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第二章 地下の畑はダンジョンです
70.ホテルマン、鬼退治にも行けない
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「おい、どうするんだよ」
「俺に言われてもあんなに勢いが強いと入れないだろ」
「はやくするにゃああああ」
流れるケトと矢吹の盾。
俺達はどうすることもできずにいた。
「おい、あのネコ喋ってないか?」
「そんなことあるはずないだろ」
周囲にいた人達もケトが話しているのに気づきだした。
耳を澄まして助けることもなく、ジーッと聞いている。
「お前ら呪うにゃああああ」
「呪うって言ってるだろ?」
「俺にはにゃああああしか聞こえないぞ」
このままではケトが猫又だとバレてしまうし、呪われたら土砂崩れだけでは済まされないだろう。
ひょっとしたら川が氾濫して、水に流されて大災害になるのかもしれない。
「今行くぞ!」
急いで川に入ろうとしたら、サラが服を引っ張っていた。
「私が止めるよ」
そういえばサラは河童だから川の中も泳げたはず。
ただ、こんなに川の流れが速くても大丈夫なんだろうか。
「溺れないか?」
「大丈夫だよ」
サラはニコッと笑うと、足を広げて構えた。
川に入るには変わった姿勢のような気がするが……。
「はあああああ!」
手を思いっきり川につけると、川の水が左右に分かれて道のようになっていく。
何か妖術を使ったのだろうか。ただ、妖怪と知っている人達は問題ないが、ここには一般の人もいる。
チラッと見てみるが、本当に言葉通りに驚いて空いた口が塞がらない状態でいた。
「次は私の出番だね」
「あっ、ちょっとまっ――」
「はあああああ!」
今度はエルが手をかざすと、分かれた川の側面が一気に凍っていく。
わざと声を出しているのは何かの演出のつもりだろうか。
「あいつらなんかすげーぞ!」
「まるで探索者みたいだな」
周囲の言葉にサラとエルの耳はピクピクとしていた。
「「ふふふふ」」
嬉しそうに笑っているが、今はそれどころではない。
俺は急いで川の水でできた道の中央にいるケトのところへ向かう。
「ゲホゲホ……絶対呪うにゃ! あいつら皆殺しにゃ! にゃにゃにゃにゃにゃにゃ」
咳き込んでいるケトは何か呪いのような言葉を発していた。
さすがにこんな状況だと俺も近づきたくはないんだが……。
「ケト大丈夫か?」
「呪って……ふく? 怖かったにゃー!」
ケトは急いで俺の肩を目掛けて飛び乗ってきた。
どうやら恐怖で自我を失っていたようだ。
そりゃー、溺れたら誰だってそうなるだろう。
「ふくいそいで!」
「なにー?」
シルの声が聞こえ、大きく返事をする。
だが、何を言っているのかうまく聞き取れない。
岸にいる人達がどこか焦っているように見える。
「うしろ!」
「う……し……ろ?」
――パキッ!
嫌な音がして振り返ると、凍っていた川の側面がひび割れてきていた。
凍っていても川の勢いが強く、押し出されそうになっている。
俺は急いで岸に向かって走る。
「おおお、あいつ足が速いぞ!」
「がんばれええええ!」
俺を応援している声が聞こえてきた。
まるで陸上選手になったような気分だ。
だてに囮役として、死ぬ気で走っていたわけではないからな。
「あと少し……」
もう少しで岸に着くと思った瞬間、宙に何かが浮いていた。
あれは魚か?
足元に落ちてくる川魚。
咄嗟に避けるにも避けきれずにそのまま踏んでしまった。
「うわあああああ!」
「うにゃああああ!」
勢いよく魚を踏んづけてしまえば、どうなるかは誰だってわかるだろう。
俺は音を立ててその場で転んだ。
その瞬間、凍っていた川は割れて水が押し寄せてきた。
「やぶきーん!」
「本当にあいつらしいな」
俺は我が家のヒーロー矢吹に助けを求めた。
全力で走っておもいっきり転んだ影響か、膝がガクガクして立てない。
きっと骨折はしていないだろうが、このままだと俺とケトは川に流されるだろう。
だが、我が家のヒーローは違った。
「探索者は有能だからな」
一瞬で矢吹は近づき、俺を抱きかかえて岸まで運ぶ。
いや、これってはじめから矢吹にケトを助けに行かせばよかったんじゃないのか?
