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第二章 精霊イベント

45.NPC、師匠を巻き添えにする

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「あー、やることないな」

 ユーマ達が隣町に行ってから、特に新しいデイリークエストも増えたわけでもなく、ボーッとする日が増えた。

 魔物の活動もあれから落ち着いているため、討伐に行かなくても良い。

 むしろ、冒険者として生計を立てている人の邪魔になってしまう。

「久しぶりに休んでるな」

「暇なのも大変ですね」

「うーん、それは大変なのか大変じゃないのかわからないな」

 昔は仕込みも30分かかっていたのに、今じゃ5分もあればできてしまう。

 朝活としてデイリークエストを半分以上終わらせて、営業前に残りを終えたら昼過ぎはやることがない。

「それなら散歩でもして来たらどうだ?」

「そんなことしたら大変なことに……ならないな!」

 ユーマ達と別れてから、俺も気になったため隣町の近くまで行ってみた。

 決して心配で後を追いかけたわけではないからな?

 その影響かわからないが、俺を追いかけ回していた勇者達も隣町に向かっていった。

 町には勇者はほぼおらず、いるのはまだ弟子入りしている生産ギルド所属の勇者達ぐらいだ。

 遠く離れた王都や小人族が住む国の方が、生産職にとっては勉強になるため、一人前になったら移動していくらしい。

「新しい職業体験ができないか探してくるよ」

 俺は新たな職業体験を求めて散歩することにした。

「ん? それは散歩と言わ……はぁー、あいつはいつになったら休むんだ」

 バビットが何かを言っていたが、俺の耳には聞こえていなかった。


 まずは冒険者ギルドに行くことにした。

「こんにちは!」

「ヴァイトくん、また戻ってきたの?」

 朝一に冒険者ギルドに行った時に、すでに事務仕事を手伝っていた。その後、戦闘職のデイリークエストを行っているため、ギルドに来るのは二回目だ。

「やることがなくて暇なんですよね」

「私達も暇よ?」

 冒険者ギルドも勇者達が隣町に移動したことで、以前の静けさを取り戻していた。

 それだけ勇者達がいたことで生活がガラリと変わったのだ。

「たまには俺と模擬戦でもするか?」

 声をかけて来たのはジェイドだ。

 今日は魔物の討伐に行っておらず、冒険者ギルドで他の冒険者と情報共有をしていた。

「模擬戦ですか? それなら鬼ごっこのほうが――」

「いやいや、俺が悪かった。あれは俺達でも無理だ」

「ん? 無理じゃないですよ? 走るだけですし、せっかくなんでみんなで走りましょうよ!」

「へっ!?」

 冒険者達の声が重なる。

 エリックを中心に冒険者達がジェイドを睨んでいた。

 みんなそんなに走るのが苦手なんだろうか。

「ねっ! 皆さんと鬼ごっこしたかったんですよねー!」

 師匠達に微笑むと、みんなため息を吐いていた。

 俺に誘われた師匠達は、渋々と訓練場に向かっていく。

「俺達今日で死ぬのか?」

「さすがに死ぬ手前でやめてくれるよね?」

「でもあの勇者達を見ていたらね……」

「はぁー」

 教え子だから、逃げるのも悪いと思ったのだろう。

 本当に師匠達にも恵まれている。

「レックスさんも行きますよ」

「いや、俺は家の掃除が……」

「それなら今日の朝やっておきましたよ?」

「ああ、いつも助かるな。っておいおい離してくれー!」

 一人だけ逃げようとしていた、レックスを捕まえて、引きずりながら俺も訓練場に向かった。

 早速ルールの確認だ。

「俺が鬼で皆さんが逃げる方で良いですか?」

「あー、この際反撃するのもありにしたらどうだ?」

「僕もあまり走れないので、そっちの方が助かります」

「そもそも鬼ってなんだ?」

 確かにこの世界に鬼は存在しない。いや、地球にも鬼はいない。

「えーっと、オーガみたいなやつですかね?」

「なら尚更反撃しないとダメじゃないか!」

 冒険者達が反撃したら、それはもう鬼ごっこではなくなってしまう。

「これでヴァイトが流されたらいいな」

「でも、あいつ地味に頭が良いぞ?」

 俺は何か他に伝わる言い方がないか考えていると、そもそも鬼ごっこのルールではなくなることに気づいた。

「それだと模擬戦になりますよね?」

「チッ! 気づいたか!」

「模擬戦で良いですけど、武器を家に取りに帰らないといけないので……」

「いやいや、あのショートランス型の矢が当たったら俺ら死ぬよ?」

 あんな矢ではさすがに死にはしないだろう。

 多少足が貫通して骨が見えるぐらいだ。

 試したことはないが、希望があるなら問題はない。

 俺の力でいくらでも回復できるからな。

「聖職者スキルで傷は治せるけど、それでも良いなら――」

「ぜひ、鬼ごっこでお願いします!」

 どうやら傷ついた体を何度も回復魔法で治して、模擬戦をする姿を想像したのだろう。

「じゃあ、逃げてくださいね」

 俺は目をつぶって30秒数える。

 師匠達とやる鬼ごっこに、俺はウキウキとした気分だ。

 こうやって元気に大人と遊ぶことって、あまりなかったからな。

 電動車椅子に乗って、追いかけ回した記憶しかない。

 数え終わりゆっくりと目を開ける。

「よし、いきま……あれ?」

 気づいた時には誰一人も訓練場からいなくなっていた。

「あいつらなら町に逃げて行ったぞ?」

 小屋で様子を見ていた解体師が、冒険者達の居場所を教えてくれた。

 どうやら町の中を使って鬼ごっこをするようだ。
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