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第一章 はじまりの町
2.NPC、職業体験をする
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朝の日差しに俺は目を覚ました。
眩しいと感じるその日差しでさえも、今の俺には嬉しく感じる。
以前はしっかりと瞼を開ける力すらなかったからな。
大きく体を伸ばして、ベッドから降りると目の前に何かが浮いていることに気づいた。
視界を変えても付いてくる謎の半透明の板に俺は手を触れてみた。
「デイリークエスト?」
そこには日本語で何か色々と書かれているようだ。
【デイリークエスト】
職業 ウェイター
料理を10品運ぶ 0/10
報酬 ステータスポイント3
「料理を運べってことかな?」
デイリークエストが何かはわからない。ただ、手伝いをしろって言われているのは確かだ。
働かざる者食うべからずって言うぐらいだからね。
「これは邪魔だな」
いざ、ベッドから降りると、半透明な板がずっと目の前にあって動きにくい。
ジーッと眺めると、半透明な板は消えた。
どうやら消えろと念じると消える仕組みらしい。
「おーい、小僧起きたか?」
下から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
そういえば、おじさんに自己紹介をしていなかった。
昨日はご飯を食べるだけで精一杯だったし、その後はすぐにベッドに寝かされた。
早寝早起きって大事だからな。
「起きてます!」
俺は返事をして一階に降りていく。
一階ではすでに朝食の準備ができていた。
今日も美味しそうなお肉の匂いが、鼻の粘膜をくすぐる。
「おいおい、よだれが出てるぞ」
どうやら美味しい匂いに釣られたようだ。
俺は急いで口を拭いて、椅子に座る。
「今日から店を手伝ってもらうからたくさん食べろよ」
「はい!」
俺は手を合わせて食事の前の挨拶をする。
そんな俺を興味深そうな顔でおじさんは見ていた。
「それはなんだ?」
「えーっと、食材と作った人に対してのお礼みたいものです」
何のためにやっているかと言われたらわからない。ただ、日本では幼い時から教えられるから癖になっているのだろう。
「じゃあ、俺も――」
――パチン
おじさんは勢いよく手を合わせた。
「いただきます!」
「いただきます!」
挨拶を終えると俺はスープを一口飲んだ。
「うんまっ!」
ついつい言葉が漏れ出てしまう。
本当にここの食事は美味しいからな。
「ははは、そんなに美味そうに食ってくれると俺も嬉しいぞ」
おじさんは俺の頭を軽く撫でる。
大きな手が父を思い出させる。
俺が病気になってから、疲れた顔でよく病室に会いに来てたな。
「そういえば、まだ自己紹介していなかったですね」
「ああ、そうだな。俺はバビットだ」
おじさんの名前はバビットと言うらしい。
名前を聞くと明らかに、どこか知らない異世界に生まれ変わったのだと思い知らされる。
「俺はケン――」
元々俺には健康が一番という簡単な理由で、名付けられた〝健一〟という名前がある。
ただ、この世界で健一はさすがに無理があるだろう。
「俺はヴァイトって言います」
「おお、かっこいい名前だな」
健康な名前で浮かんだのが、看護師が朝に血圧とかを測りにくる時にバイタルサインって言っていた言葉がある。
それをかっこよくしてみたが、どうやら違和感はないようだ。
「じゃあ飯を食ったら掃除から始めるか」
「わかりました!」
俺にとったら掃除は小学生低学年ぶりだ。
開店前に一通り掃除をするだけで、俺はついつい笑ってしまう。
本当に太陽の光を浴びて、動けるだけで幸せを感じる。
「おう、昨日の坊主じゃないか!」
「あっ、昨日はありがとうございました」
「また今日も夜行くからな。暇な時があったらこの先にある冒険者ギルドに寄ったらいい。俺が剣を教えてやるからな」
そう言って昨日ご飯を食べた男達は一直線に歩いて行った。
きっとあの先に冒険者ギルドがあるのだろう。
「その前に今日の目標は10品運ぶことだからな」
掃除を終えた俺は店の中に入り、テーブルを布で拭いて開店の準備を終える。
掃除だけでも開店準備にギリギリ間に合うくらいだ。
「よし、店を開けるぜ!」
早速お店の営業が始まった。
開店してからすぐにお客さん達が入ってきた。
この店は中々繁盛している店のようだ。
俺はバビットに言われたテーブルまで、ただひたすら運んでいく。
