上 下
19 / 150
第一章 はじまりの町

19.NPC、勇者の影響に驚く

しおりを挟む
 少女を教会まで案内した後は、生産街に向かった。

 どこも忙しそうに働いている。

「こんにちは!」

 武器工房に行くと、ブギーが忙しなくハンマーを振り下ろしていた。

 その隣にはできたばかりの剣の刃がいくつも置いてあった。

 いつも休憩しながらやっているため、誰かが入ってきても気づいていた。だが、今は気づかないぐらい大変なんだろう。

 今日は諦めて帰ろうとしたら、少し怒ったようなブギーの声が聞こえた。

「今は弟子を募集していない! また後で来てくれ!」

 どうやら俺を勇者だと思ったのだろう。

 勇者でも武器職人になりたい人がいたのかもしれない。

 次に防具職人であるボギーの工房に向かう。

 武器職人のブギー、防具職人のボギー。

 どことなく名前も似ていると思ったら、ブギーとボギーは同じ小人族で親戚らしい。

「こんにちは!」

「今は弟子なぞいらん! 弟子になりたいなら態度を改めて来るんだな!」

 どこかボギーも怒っているようだ。

 彼も作業が忙しいのだろう。だが、武器職人よりは危険な作業がないため、顔だけ振り向くと申し訳なさそうな顔をしていた。

「ヴァイトだったのか。すまないな!」

「いえ、大変そうだったので……」

「ああ、勇者達が横暴で迷惑しているんだよ。少し休憩でもするか」

 そう言ってボギーはコーヒーを淹れて持って来た。

 初めて飲んだ時はあまりの苦さに吐き出したのを覚えている。

 小さなコップに入れて持ってきたから、普通のホットコーヒーではないのだろう。

 これが普通に飲めるようになったら、一人前の大人になれる気がした。

「ははは、ちゃんとヴァイトのやつにはミルクを入れたからな」

「ありがとうございます」

 まだコーヒーが飲めない俺はカフェオレでもなく、ミルクコーヒーを飲んでいる。

 ほぼほぼミルクだから、俺の大人への道はまだ遠いようだ。

 スーツをピシッと着て、コーヒーを飲んでいるサラリーマンにどこか憧れていたからな。

「それで何があったんですか?」

「いや、勇者達が冒険者に登録したら真っ先に工房に来て、強い防具を作ってくれって言うんだ」

「オーダーメイドなら作るのにも時間がかかりますよね?」

「ああ、それなのにあいつらはゲームだからそれぐらいできるって……」

「ゲーム?」

「ワシも何を言っているかわからなくてな。最終的に脅してきたから、やり返してやったわ!」

 大きな声を出して笑っているが、その勇者が言っていた〝ゲーム〟という言葉に違和感を感じた。

 ゲームってあのテレビに繋げてやるゲームのことだろうか。

 あまりやったことがないため、他にゲームという言葉が存在しているのだろうか。

「そういえば、ブギーも怒っていたけど?」

「あー、あいつのところは武器屋だからな。きっと今頃武器も品薄で、直接工房に来たやつがいるのだろう」

 弟子になりたくて来た人もいる中、横暴な勇者達によって勇者そのものの印象を悪くしているようだ。

 俺はデイリークエストのために、少しだけ作業をしてから魔法工匠の工房に向かった。ただ、武器や防具の工房と違い普段通りのようだ。

 勇者達の中で武器、防具、魔法アクセサリーの順番で優先順位があるのだろう。

 帰りに商店街に寄って武器店や防具店を見て来たが、ほとんど既製品は品薄になっていた。

 夜の営業があるため店に戻ると、ジェイドとエリックが店内でまた話をしていた。

 やはりここでも勇者の話で持ちきりだ。

「あいつら結局傷だらけで帰って来たようだな」

「仕方ないよ。魔法も数発しか撃てないのに、外に出たら誰でもわかるだろう」
 
「やられちゃうに決まってるね」

 俺でも角の生えたうさぎに襲われたら、やられるってすぐにわかるぐらいだ。

 勇者達は少し頭が悪いのだろうか。

「おいおい、ヴァイトが言うなよ!」

「そうですよ! Cランクの魔物から逃げ切れただけでも運が良かったんですよ」

 AGIを上げていたおかげで、蛇の魔物にやられず済んだのは事実。

 俺にしたらそこまで危険ではなかったが、それだけで運が良かったと言われるレベルだ。

 本当に小さな魔物でも命に関わるのだろう。

 それを聞けば聞くほど、俺は外に出ずに町の中で安全に生きていた方が良い気がした。

 その後も勇者達の話題が良い悪い両方の意味で、噂を聞くことが増えた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

社畜だった私は異世界転生をする 〜第一王女なんて聞いてません〜

mikadozero
ファンタジー
私佐藤凛は、一日七時間働き、その後上司に「サービス残業お願いね」そう言われて上司は先に帰る始末。 そんな生活に私はうんざりしていた。そんな私は一日に五時間ほどしか睡眠が取れない。(時間がある日) そんな生活を送っていると流石に体がついてこなくなった。 私は、家の中で倒れてしまうのだった。独身で誰も周りに友達もおらず、勉強一筋で生きてきた私に価値などなかったのだ。 目を覚ますと、そこは知らない建物が立っているところであり!? ケモ耳が生えているもののいたりエルフの特徴に当てはまる人もいた!? だが……そんな楽しい生活を楽しみたかったが……前世の癖で仕事を求めてしまう。 そんな彼女がたどり着いた職業とは…… ※絵はイメージです

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

処理中です...