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第一章 はじまりの町
34.NPC、親の気持ちを知る ※一部バビット視点
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ある程度魔物を倒してから町に戻ることにした。
そこまで時間は経っていないだろう。
魔物を倒すのにも理由があった。
【デイリークエスト】
職業 狂戦士
魔物を連続10体倒す 10/10
報酬 ステータスポイント3
きっかけはわからないが、町に戻ろうとしたら、新しい職業体験が出現していた。
魔物を倒した俺は魔法石を持って町に戻ると、門には見知った人物がいた。
「バビットさん?」
そこには入り口で行ったりきたりしているバビットがいた。
店の営業準備をしなくても大丈夫なんだろうか?
「ヴァイト!」
俺を見るとすぐにバビットは駆け寄り抱きついてきた。
バビットからハグをすることは一度もなく、俺は少し戸惑ってしまう。
「何かありました?」
バビットは大きく息を吐いた。
「無事でよかった」
「俺は大丈夫ですよ?」
どちらかといえば勇者達の方が危なかった。
俺は怪我一つないからな。
「お店は良いんですか?」
「ああ、早く準備をしないと間に合わないぞ!」
ホッとした表情になったバビットは店に戻って行った。
その後ろ姿はどこか、突然入院した時に見舞いに来てくれた父の姿に似ていた。
「バビットさん、なんでここにいたんだろ?」
――ドン!
急に頭に衝撃が走る。顔を上げるとそこには呆れた顔の門番がいた。
「おい、ちゃんとバビットさんに話してないだろ? 俺はヴァイトが外に出る時に聞いたよな?」
たしかにバビットに伝えたのかどうかは聞かれている。
それに一回家に戻った時に、魔物の討伐に行ってくるとバビットには伝えたはずだ。
「バビットさんのこと何にも知らないんだな。ちゃんと今日のことを話して聞いてみろよ!」
それだけ言って門番は仕事に戻った。
どういうことなのかわからない俺はとりあえず昼の営業のために店に戻った。
店に戻るとバビットは椅子に座ってボーッとしていた。
営業の準備ができているわけでもなく、俺が一度戻った時のままになっている。
「バビットさん?」
「ヴァイト、ちょっと座れ」
バビットは小さな声で、俺にこっちに来るように声をかけてきた。
表情からして怒っているわけではないようだ。
「心配かけてすみません」
きっと俺のことを心配していたのだろう。
何となくそんな雰囲気は感じ取っていた。
「ああ、急に魔物討伐に行くって言われたこっちの身にもなれ!」
ズルズルと鼻をすする音が部屋に響く。
バビットはポケットに手を入れると、何かを取り出し、テーブルの上に置いた。
「冒険者ギルドカードですか?」
そこには冒険者ギルドカードが置いてあった。ただ、名前は俺の知らない人物だ。
「俺の息子だ。冒険者になった日に帰らぬ人となった」
その言葉に俺はバビットが心配していた理由が、ストンと心の奥底に入ってきた。
そういえば、俺が使っている部屋も元々家具はあったし、貸してもらった服もバビットにしては小さかった。
ずっと一人で住んでいる独身の人かと思ったが、息子がいたらしい。
「あいつは初めて魔物討伐の依頼に行った時に、ゴブリンに囲まれて亡くなったんだ。幸いこのギルドカードだけは俺の手元に戻ってきた」
バビットにとっては唯一の形見のように感じていたのだろう。
俺は今までバビットの話を聞いたことがなかった。