【デイリークエストをクリアしました】
突然声が聞こえてきても、呼んでいる声が大きくてそれどころではない。
まずはどうにか乗り越えるしかないからな。
デイリークエストの料理を10品運ぶなんて、あっという間に終わってしまった。
それだけ店は忙しくバタバタとしていた。
今までこれを一人でやっていたって思うと、バビットは大変だっただろう。
「ヴァイトこれも頼む!」
「あっ、今行きます!」
俺はバビットに呼ばれて急いで料理を取りに行く。
健康な体で動きやすくなったが、まだ思春期ぐらいの体だと店内を動き回るのもドタバタしてしまう。
バビットが言うには、ちゃんとご飯を食べていなかった影響で成長が遅いかもしれないと言っていた。
実年齢だともう少し上なんだろうか。
それでも必死に働くと、いつの間にか昼の営業は終わっていた。
「ははは、もっと食べて体力をつけないといけないな!」
テーブルに顔を伏せて疲れている俺を見て、バビットは笑っていた。
「体力って中々簡単につかないですよね」
「とりあえず食べて冒険者ギルドに行ってくるんだろ?」
冒険者ギルドに来るように誘われていたのを、バビットは見ていたのだろう。
忙しくて頭の中から抜けていた。
俺は急いで冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは店を出てから、本当に真っ直ぐ奥に向かって歩いていけばあった。
町の中央に冒険者ギルドがあるのだろう。
中に入ると鎧やローブを着た人達、他にも剣や弓など間近で見たことない物を持っている人ばかりだ。
そんな冒険者達を俺は興味津々で見ていた。
「ははは、坊主やっぱり来たか!」
声をかけてくれたのは冒険者の男だった。
「あっ、こんにちは!」
「せっかく来たなら訓練でも受けて行くか?」
「えっ、そんな急には――」
「目は嘘をつけないからな」
俺は首元を掴まれると、そのまま冒険者ギルドの裏に連れて行かれた。
どうやら冒険者ギルドと訓練場は一体になっているようだ。
「とりあえずこれを持ってみろよ!」
冒険者に渡されたのは木剣だった。
今まで剣道をやったことがない。そのため、木剣を持つのも初めてだ。
手に持つと思ったよりも重くて地面に落ちてしまった。
「ははは、たくさん素振りをして力をつけないといけないな」
【デイリークエスト】
職業 剣士
剣を10回素振りをする 0/10
報酬 ステータスポイント3
冒険者の言葉に反応したのか、また半透明の板が出てきた。
さっきと違うのは職業がウェイターから剣士になったことだ。
それに俺にしか見えていないのか、冒険者は俺が変なところを見ているのが気になったのか不思議な顔をしていた。
「素振りってそんなに大事なんですか?」
「ああ、小さい頃の努力が今後関わってくるからな。俺は木剣を小さい時に振っていたが、他のやつは弓や槍を使うやつもいるぞ」
「ならどうして剣を?」
「小僧は剣の才能があると思ったからだ」
どうやら俺に剣の才能があると思って、声をかけてきたらしい。
本当にその直感を信じられるのだろうか。
才能は人によって様々らしい。
その中で魔法は才能でかなり左右される。
魔法が存在していると聞いて胸が高鳴った。
見る機会があれば一度は見てみたいな。
「じゃあ、とりあえず剣を持って数回振ってみろ」
俺は言われた通りに木剣を持って大きく振り下ろす。
木剣が重いため両手でどうにか振り回せるレベルだ。
これでも片手剣サイズで、両手剣というもう少し大きいのも存在するらしい。
【デイリークエストをクリアしました】
しばらく剣を振っていたらデイリークエストをクリアしていた。
さっきは忙しくて半透明な板の中を見ていなかったが、よく見たら文字がいっぱい書かれていた。
「STR……DEX……なんだこれ?」
「ああ、急に静かになったと思ったら、ステータスのことを言っているのか」
「ステータスですか?」
「ああ、剣を振っていると力がつくだろ? そうするとSTRが上がる仕組みになっているんだ」
俺にはデイリークエストで手に入れたポイントを割り振るように見えているが、他の人達は違うらしい。
力が強くなったのを数値化するためにSTRが存在しているようだ。
「他には何があるんですか?」
力強さのSTR
器用さのDEX
丈夫さのVIT
素早さのAGI
知力のINT
精神力のMND
「全部で六種類あり、見えるのはステータスが確認できる水晶ぐらいだな」
