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第一章 はじまりの町

8.NPC、街の周囲の変化を知る

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 昼の営業時間に間に合うように戻ると、なぜか冒険者達がすでに並んでいた。

「時間に遅れましたか?」

「いや、単に腹を空かせた冒険者達が並んでいるだけだ」

 お店の中にはまだ人はおらず、バビットが営業の準備を進めていた。

「中に案内して注文だけ聞いておいた方が良いですよね?」

「ああ、仕込みも終わるからそれだと助かる」

 俺は店の看板を立てかけて、外に並んでいた冒険者を中に入れた。

 その中にはジェイドとエリックもいた。

 二人とも依頼の帰りなんだろう。

「今日も店は忙しそうだね」
「俺達冒険者ばかりが来ているけどな」

 いつもは冒険者達が集まって来店することもないし、まばらでくることが多い。

 みんな同じ時間に帰ってくる理由があるのだろうか。

「注文は何にしますか?」

「あー、俺はいつもの肉盛りにヴァイトが作ったサラダを頼む」

「僕も同じやつでお願いします」

 二人は付け合わせにあったサラダが気に入ったのだろう。

 他にも数人サラダを多めに食べたい人達がいた。

 肉だけでは脂が胃に溜まって飽きてしまう。

 それがさっぱりするサラダによって少し軽減したのだろう。

「バビットさん、また肉盛りとサラダが二人前入りました」

「おう!」

 バビットにメニューを伝えると、すぐにサラダの準備を始める。

 AGIにステータスポイントを振ったおかげで、昨日よりもさらに速く動ける。そのため、準備をしながら店内も回れるようになった。

 我ながらポイントの振り方は間違えていないようだ。

「肉盛りとサラダ持っていきますね」

「おっ……おう!」

 俺が速く動きすぎる影響か、バビットが焦らされている気がする。

「魔物がなぜこんなに増えたんだ?」

 何か魔物について話している声が聞こえてきた。

 少し速度を緩めて、冒険者達の話に耳を傾けた。

「スタンピードではないはずだぞ」

「それなら魔物の数が急に増えたということか」

「俺達もしばらくは魔物討伐を続けないといけないな」

 俺はそんな冒険者達に料理を運んでいく。

 聞こえてくるのはどこの魔物を倒したのか。

 何が出てきたのかという話ばかりだった。

「あっ、ヴァイトちょっと良いか?」

 ジェイドに呼ばれた俺はすぐに向かう。

「追加のご注文ですか?」

「いや、この後の予定だが、しばらくは一人で訓練できるか?」

「今日お昼前に冒険者ギルドに言ったら、職員の方に冒険者がいないと使えないと言われましたよ」

 俺がお昼前に冒険者ギルドに行っていたことを伝えると、二人はびっくりした顔をしていた。

「いやー、ヴァイトがそこまで冒険者になりたいとは思わなかったぞ」

「僕もヴァイトは料理人を目指しているのかと……」

 バビットの仕事を手伝っているから、なおさら料理人になると思っていそうだ。

 俺としてはフリーランスで働いても良さそうな気もするが、そうはいかないのだろうか。

「時間が空いたので、今のうちに職業体験をしておこうと思って……」

「あー、自ら社畜の道に首を突っ込むのか」

「料理人にウェイター……冒険者修行に――」

「今日魔物の解体も見に行きました」

「はぁー」
「はぁー」

 二人のため息が重なった。どこか呆れた顔をしている。

 効率的に職業体験をするために、AGIにたくさんステータスポイントを振っているからな。

「とりあえずヴァイトが来たら、一人でも訓練場を使えるように伝えておくな」

「ありがとうございます!」

 これで時間を有効活用できるだろう。 

 次は生産街で職業体験ができないかと思っている。

 まだ武器や防具を作る生産街は通っただけで、中に入ったことはない。

 一度でも良いからどうやって作っているかの見学だけはしたい。

「僕達はこれを食べたら、また外で依頼があるからね」

 疲れた顔をしている二人にとって、ここでご飯を食べることが、リラックスできる唯一の方法なんだろう。

 だから、冒険者達がいつもより多く並んでいる気がした。

 俺はその後も人一倍速く動いて昼の営業を終えた。


 夜の営業までの時間は急いで冒険者ギルドの訓練場に行って、精神統一をしながら剣の素振りをしてきた。

 ちゃんと職員に伝わっており、名前を名乗ったらすぐに訓練場を使わせてくれた。

 チラッと小屋が見えたが、解体師の男は山のように積まれた魔物を捌いていた。

 やはり魔物が増えたことが影響しているのだろう。

 デイリークエストを終えた俺は生産街に行くことにした。

 昨日のように鉄を叩くような音が外にまで響いていた。

 俺は音を頼りに武器を作っているお店を探すことにした。

 外からでもチラッと中が見えるため、変に怪しまれないだろう。

「あそこにいるのは小人かな?」

 俺とそこまで身長が変わらないおじさんが、家の中で作業をしていた。

 鉄を叩く音が響くのは、おじさんが金床かなとこに何かを置いてハンマーで叩いていたからだ。

 小さい体なのに、その強いチカラはどこから出ているのだろう。

「明日も見にこようかな!」

 俺はそんな様子を眺めていると、夜の営業時間に近くなったため店に戻ることにした。
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