別に俺自身が今までのことを聞かれることもなかったし、バビットに聞くこともなかったからな。だが、この世界での父親のような保護者でもあり、一番の師匠はバビットだ。
「これからは気をつけます」
「ああ、ずっと心配していたからな」
ボソッとバビットは何かを呟いていた。
あれだけ親孝行できず後悔していたのに、身近にいる人すら大切にできていなかった。
今日は色んなことがあったけど、それが学べただけでもよかった。
勇者達を守ることもできたしな。
「それでお昼の営業どうしますか?」
「あー、何も準備が終わっていないからな……」
店の中は営業の準備をしている途中だ。だが、外にはチラホラとお店が始まるのを待っている人達がいる。
「ひょっとしてずっと門の前で待ってたんですか?」
「はぁん!? そそそ、そんなはずねーじゃないか! 早く昼の営業の準備をしろ!」
どうやら昼の営業を始めるらしい。
今の俺にとって、バビットに対してできることは、一緒にお店を盛り上げていくことだけだろう。
「はーい、すぐに掃除して仕込みをしますね!」
俺は掃除道具一式を持って店の外に出た。
♢
ヴァイトが急に魔物の討伐に行くって言った時は、あの時の記憶がチラついた。
俺の息子は冒険者としての才能があった。
狂戦士という変わった才能があり、冒険者達の間では期待のルーキーと呼ばれていた。ただ、あいつの場合は狂戦士とは何かを教えられる師匠はいなかったからな。
バカ息子と同じ言葉を使って、魔物の討伐に向かったときは、まるで時が戻ったように感じた。
何も伝えることができず、息子は突然この世から去ったからな。
無事に帰ってきたからよかったが、もうあんな思いはしたくない。
だからこそ、俺は少しでも息子のようなやつを減らすために、この店を毎日営業している。
冒険者の師匠と弟子を巡り合わせる場だってことを、ヴァイトは知らないのだろう。
ほとんどの客が、ヴァイトのことを弟子にしたいと言っていても、あいつは働くことに集中している。
自ら社畜の道に足を踏み入れるようなやつだ。
それを知ったらさらに寝る時間も削るだろう。
全ギルドに登録して、前よりも忙しくなるのは目に見えている。
「いらっしゃいませー!」
掃除を終えたヴァイトは、冒険者だとも知らずに客を店内に案内している。
その熱い視線に気づいてないだろう。
この店は通称〝バビットの師弟結びの飯屋〟。
今日もヴァイトの才能を冒険者達は狙っていた。
そこまで時間は経っていないだろう。
魔物を倒すのにも理由があった。
【デイリークエスト】
職業 狂戦士
魔物を連続10体倒す 10/10
報酬 ステータスポイント3
きっかけはわからないが、町に戻ろうとしたら、新しい職業体験が出現していた。
魔物を倒した俺は魔法石を持って町に戻ると、門には見知った人物がいた。
「バビットさん?」
そこには入り口で行ったりきたりしているバビットがいた。
店の営業準備をしなくても大丈夫なんだろうか?
「ヴァイト!」
俺を見るとすぐにバビットは駆け寄り抱きついてきた。
バビットからハグをすることは一度もなく、俺は少し戸惑ってしまう。
「何かありました?」
バビットは大きく息を吐いた。
「無事でよかった」
「俺は大丈夫ですよ?」
どちらかといえば勇者達の方が危なかった。
俺は怪我一つないからな。
「お店は良いんですか?」
「ああ、早く準備をしないと間に合わないぞ!」
ホッとした表情になったバビットは店に戻って行った。
その後ろ姿はどこか、突然入院した時に見舞いに来てくれた父の姿に似ていた。
「バビットさん、なんでここにいたんだろ?」
――ドン!