俺は目の前の半透明な板で確認ができる。だが、他の人達はステータスが簡単に確認できないらしい。
新しい体に生まれ変わったのが影響しているのだろうか。
俺はステータスを閉じるように願うと目の前から消えた。
消えるなら出すのも簡単だろう。再び意識すると目の前に現れる。
「ははは、冒険者になったらステータスが確認できるから大きくなったら登録すると良いぞ!」
どうやらステータス確認の水晶は冒険者ギルドにあるようだ。
俺はその後も素振りを続けた。
夜の営業を終えると俺はバビットに呼ばれた。
「ヴァイトは料理を覚える気はないか?」
「えっ?」
俺はウェイターとして働くのに精一杯だったが、何かが気になったのだろうか。
メニューもちゃんと覚えたし、テーブルも間違わずにできていたはずだ。
「ああ、ヴァイトが思ったよりも記憶力が良かったから料理を教えようと思ってな!」
俺が何かやらかしたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。
これも冒険者が言っていた才能を感じたというやつだろうか。
「ひょっとして才能が――」
「ははは、自惚れんなよ」
才能ではなく単純に教えようと思っただけだった。
少し自惚れそうになった俺はせっかくだから教えてもらうことにした。
料理ってやることがなかったし、火元の近くに行ったら母親に怒られていたからな。
調理場に行くと、やはりあの半透明な板が現れた。
【デイリークエスト】
職業 料理人
料理を1品作る 0/1
報酬 ステータスポイント3
今日はウェイター、剣士、その次に料理人と出てきた。
デイリークエストは一日一回ではなく、たくさん存在しているのだろうか。
「簡単な野菜のオイルがけを教えるからな」
バビットは水を沸かし、その中に野菜を入れた。
そこにオリーブオイルみたいなオイルをかけて食べるらしい。
簡単に言えば茹で野菜に近いのだろう。ただ、茹で野菜で食べるより、そのまま洗ってオイルとレモンとかで食べた方が美味しそうな気がする。
「あのー、生野菜は食べないんですか?」
「生野菜なんて料理人がすることじゃねーぞ?」
どうやらそのまま出すという行為が、料理人としてのポリシーに反するようだ。
「でもせっかく新鮮な野菜があるなら、そのままオイルとレモンとかをかけた方が美味しそうな気がします」
「そんなに言うならヴァイトが作ってみろ!」
どこかイライラしているバビットの横で、俺は葉物を洗ってから水気をしっかり取る。
その後、オイルと絞ったレモン、軽く塩を振ってみた。
【デイリークエストをクリアしました】
こんな簡単なものでも、料理と認識されるらしい。
どこか怪しんだ目をしているバビットはフォークを持つと、俺が作った料理を一口食べた。
怒っていてもちゃんと食べてくれるほど、バビットは優しい。
それに普通のサラダなのに、美味しいのか表情として隠せていなかった。
「美味しいんですね」
「自惚れんなよ。明日また作ってもらうからな」
それだけ言って部屋に戻って行った。
俺は本当に優しい人達に恵まれているのだろう。
部屋に戻った俺は半透明な板に触れる。
冒険者に言われたステータスがずっと気になっていた。
力をつけたらSTRが上がっていく。
ただ、俺だけが見える板には数字の横に上向きの矢印と名前の横にポイント9と書いてあった。
【ステータス】
名前 ヴァイト ポイント9
STR 10
DEX 10
VIT 10
AGI 10
INT 10
MND 10
全てが全部10なのは何か理由があるのだろうか。
俺はとりあえずSTRに触れてみる。
「おっ、11になった!」
やっぱりポイントを割り振れるようになっているようだ。
デイリークエストが俺の知っている言葉なら、また明日もあるだろう。
そうなると効率よく動けた方が便利な気がする。
それに今日一番大変だったのは、ウェイターとして料理を運ぶスピードが遅かったことだ。
それが少しでも楽になると、仕事も素早くなるだろう。
「とりあえずAGIに振っておけば良いか」
残りのポイントを全てAGIに振ることにした。
これで少しは足が速くなって、料理も素早く運べるだろう。
【ステータス】
名前 ヴァイト
STR 11 +1
DEX 10
VIT 10
AGI 18 +8
INT 10
MND 10
俺は半透明な板を閉じると、すぐに瞼を閉じて眠りについた。
眩しいと感じるその日差しでさえも、今の俺には嬉しく感じる。
以前はしっかりと瞼を開ける力すらなかったからな。
