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51.飼い主、思いを込めて

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 町の中をグルグルと散歩して色々なところに行ったが、あの人達には会うことはなかった。

 決して迷子じゃなくてお散歩だからね!

 でも、ずっと見られている気がしていたのは気のせいかな?

「こんなところで食べてていいのかしら?」

「ここがいいもん!」
『俺もここの肉がいいぞ!』

 結局ご飯を食べるのはいつもの宿屋だ。

 中々一人でお店に入るのって怖いもん。

 ちゃんとケルベロスゥが入っても良いか、確認をしないといけないからね。

『僕もここのお肉好きだよ?』
『そんなに気にしなくていいわよ?』

 僕達はお肉を黙々と食べていく。

「もうそろそろこの町を出ていくんでしょ?」

「そうなの? もうすこしいるってきいたけど?」

「あら? 今日お父さんは荷物を買いに行くって言ってたわよ?」

「にもつ?」
『荷物?』

 僕とベロは顔を見合わせる。

 荷物を買いに行くなら一緒に行けばよかったのにな。

『いや、男と言ったらハレンチだぞ? ハレンチ!』
『そうよ? ハレンチでたぶらかしているのよ』

「はれんち?」

『もう! 兄さんも姉さんも変なこと教えないで!』

 相変わらずベロはケルとスゥに怒っているようだ。

 それよりもケルベロスゥの後ろにいるけど良いのかな?

「おい、俺がハレンチってどういうことだ?」

『『『ワオオオオオン!?』』』

 突然、声をかけられてケルベロスゥはビクッとしていた。

 ベロは何も悪くないのに、一緒に反応してしまっている。

『いや、ハレンチとは言ってないぞ?』
『そうよ! 淑女がハレンチなんて言ってないわよ!』

 まさかこのパターンって……。

 ケルとスゥはお肉を食べている真ん中のベロを見つめた。

『『ベロが言った!』』

 やっぱりベロのせいにしていた。

 こういう時って立場が弱い末っ子が、悪いことをなすりつけられるからね。

「うん、それは無理があるからな! おててさんがこっちを見ているぞ?」

『へっ……』
『いやっ……』

『『ワオオオオオン!』』

 おててさんにケルベロスゥは連れて行かれて怒られていた。

 一番関係ないベロも体が一緒だから逃げられないでいる。

「パパおかえり」

「ああ、ただいま」

 マービンはたくさん買い物をしたのか、荷物をたくさん持っていた。

「ぼくたちもいっしょにいけばよかったね」

「あー、ちょっとな……」

 一緒にお買い物に行きたくなかったのかな?

 マービンは少し困った顔をすると、ゴソゴソと麻の袋から何かを取り出した。

「これは?」

「ココロへのプレゼントだ。腕を治してくれて助かった」

 マービンが渡してきたのは小さな短剣だった。

 僕が持てる大きさの物を選んだのだろう。

 特に見た目がキラキラしているわけではないのに、僕にはキラキラしているように見えた。

「ありがとう!」

 僕は初めてプレゼントをもらった。

 ママやパパからももらったことがなかったからね。

 我が家はお金がない家だったからね。

『ほぉ、ハレンチだと思ったらプレゼントを買っていたのか』
『あなたも罪な男ねー!』
『兄さんと姉さんは言葉遣いに気をつけてよね!』

 ケルベロスゥはそんなマービンにスリスリとしていた。

『俺は肉か?』
『私は宝石かしら?』

 ケルとスゥはおねだりをしていた。

 そんな姿を見たベロは呆れてそっぽ向いている。

「お前達のはないからな?」

『なっ……!?』
『えっ……!?』

 ケルとスゥはもらえると思ったのかな?

 何ももらえないことに気づいて、落ち込むケルとスゥに僕はあるものを取り出す。

「はい、プレゼント!」

『うぇ!?』
『へっ!?』

 僕は変態から小さな腕輪をいくつか買った。

 でも、ケルベロスゥには小さいかな?

 耳に引っかけられそうな気がした僕は耳につけていく。

 少し耳が窮屈そうだけど、黒い石が似合っているね。

「ほうせきじゃないけどね?」

『いいのよ! 宝石より気持ちが大事なの!』

 スゥはよほど嬉しいのか、尻尾をブンブンと振り回していた。

『俺は肉が良かったけどな』

『なら兄さんの僕にちょうだいよ!』

『はぁん!? 絶対渡すもんか!』

 ケルは急いで耳を手で押さえつけていた。

 ベロは僕の方をチラチラと見つめてくる。

 ベロだけまだ渡していないため、尻尾が嬉しいのか悲しいのかわからずクルクル回っている。

 尻尾は気持ちに正直だもんね。

『ココロ……僕のは?』

「ベロのもあるよ」

 僕がベロの耳にもつけてあげると、尻尾は天井に向かってピーンって伸びた。

 もう尻尾が取れそうなほどブンブン動かしている。

『ココロすき!』

 ベロは僕にスリスリしてきた。

「パパ、てをだして」

 言われた通りマービンは腕を出した。

 そこに僕は腕輪をつけていく。

 紐と黒い石でできた腕輪だけど、マービンの小麦色の肌と合っていた。

「おててさん! おででさん!」

 僕が名前を呼ぶと急いで駆け寄ってきた。

 いつもひょこっと出てくるのにね。

「いつもありがとう」

 おててさんとおででさんにも付けると、お互いに手を打ちつけていた。

 嬉しくて拍手をしているのだろう。

 あとは僕もつければ――。

「みんないっしょだね!」

 僕はみんなで付けられるように腕輪を買った。

 僕達家族は誰も血が繋がってもいないし、知らないことはたくさんある。

 それでもみんなで協力して、これからも一緒にいられるように願いを込めた。

 きっとこれからも一緒にいられるだろう。
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