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第二章 地下の畑はダンジョンです

73.ホテルマン、真実を聞く

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「兄ちゃん達大丈夫か?」

 しばらくすると牛島さんと喫茶店の店主がやってきた。

 店主は忘れ物を届けにきたのだろうか。

「その白骨遺体はどこにあるんですか?」
「ああ、兄ちゃん教えてくれ!」

 どこか焦った様子で俺に近づいてきた。

 俺達を心配して来てくれたのかな?

 川を指さすと、どこか息を呑むような表情に変わった。

「警察に電話はしておいた。何か写真とかはあるか?」

「一応スマホに撮ったのがあります」

 俺がスマホを取り出すと、奪うように二人は手に取った。

 いつもの様子とは考えられない二人に俺は戸惑うばかりだ。

「ここに白骨遺体があって、緑ぽい布に隠れて見えにくいと思いますが……」

「うっ……」

 その場で店主は崩れるように座り込んだ。

「ありがとうございます。きっとうちの娘……紗羅に間違いないと思います」

「本当に娘さんですか?」

「あの子は緑色のワンピースがお気に入りだったんです」

 紗羅ってサラに似ていると言っていた消息不明になっている店主の娘さんだったはず。

 緑色の布は彼女が着ていたワンピースではないかという意見だ。

 まさかこんな形で見つかるとは思いもしなかった。

 ただ、白骨遺体になっているため、本人かどうかはわからない。

 警察が来て今後どうするかで話が変わるだろう。

 警察が到着するまで発見者は身動きが取れないため、しばらく待つことにした。


「ご馳走はまた今度だな」

「カップラーメンがあるよ!」

 シルはいつものようにポケットからカップラーメンを取り出した。

 シルにとったらカップラーメンもご馳走だから問題はないのだろう。

「せっかくのお盆だが、彼らにとったらよかったかもしれないな」

「捜索していた娘さんがやっと見つかりましたもんね」

「ああ、兄ちゃん達のおかげだ」

 流された盾を探していた時に偶然に出会っただけで、花に囲まれて目につきやすかっただけだ。

 花流しをした後でなければ気づかなかっただろう。

「牛島さんが血相を変えて来た時はびっくりしました」

「ははは、それはすまない。ひょっとしたら妻か息子かと思ってな」

「奥さんとお子さんですか?」

「ああ……」

 その後、警察が到着するまで牛島さんは家族のことを話してくれた。

 なぜ田舎に一人で住んでいるのか、少し謎に思っていた。

 それは今もまだ帰ってこない家族をずっと待っているからだった。

 たまに自宅へ行った時に、焦った顔をして玄関の扉を開けていたのを覚えている。

 きっといなくなった妻と息子が帰ってきたと思ったのだろう。

「おっ、警察がきたな」

 サイレンを鳴らしたパトカーが到着した。

 事前に牛島さんが川の中にいると伝えたのもあり、消防隊も一緒に駆けつけてきた。

「すみません、発見者はどなたになりますか?」

「俺です!」

 警察官に発見した時の状況を伝えて、スマホで撮影した画像を見せる。

 すぐに消防隊が川に向かって様子を見にいく。

「いくら探索者だからって無謀なことをしたらダメだぞ!」

「すみません」

 そして俺はしばらくの間、警察官に怒られることになった。

 まだ探索者という扱いになっているが、これが一般人だとバレたら大変なことになるだろう。

「妻と紗奈も呼んできました」

 一度喫茶店の店主は家に帰って、奥さんと紗奈ちゃんを連れてきた。

 紗奈ちゃんも状況がわかっているのか、いつもの笑顔はなかった。

「遺体を発見しました。今すぐに引き上げます」

 どうやら本当に白骨遺体が存在していたようだ。

 周囲を青色の目隠しシートで囲み、川からあげられた白骨遺体が見えないように準備された。

 それでも店主の奥さんは間を通り抜けて中に入ろうとする。

「危ないので中には入らないでください」

 警察官に止められて中には入れないようだ。

 ただ、二人は必死に声をかけていた。

「紗羅! お母さんだよ!」
「紗羅! お父さんだ! やっと帰ってきてくれたんだな」

 まだ紗羅ちゃんだとは決まっていない。

 でも今のところ可能性としては高いのだろう。

 消防隊も子どもの白骨遺体と言っていたから、尚更紗羅ちゃんのような気がした。

 これから法医学者の手により、すぐに身元確認され誰かわかるだろう。

 二人の姿を見ていると、胸が締め付けられる思いだ。

 きっと今までずっと帰ってくると思い、探していたのだろう。

「ねーねー、ふく!」

「どうしたんだ?」

 シルは俺の服を引っ張って山の方を指さしていた。

「ここからみえるね」

「喫茶店かな?」

 俺達の立っているところから、山の上にある喫茶店がよく見えていた。

「ああ、ずっと紗羅は俺達を見ていたんだな……」

「そうだね……。いつもありがとう」

 きっと紗羅ちゃんはずっと家族を見守っていたのだろう。

「お姉ちゃん、ごめんなさい。私がわがままなんて言ったから……」

 三人はお互いを慰めるように抱き合って泣いていた。

 残念な結果ではあるものの、不安に押しつぶされるような日々がなくなるのは、不幸中の幸いだろう。

「俺達も帰ろうか」

「そうだな」

 無事に白骨遺体は回収され俺達は家に帰ることにした。
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