大きく体を伸ばして、ベッドから降りると目の前に何かが浮いていることに気づいた。
視界を変えても付いてくる謎の半透明の板に俺は手を触れてみた。
「デイリークエスト?」
そこには日本語で何か色々と書かれているようだ。
【デイリークエスト】
職業 ウェイター
料理を10品運ぶ 0/10
報酬 ステータスポイント3
「料理を運べってことかな?」
デイリークエストが何かはわからない。ただ、手伝いをしろって言われているのは確かだ。
働かざる者食うべからずって言うぐらいだからね。
「これは邪魔だな」
いざ、ベッドから降りると、半透明な板がずっと目の前にあって動きにくい。
ジーッと眺めると、半透明な板は消えた。
どうやら消えろと念じると消える仕組みらしい。
「おーい、小僧起きたか?」
下から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
そういえば、おじさんに自己紹介をしていなかった。
昨日はご飯を食べるだけで精一杯だったし、その後はすぐにベッドに寝かされた。
早寝早起きって大事だからな。
「起きてます!」
俺は返事をして一階に降りていく。
一階ではすでに朝食の準備ができていた。
今日も美味しそうなお肉の匂いが、鼻の粘膜をくすぐる。
「おいおい、よだれが出てるぞ」
どうやら美味しい匂いに釣られたようだ。
俺は急いで口を拭いて、椅子に座る。
「今日から店を手伝ってもらうからたくさん食べろよ」
「はい!」
俺は手を合わせて食事の前の挨拶をする。
そんな俺を興味深そうな顔でおじさんは見ていた。
「それはなんだ?」
「えーっと、食材と作った人に対してのお礼みたいものです」
何のためにやっているかと言われたらわからない。ただ、日本では幼い時から教えられるから癖になっているのだろう。
「じゃあ、俺も――」
――パチン
おじさんは勢いよく手を合わせた。
「いただきます!」
「いただきます!」
挨拶を終えると俺はスープを一口飲んだ。
「うんまっ!」
ついつい言葉が漏れ出てしまう。
本当にここの食事は美味しいからな。
「ははは、そんなに美味そうに食ってくれると俺も嬉しいぞ」
おじさんは俺の頭を軽く撫でる。
大きな手が父を思い出させる。
俺が病気になってから、疲れた顔でよく病室に会いに来てたな。
「そういえば、まだ自己紹介していなかったですね」
「ああ、そうだな。俺はバビットだ」
おじさんの名前はバビットと言うらしい。
名前を聞くと明らかに、どこか知らない異世界に生まれ変わったのだと思い知らされる。
「俺はケン――」
元々俺には健康が一番という簡単な理由で、名付けられた〝健一〟という名前がある。
ただ、この世界で健一はさすがに無理があるだろう。
「俺はヴァイトって言います」
「おお、かっこいい名前だな」
健康な名前で浮かんだのが、看護師が朝に血圧とかを測りにくる時にバイタルサインって言っていた言葉がある。
それをかっこよくしてみたが、どうやら違和感はないようだ。
「じゃあ飯を食ったら掃除から始めるか」
「わかりました!」
俺にとったら掃除は小学生低学年ぶりだ。
開店前に一通り掃除をするだけで、俺はついつい笑ってしまう。
本当に太陽の光を浴びて、動けるだけで幸せを感じる。
「おう、昨日の坊主じゃないか!」
「あっ、昨日はありがとうございました」
「また今日も夜行くからな。暇な時があったらこの先にある冒険者ギルドに寄ったらいい。俺が剣を教えてやるからな」
そう言って昨日ご飯を食べた男達は一直線に歩いて行った。
きっとあの先に冒険者ギルドがあるのだろう。
「その前に今日の目標は10品運ぶことだからな」
掃除を終えた俺は店の中に入り、テーブルを布で拭いて開店の準備を終える。
掃除だけでも開店準備にギリギリ間に合うくらいだ。
「よし、店を開けるぜ!」
早速お店の営業が始まった。
開店してからすぐにお客さん達が入ってきた。
この店は中々繁盛している店のようだ。
俺はバビットに言われたテーブルまで、ただひたすら運んでいく。
【デイリークエストをクリアしました】
突然声が聞こえてきても、呼んでいる声が大きくてそれどころではない。
まずはどうにか乗り越えるしかないからな。
デイリークエストの料理を10品運ぶなんて、あっという間に終わってしまった。
それだけ店は忙しくバタバタとしていた。
今までこれを一人でやっていたって思うと、バビットは大変だっただろう。
「ヴァイトこれも頼む!」
「あっ、今行きます!」