「おおおおおお!」
町の人達が拍手で出迎えてくれるが、讃えられるのは矢吹だけだった。
「さすが探索者だな!」
牛島さんすら矢吹の肩を叩いて褒めている。
俺だって死ぬ気で走ったぞ……。
「どうせ俺はヒーローを照らす脇役なんだよな。やるのは囮役ばかりだし……。はぁー、このまま川に流れて桃太郎として生まれ変わればよかったんだ」
黒い感情が口からどんどんと溢れてくる。
「はぁ!?」
「ふくがオイラよりめんどくさくなったぞ」
「はぁー、桃太郎になって美味しくおじいさんとおばあさんに食べられたらいいんだ」
「やばいぞ! 幸治がおかしくなったぞ!」
「桃太郎は食べられないにゃ!」
矢吹とケトは大きな声で何か言っているが、俺の耳には一切聞こえてこなかった。
「どうせ鬼退治にもいけないさ……」
「俺に言われてもあんなに勢いが強いと入れないだろ」
「はやくするにゃああああ」
流れるケトと矢吹の盾。
俺達はどうすることもできずにいた。
「おい、あのネコ喋ってないか?」
「そんなことあるはずないだろ」
周囲にいた人達もケトが話しているのに気づきだした。
耳を澄まして助けることもなく、ジーッと聞いている。
「お前ら呪うにゃああああ」
「呪うって言ってるだろ?」
「俺にはにゃああああしか聞こえないぞ」
このままではケトが猫又だとバレてしまうし、呪われたら土砂崩れだけでは済まされないだろう。
ひょっとしたら川が氾濫して、水に流されて大災害になるのかもしれない。
「今行くぞ!」
急いで川に入ろうとしたら、サラが服を引っ張っていた。
「私が止めるよ」
そういえばサラは河童だから川の中も泳げたはず。
ただ、こんなに川の流れが速くても大丈夫なんだろうか。
「溺れないか?」
「大丈夫だよ」
サラはニコッと笑うと、足を広げて構えた。
川に入るには変わった姿勢のような気がするが……。
「はあああああ!」
手を思いっきり川につけると、川の水が左右に分かれて道のようになっていく。
何か妖術を使ったのだろうか。ただ、妖怪と知っている人達は問題ないが、ここには一般の人もいる。
チラッと見てみるが、本当に言葉通りに驚いて空いた口が塞がらない状態でいた。
「次は私の出番だね」
「あっ、ちょっとまっ――」
「はあああああ!」
今度はエルが手をかざすと、分かれた川の側面が一気に凍っていく。
わざと声を出しているのは何かの演出のつもりだろうか。
「あいつらなんかすげーぞ!」
「まるで探索者みたいだな」
周囲の言葉にサラとエルの耳はピクピクとしていた。
「「ふふふふ」」
嬉しそうに笑っているが、今はそれどころではない。
俺は急いで川の水でできた道の中央にいるケトのところへ向かう。
「ゲホゲホ……絶対呪うにゃ! あいつら皆殺しにゃ! にゃにゃにゃにゃにゃにゃ」
咳き込んでいるケトは何か呪いのような言葉を発していた。
さすがにこんな状況だと俺も近づきたくはないんだが……。
「ケト大丈夫か?」
「呪って……ふく? 怖かったにゃー!」
ケトは急いで俺の肩を目掛けて飛び乗ってきた。
どうやら恐怖で自我を失っていたようだ。
そりゃー、溺れたら誰だってそうなるだろう。
「ふくいそいで!」
「なにー?」
シルの声が聞こえ、大きく返事をする。
だが、何を言っているのかうまく聞き取れない。
岸にいる人達がどこか焦っているように見える。
「うしろ!」
「う……し……ろ?」
――パキッ!
嫌な音がして振り返ると、凍っていた川の側面がひび割れてきていた。
凍っていても川の勢いが強く、押し出されそうになっている。
俺は急いで岸に向かって走る。
「おおお、あいつ足が速いぞ!」
「がんばれええええ!」
俺を応援している声が聞こえてきた。
まるで陸上選手になったような気分だ。
だてに囮役として、死ぬ気で走っていたわけではないからな。
「あと少し……」
もう少しで岸に着くと思った瞬間、宙に何かが浮いていた。
あれは魚か?
足元に落ちてくる川魚。
咄嗟に避けるにも避けきれずにそのまま踏んでしまった。
「うわあああああ!」
「うにゃああああ!」
勢いよく魚を踏んづけてしまえば、どうなるかは誰だってわかるだろう。
俺は音を立ててその場で転んだ。
その瞬間、凍っていた川は割れて水が押し寄せてきた。
「やぶきーん!」
「本当にあいつらしいな」
俺は我が家のヒーロー矢吹に助けを求めた。
全力で走っておもいっきり転んだ影響か、膝がガクガクして立てない。
きっと骨折はしていないだろうが、このままだと俺とケトは川に流されるだろう。
だが、我が家のヒーローは違った。
「探索者は有能だからな」
一瞬で矢吹は近づき、俺を抱きかかえて岸まで運ぶ。
いや、これってはじめから矢吹にケトを助けに行かせばよかったんじゃないのか?
「おおおおおお!」
町の人達が拍手で出迎えてくれるが、讃えられるのは矢吹だけだった。
「さすが探索者だな!」
牛島さんすら矢吹の肩を叩いて褒めている。
俺だって死ぬ気で走ったぞ……。
「どうせ俺はヒーローを照らす脇役なんだよな。やるのは囮役ばかりだし……。はぁー、このまま川に流れて桃太郎として生まれ変わればよかったんだ」
黒い感情が口からどんどんと溢れてくる。
「はぁ!?」
「ふくがオイラよりめんどくさくなったぞ」
「はぁー、桃太郎になって美味しくおじいさんとおばあさんに食べられたらいいんだ」
「やばいぞ! 幸治がおかしくなったぞ!」
「桃太郎は食べられないにゃ!」
矢吹とケトは大きな声で何か言っているが、俺の耳には一切聞こえてこなかった。
「どうせ鬼退治にもいけないさ……」
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