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第一章 はじまりの町

13.NPC、町の異変に気づく

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 昼休憩中に俺はいつものように武器職人の工房に来ていた。

「今日で剣ができそうか?」

「短剣ですけどやっと形になってきました」

 工房で少しずつ武器の作り方を聞いて、俺の体型に合わせて剣を作っていた。

 大人から見たら短剣だが、今の俺にしたら普通の剣のサイズだ。

 形は歪でも俺の中で初めて作る剣一号になるだろう。

 研磨作業が終わり、あとは柄をつけたら完成する。

「そういえば、さっきから外が騒がしいな」

 工房の中はずっと鉄を叩く音がするため、外の様子がわかりにくい。

 ちょうど手を止めたタイミングで、外が騒がしいことに気づいた。

「ちょっと見てきますね」

 俺は外に出ると町の異様な光景に驚いた。

 人々が何かから逃れるように、門の方から走ってきた。

「何かあったんですか?」

 走っている人に声をかけた。

「魔物が町に入ってきたんだ!」

 どうやら魔物が町の中に入ってきたようだ。しかも、それが普通の魔物とかではないらしい。

「おい、今すぐにワシ達も逃げるぞ!」

 他の工房達もすぐに気づいたのか、逃げる準備を始めていた。

 町の中にいても冒険者や門番がいるから、別に問題はないだろう。

 それなのにここまで逃げること自体がおかしいと思った。

 せっかく作った剣を置いておくのももったいないと思い、布を巻いて背中にくくりつける。

 俺は人の流れに沿って住宅街に向かって走ることにした。

 商業街からも人が逃げるように走ってきている。

 遠くの方、門近くに何か細長い何かが動いているような気がした。

「バビットさん!」

 俺はバビットを呼んで探した。

 ちょうど休憩中だから、逃げ切れているはずだ。だが、胸の奥でザワザワと嫌な予感がしていた。

 まだ魔物との距離はあるだろう。

 俺は人の流れに逆らいながら、一度店に戻ることにした。

 もちろんバビットの名前を呼びながらだ。

 途中で見つけられたら問題ない。

 遠くでは叫び声が聞こえてくる。

 まだ逃げ切れていない人達もいるのだろう。

 魔物が動いているところを見たことがないため、魔物があんなに大きな存在だとは思わなかった。

 俺が知っているのは角が生えたうさぎと大きめのトカゲぐらいだ。

――ガチャ!

 店に着いた俺はすぐにバビットを探す。

「バビットさーん!」

 大きな声を出しても返事はない。

 物音もしないため、住宅街の方に避難したのだろう。

 俺もすぐに逃げようと店を出る。

 みんな避難したのか、周囲が静かになっていた。だが、今はそれどころではなかった。

 店の前には巨大な蛇がいた。

 さっき見えた細長い何かはこの蛇だったのだろう。

 さっきまで門近くにいたはずなのに、いつのまにか目の前にいる。

 ギロリと目が合うと、大きく口を開けた。

「ヴァイト逃げろー!」

「バビットさん!?」

 商店街の方には肩から血を流しているバビットが立っていた。

 どうやら避難できなかったのだろう。

 俺はすぐにバビットの方に向かった。

 足が速くなった俺が門まで全力で走ったら、すぐに着くからな。

「バビットさん大丈夫ですか?」

「あっ……ああ」

 肩から血は流れてはいるものの、命は特に問題なさそうだ。

 周囲にいる人達も足や手から血を流しているが、どうにか動けるようだ。

 あの大きさの蛇なら丸呑みしたり、締め殺したりできるだろう。だが、大怪我程度で済んでいる。

「ヴァイトだけでも良いから早く逃げろ! 今のあいつは俺達と遊んでいるぐらいにしか思ってない」

 バビットの話を聞いて、この状況への違和感が結びついた。

 店の目の前にいる魔物は人間達を甚振いたぶって楽しんでいるのだろう。

 殺したり呑み込んだら、何も楽しくないのだろう。

 魔物は周囲をキョロキョロとしていた。

 何となく俺を探しているような気がした。

『キシャアアアアア!』

 魔物が大きな声を上げると、店の中に入ろうとしていた。

 おいおい、あれは俺の新しい家でもあるし、バビットの大事な店だ。

「くっ……」

 バビットもその光景に耐えられないのか顔を伏せていた。

 新しい体と生活を手に入れて楽しんでいたのに、それを軽々と壊していく。

 それにまだデイリークエストも終わっていないのに、邪魔をするなんて許せない。

 俺は背中にくくりつけていた歪な形をした剣を下ろし、布を外していく。

「おい、ヴァイト何をする気だ!」

「俺の大事なもんばかり壊して……」

「おい、変なことは考えるな! 今すぐに逃げろ!」

 バビットは叫ぶがもう間に合わないだろう。

 魔物が俺の存在に気づいていた。

 どこかニヤリと笑っているような気がする。

 効率重視のバイトニストの邪魔をしやがって……。

 俺は魔物に向かって走り出した。

「ヴァイトー!」

 集中している俺の耳には、バビットの声が聞こえなくなっていた。
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