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第二章 地下の畑はダンジョンです

71.ホテルマン、盾を探しにいく

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「兄ちゃん、やっと落ち着いたか」

「お見苦しいところ見せてすみません」

「ははは、まさか桃太郎になりたかったとは知らなかったよ」

 どうやら牛島さんは少し勘違いをしているようだ。

 ただ、慰めてもらったのもあるため、修正するには忍びない。

 それに修正してご馳走を食べられないのは困る。

 ああ、牛島さんのご飯に釣られて元気になったとはシル達を笑えないな。

「周りの人には説明しておいたぞ」

「ありがとう」

 矢吹はケトが話したことや、サラやエルの妖術について見ていた人に話をしていた。

 って言っても矢吹が探索者だと名乗り、探索者ギルド所属のカードを見せたら納得していた。

 最近はネコも探索者……いや、探索猫になれることに驚いていたが、向こうが勝手に勘違いをしているから問題ないのだろう。

 田舎だから言われたことを信じてしまうのだろう。

 結果、俺達は移住してきた探索者一家という扱いだ。

 最近はテレビで探索者の活動が取り上げられること多く、配信者の活躍もあり、そこまで距離を置かれることもなさそう。

 無事に花流しも終わり、帰ろうとしたタイミングであることに気づいた。

「おい、やぶきんの盾は大丈夫だったか!?」

「あっ……忘れてた……!」

 矢吹は自分の大事な盾を流されたことを忘れていた。

 それだけ周囲の対応に追われていたのだろう。

 俺が疲れておかしくなっていたから、迷惑をかけていたな。

「俺が弁償するよ」

「いいのか? あれ300万円近くするぞ」

「はぁん!?」

「探索者の装備ってそれぐらい高いものだし、命に関わるものだからな。盾はパーティーを守る要だから特に高いぞ」

 思ったよりも高い盾に俺は今後の生活が真っ暗になりそうだ。

 そんなに高い盾をあんな簡単に投げるなよとあの時値段を知っていたら言いたい。

 むしろケトより盾の方が価値が――。

 いや、そんな野暮なことを言うのはやめよう。

 ケトがさっきからジーッと睨んでいるからな。

「ごめん。今の俺には――」

「ははは、それぐらいわかってるよ!」

 特に気にしていないのか、矢吹は俺の肩をバシバシと叩いていた。

 本当に俺の親友は良いやつだな。

「あれ魔力で繋がっているから普通に見つけられるからな」

「なぁ!?」

「いやー、さっきまでの幸治がめんどくさかったからな。仕返しだな」

 どうやら俺は騙されていたようだ。

 ただ、盾がちゃんと手元に戻るようなら良かった。

 それに盾はどこかで止まり、取りに行ける距離にあるらしい。

「じゃあ、俺達は盾を探しに行ってから帰りますね」

「ああ、気をつけてな」

 牛島さんは材料を買って先に待っていると。

 この間ダンジョンで迷子になったのもあり、何かあった時のために鍵は渡している。

 毎回窓ガラスを割っていたら修理も大変だからな。


 車に乗って川の横を下っていく。

「ヒャヒャ!」
「うっ……オイラ酔いそう」

 盾を探して車で向かっている俺達は凸凹した道を走っている。

 振動が車に伝わってきて、車酔いとの戦いになっていた。

 道は舗装されてはいないが、車が通れるような幅は確保できている。

「シルはたのしいよ!」

 相変わらずシルは何事も楽しめる性格で羨ましいな。

「たしかここら辺だと思うけどな」

 一度車を止めて、ガードレールから体を乗り出して盾を探す。

「あの木に引っかかってないか?」

 盾は途中に生えている大きな木の枝に引っかかっていた。

 川の流れは速いが、俺か矢吹なら手を伸ばして届く範囲だろう。

 あとは木が俺達の体重を支えられるかどうかだ。

「ロープがあるから問題ないが、俺より幸治の方が軽いからな。弁償してくれるんだろ?」

 矢吹は笑みを浮かべていた。

 たしかに体格がしっかりしている矢吹よりは俺の方が良いだろう。

 それに上げてもらうときは、矢吹が引っ張ってくれるから問題ない。

 俺は体にロープを結び、木にくくりつける。

 素早い矢吹の動きに、探索者は普段からこんなに危ないことをしているのだろう。

「じゃあ、行ってくるわ!」

「気をつけろよ」

 みんなに見送られながら、俺はゆっくりと川に向かって下っていく。

 盾まであと少しのところで何か異変に気づいた。

「あれって花流しの花……うわあああああああ!」

 どうやら俺は花達に埋もれた白骨化した遺体を見つけたようだ。
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