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第一章 はじまりの町

3.NPC、初めて記念日

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 朝起きるとやはり俺の目の前には半透明な板が出てきていた。ただ、昨日とは違って詳細に分かれていた。

【デイリークエスト】

 ♦︎一般職

 職業 ウェイター
 料理を10品以上運ぶ 0/10
 報酬 ステータスポイント3

 ♦︎戦闘職

 職業 剣士
 剣を10回素振りをする 0/10
 報酬 ステータスポイント3

 ♦︎生産職

 職業 料理人
 料理を1品作る 0/1
 報酬 ステータスポイント3

「一般職、戦闘職、生産職ってなっているのか」

 内容自体は特に変化はなく、毎日少しずつ経験を積んでいけということだろう。

 この他にも様々な職業が体験できるのかも気になるところだ。

 そもそも俺が働くって想像したこともなかったからな。

 着替えて一階に降りて行くと、バビットが何か考え事をしていた。

「おはようございます。何かありましたか?」

「いや、せっかくだからヴァイトが作った料理を出そうと考えていた」

 バビットはあれから考えていたのだろう。

 料理人としては美味しいものを提供したいが、何も調理していないものを出しても良いのかと。

 サラダを食べる常識がないと、確かにお客さんも食べづらいだろう。

「あっ、それなら見習い料理人のメニューとして出してみたらどうですか?」

「見習い料理人?」

「バビットさんの料理じゃなくて、見習い料理人のメニューであれば値段を少し下げて提供したら食べてくれそうですよね」

「ああ、それならいけそうだな」

 見習い料理人、尚且つ子どもの作った料理なら、仕方ないから食べてみようってなるだろう。

 実際そこまで手が加わってないから、すぐに作ることができる。

「まずは知ってもらうために、おまけにしてみてはどうですか?」

 イメージとしては、ランチについているような小皿に乗ったサラダを提案した。

 いきなり見習い料理人のメニューでも頼みづらいしね。

「ならヴァイトはその準備をしてくれ!」

「わかりました!」

 俺はすぐに店内外の掃除をするために、ほうきを持って外に向かう。

 いつもと比べ体が軽い気がする。

 きっとサラダが出せると思って、俺はウキウキしているのだろう。

 昨日より早く掃除を終えたら、すぐに調理場に向かう。

「ん? もう掃除は終わったのか?」

「はい!」

 バビットもしっかり掃除したのか気になっているようだ。

 別にサボったつもりはないからな。

 早速準備をしようとサラダに使う皿を探す。ただ、問題が発生した。

「大きい皿しかない……」

「そりゃーみんな大食いだからな」

 この世界には食事を分ける文化はないため、基本的に一人一品になっていた。

 スープの皿もラーメンを食べる器と同じぐらいの大きさをしている。

「じゃあ、諦めた方が良いですね」

 初めてお客さんに食べてもらえると喜んでいたが、お皿の問題で呆気なく白紙になってしまった。

 俺は少し残念に思いながら、椅子に腰掛けた。ただ、掃除が早く終わってやることがなかったからな。

 それがバビットには落ち込んでいるように見えたのだろう。

 どこかあたふたとしていた。

「ヴァイト!」

「どうしました?」

「肉料理の横に置くのはどうだ! それなら味が混ざらないだろ?」

 バビットが提案したのは、香辛料を使って焼いた肉料理の付け合わせだった。

 確かに肉汁は出ているが、タレを使っていないため味が混ざることは少なそうだ。

 俺はすぐに調理場に戻り、サラダを作り置きしていつでも盛り付けられるように準備した。

 やっぱりバビットは優しい男のようだ。


「いらっしゃいませ!」

「おっ、今日もちゃんと働いているな」

 店に訪れたのは剣を教えてくれた冒険者だった。

 今日も仲間の冒険者達と一緒に来てくれたようだ。

「こいつは俺の弟子にする予定だからな。昨日から素振りを教えているんだ」

 冒険者の男は嬉しそうに仲間に話していた。

 俺はいつの間にか弟子になっていたようだ。

 それを聞いて仲間が近寄ってくる。

「何言ってるんだ? この子は魔法使いの才能があるよ?」

「はぁん? どう考えても剣士だろ」

「ちょっと手を貸してもらっても良いか?」

「あっ、はい」

 言われたように手を差し出すと、ローブを着た冒険者は手を握る。

 どこか手が温かくてジンジンとしているような気がする。

 前は触れられても、感触がわずかしか感じられなかったからな。

 これが久しぶりの人の温もりだろう。

【デイリークエスト】

 職業 魔法使い
 精神統一を10分する 0/10
 報酬 ステータスポイント3

 どういう基準でデイリークエストが出てきたのかはわからない。ただ、俺は魔法使いの才能もあるのだろうか。

「やっぱり……」

「何かありましたか?」

 俺が半透明な板を閉じていると、ローブを着た冒険者は呟いていた。

「君は魔法使いの才能もあるね!」

「ええええええ!」

 隣にいた冒険者が俺よりも驚いていた。

「いやいや、こいつは料理人になるぞ?」

 俺が戻ってくるのが遅かったため、心配してバビットも客席まで見に来ていた。

「いやいや、絶対剣士だろ!」

「いやー、ここは魔法使いだろ!」

 なぜみんながこんなにあたふたしているのか、俺にはわからなかった。

 別に料理人をやりながら、剣士や魔法使いになっても良いはずだ。

 共働きをしていた母も俺が病気になってから、早く帰れるように転職していた。

「転職すれば良いじゃないですか?」

「ヴァイトは知らないかもしれないが、大体才能は一つしかないし、その職に就くのが当たり前なんだぞ?」

 バビットが言うことが正しいなら、俺は才能の塊ってことになる。

 これこそ自惚れても良い気がする。しかも、ちゃっかりバビットは俺のことを料理人にすると言っていた。

 サラダが美味しいって認めたんだな。

「通路の邪魔になるので椅子に座ってくださいね」

 後ろにもお客さん達が来店してきた。

 冒険者達を椅子に座らせて、俺はすぐにバビットを調理場に連れて行く。

「早く作らないとお客さんが待ってますからね!」

「おっ……おう」

 バビットもさすがに今の状況で、言い合いをしている場合ではないと思ったのだろう。

 俺は焼かれた肉の隣に小さくサラダを置いて、オイルとレモンを混ぜたドレッシングを少しだけ垂らす。

「お待たせしました」

 冒険者達はいまだに俺を剣士にするのか、魔法使いにするのかを話していた。

 この世界は子どもに優しい世界なんだろうか。

「ん? なんだこれは?」

「ああ、料理人見習いである自分が作ったんです」

 俺の言葉に二人してバビットを睨んでいた。

 一方のバビットはニヤリと笑っている。

「早く食べないとお肉が冷めちゃいますよ?」

「ああ」

 どこかムスッとした顔で食べる冒険者達。ただ、サラダを食べた瞬間驚いた顔をしていた。

「なんだこれ……」

「料理人の才能もあるのかよ……」

 どうやら彼らにはサラダが受け入れられたようだ。まぁ、脂っぽい肉とさっぱりしたサラダは相性が良いからね。

 今日は俺の料理をお客さんに、初めて食べてもらった記念日になった。
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