急に頭に衝撃が走る。顔を上げるとそこには呆れた顔の門番がいた。
「おい、ちゃんとバビットさんに話してないだろ? 俺はヴァイトが外に出る時に聞いたよな?」
たしかにバビットに伝えたのかどうかは聞かれている。
それに一回家に戻った時に、魔物の討伐に行ってくるとバビットには伝えたはずだ。
「バビットさんのこと何にも知らないんだな。ちゃんと今日のことを話して聞いてみろよ!」
それだけ言って門番は仕事に戻った。
どういうことなのかわからない俺はとりあえず昼の営業のために店に戻った。
店に戻るとバビットは椅子に座ってボーッとしていた。
営業の準備ができているわけでもなく、俺が一度戻った時のままになっている。
「バビットさん?」
「ヴァイト、ちょっと座れ」
バビットは小さな声で、俺にこっちに来るように声をかけてきた。
表情からして怒っているわけではないようだ。
「心配かけてすみません」
きっと俺のことを心配していたのだろう。
何となくそんな雰囲気は感じ取っていた。
「ああ、急に魔物討伐に行くって言われたこっちの身にもなれ!」
ズルズルと鼻をすする音が部屋に響く。
バビットはポケットに手を入れると、何かを取り出し、テーブルの上に置いた。
「冒険者ギルドカードですか?」
そこには冒険者ギルドカードが置いてあった。ただ、名前は俺の知らない人物だ。
「俺の息子だ。冒険者になった日に帰らぬ人となった」
その言葉に俺はバビットが心配していた理由が、ストンと心の奥底に入ってきた。
そういえば、俺が使っている部屋も元々家具はあったし、貸してもらった服もバビットにしては小さかった。
ずっと一人で住んでいる独身の人かと思ったが、息子がいたらしい。
「あいつは初めて魔物討伐の依頼に行った時に、ゴブリンに囲まれて亡くなったんだ。幸いこのギルドカードだけは俺の手元に戻ってきた」
バビットにとっては唯一の形見のように感じていたのだろう。
俺は今までバビットの話を聞いたことがなかった。
別に俺自身が今までのことを聞かれることもなかったし、バビットに聞くこともなかったからな。だが、この世界での父親のような保護者でもあり、一番の師匠はバビットだ。
「これからは気をつけます」
「ああ、ずっと心配していたからな」
ボソッとバビットは何かを呟いていた。
あれだけ親孝行できず後悔していたのに、身近にいる人すら大切にできていなかった。
今日は色んなことがあったけど、それが学べただけでもよかった。
勇者達を守ることもできたしな。
「それでお昼の営業どうしますか?」
「あー、何も準備が終わっていないからな……」
店の中は営業の準備をしている途中だ。だが、外にはチラホラとお店が始まるのを待っている人達がいる。
「ひょっとしてずっと門の前で待ってたんですか?」
「はぁん!? そそそ、そんなはずねーじゃないか! 早く昼の営業の準備をしろ!」
どうやら昼の営業を始めるらしい。
今の俺にとって、バビットに対してできることは、一緒にお店を盛り上げていくことだけだろう。
「はーい、すぐに掃除して仕込みをしますね!」
俺は掃除道具一式を持って店の外に出た。
♢
ヴァイトが急に魔物の討伐に行くって言った時は、あの時の記憶がチラついた。
俺の息子は冒険者としての才能があった。
狂戦士という変わった才能があり、冒険者達の間では期待のルーキーと呼ばれていた。ただ、あいつの場合は狂戦士とは何かを教えられる師匠はいなかったからな。
バカ息子と同じ言葉を使って、魔物の討伐に向かったときは、まるで時が戻ったように感じた。
何も伝えることができず、息子は突然この世から去ったからな。
無事に帰ってきたからよかったが、もうあんな思いはしたくない。
だからこそ、俺は少しでも息子のようなやつを減らすために、この店を毎日営業している。
冒険者の師匠と弟子を巡り合わせる場だってことを、ヴァイトは知らないのだろう。
ほとんどの客が、ヴァイトのことを弟子にしたいと言っていても、あいつは働くことに集中している。
自ら社畜の道に足を踏み入れるようなやつだ。
それを知ったらさらに寝る時間も削るだろう。
全ギルドに登録して、前よりも忙しくなるのは目に見えている。
「いらっしゃいませー!」
掃除を終えたヴァイトは、冒険者だとも知らずに客を店内に案内している。
その熱い視線に気づいてないだろう。
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