「宿屋を探していて……」

「宿屋か? それなら近くに……あれ? 俺も上手く思い出せないぞ?」

 なぜかバビットも宿屋に関しては思い出せないらしい。

 俺達が見つけられない勇者達が泊まる謎の宿屋。

 その後も町の人達に聞き回ったが、誰も宿屋の存在を思い出せなかった。
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