俺はバビットに呼ばれて急いで料理を取りに行く。
健康な体で動きやすくなったが、まだ思春期ぐらいの体だと店内を動き回るのもドタバタしてしまう。
バビットが言うには、ちゃんとご飯を食べていなかった影響で成長が遅いかもしれないと言っていた。
実年齢だともう少し上なんだろうか。
それでも必死に働くと、いつの間にか昼の営業は終わっていた。
「ははは、もっと食べて体力をつけないといけないな!」
テーブルに顔を伏せて疲れている俺を見て、バビットは笑っていた。
「体力って中々簡単につかないですよね」
「とりあえず食べて冒険者ギルドに行ってくるんだろ?」
冒険者ギルドに来るように誘われていたのを、バビットは見ていたのだろう。
忙しくて頭の中から抜けていた。
俺は急いで冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは店を出てから、本当に真っ直ぐ奥に向かって歩いていけばあった。
町の中央に冒険者ギルドがあるのだろう。
中に入ると鎧やローブを着た人達、他にも剣や弓など間近で見たことない物を持っている人ばかりだ。
そんな冒険者達を俺は興味津々で見ていた。
「ははは、坊主やっぱり来たか!」
声をかけてくれたのは冒険者の男だった。
「あっ、こんにちは!」
「せっかく来たなら訓練でも受けて行くか?」
「えっ、そんな急には――」
「目は嘘をつけないからな」
俺は首元を掴まれると、そのまま冒険者ギルドの裏に連れて行かれた。
どうやら冒険者ギルドと訓練場は一体になっているようだ。
「とりあえずこれを持ってみろよ!」
冒険者に渡されたのは木剣だった。
今まで剣道をやったことがない。そのため、木剣を持つのも初めてだ。
手に持つと思ったよりも重くて地面に落ちてしまった。
「ははは、たくさん素振りをして力をつけないといけないな」
【デイリークエスト】
職業 剣士
剣を10回素振りをする 0/10
報酬 ステータスポイント3
冒険者の言葉に反応したのか、また半透明の板が出てきた。
さっきと違うのは職業がウェイターから剣士になったことだ。
それに俺にしか見えていないのか、冒険者は俺が変なところを見ているのが気になったのか不思議な顔をしていた。
「素振りってそんなに大事なんですか?」
「ああ、小さい頃の努力が今後関わってくるからな。俺は木剣を小さい時に振っていたが、他のやつは弓や槍を使うやつもいるぞ」
「ならどうして剣を?」
「小僧は剣の才能があると思ったからだ」
どうやら俺に剣の才能があると思って、声をかけてきたらしい。
本当にその直感を信じられるのだろうか。
才能は人によって様々らしい。
その中で魔法は才能でかなり左右される。
魔法が存在していると聞いて胸が高鳴った。
見る機会があれば一度は見てみたいな。
「じゃあ、とりあえず剣を持って数回振ってみろ」
俺は言われた通りに木剣を持って大きく振り下ろす。
木剣が重いため両手でどうにか振り回せるレベルだ。
これでも片手剣サイズで、両手剣というもう少し大きいのも存在するらしい。
【デイリークエストをクリアしました】
しばらく剣を振っていたらデイリークエストをクリアしていた。
さっきは忙しくて半透明な板の中を見ていなかったが、よく見たら文字がいっぱい書かれていた。
「STR……DEX……なんだこれ?」
「ああ、急に静かになったと思ったら、ステータスのことを言っているのか」
「ステータスですか?」
「ああ、剣を振っていると力がつくだろ? そうするとSTRが上がる仕組みになっているんだ」
俺にはデイリークエストで手に入れたポイントを割り振るように見えているが、他の人達は違うらしい。
力が強くなったのを数値化するためにSTRが存在しているようだ。
「他には何があるんですか?」
力強さのSTR
器用さのDEX
丈夫さのVIT
素早さのAGI
知力のINT
精神力のMND
「全部で六種類あり、見えるのはステータスが確認できる水晶ぐらいだな」
俺は目の前の半透明な板で確認ができる。だが、他の人達はステータスが簡単に確認できないらしい。
新しい体に生まれ変わったのが影響しているのだろうか。
俺はステータスを閉じるように願うと目の前から消えた。
消えるなら出すのも簡単だろう。再び意識すると目の前に現れる。
「ははは、冒険者になったらステータスが確認できるから大きくなったら登録すると良いぞ!」
どうやらステータス確認の水晶は冒険者ギルドにあるようだ。
俺はその後も素振りを続けた。
夜の営業を終えると俺はバビットに呼ばれた。
「ヴァイトは料理を覚える気はないか?」
「えっ?」
俺はウェイターとして働くのに精一杯だったが、何かが気になったのだろうか。
メニューもちゃんと覚えたし、テーブルも間違わずにできていたはずだ。
「ああ、ヴァイトが思ったよりも記憶力が良かったから料理を教えようと思ってな!」
俺が何かやらかしたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。
これも冒険者が言っていた才能を感じたというやつだろうか。
「ひょっとして才能が――」
「ははは、自惚れんなよ」
才能ではなく単純に教えようと思っただけだった。
少し自惚れそうになった俺はせっかくだから教えてもらうことにした。
料理ってやることがなかったし、火元の近くに行ったら母親に怒られていたからな。
調理場に行くと、やはりあの半透明な板が現れた。
【デイリークエスト】
職業 料理人
料理を1品作る 0/1
報酬 ステータスポイント3
今日はウェイター、剣士、その次に料理人と出てきた。
デイリークエストは一日一回ではなく、たくさん存在しているのだろうか。
「簡単な野菜のオイルがけを教えるからな」
バビットは水を沸かし、その中に野菜を入れた。
そこにオリーブオイルみたいなオイルをかけて食べるらしい。
簡単に言えば茹で野菜に近いのだろう。ただ、茹で野菜で食べるより、そのまま洗ってオイルとレモンとかで食べた方が美味しそうな気がする。
「あのー、生野菜は食べないんですか?」
「生野菜なんて料理人がすることじゃねーぞ?」
どうやらそのまま出すという行為が、料理人としてのポリシーに反するようだ。
「でもせっかく新鮮な野菜があるなら、そのままオイルとレモンとかをかけた方が美味しそうな気がします」
「そんなに言うならヴァイトが作ってみろ!」
どこかイライラしているバビットの横で、俺は葉物を洗ってから水気をしっかり取る。
その後、オイルと絞ったレモン、軽く塩を振ってみた。
【デイリークエストをクリアしました】
こんな簡単なものでも、料理と認識されるらしい。
どこか怪しんだ目をしているバビットはフォークを持つと、俺が作った料理を一口食べた。
怒っていてもちゃんと食べてくれるほど、バビットは優しい。
それに普通のサラダなのに、美味しいのか表情として隠せていなかった。
「美味しいんですね」
「自惚れんなよ。明日また作ってもらうからな」
それだけ言って部屋に戻って行った。
俺は本当に優しい人達に恵まれているのだろう。
部屋に戻った俺は半透明な板に触れる。
冒険者に言われたステータスがずっと気になっていた。
力をつけたらSTRが上がっていく。
ただ、俺だけが見える板には数字の横に上向きの矢印と名前の横にポイント9と書いてあった。
【ステータス】
名前 ヴァイト ポイント9
STR 10
DEX 10
VIT 10
AGI 10
INT 10
MND 10
全てが全部10なのは何か理由があるのだろうか。
俺はとりあえずSTRに触れてみる。
「おっ、11になった!」
やっぱりポイントを割り振れるようになっているようだ。
デイリークエストが俺の知っている言葉なら、また明日もあるだろう。
そうなると効率よく動けた方が便利な気がする。
それに今日一番大変だったのは、ウェイターとして料理を運ぶスピードが遅かったことだ。
それが少しでも楽になると、仕事も素早くなるだろう。
「とりあえずAGIに振っておけば良いか」
残りのポイントを全てAGIに振ることにした。
これで少しは足が速くなって、料理も素早く運べるだろう。
【ステータス】
名前 ヴァイト
STR 11 +1
DEX 10
VIT 10
AGI 18 +8
INT 10
MND 10
俺は半透明な板を閉じると、すぐに瞼を閉じて眠りについた。
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聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
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とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
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