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第二章 地下の畑はダンジョンです

69.ホテルマン、どんぶらこどんぶらこ

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「雨が止んだね」

「できるかな?」

 雨が止み、外を眺めていた俺達は花流しができないかと待っていた。

「外はどうだった?」

「川の水位も上がっていないので、たぶん大丈夫かと思います」

 花流しの運営委員は一度川の様子を見に行っていたが、どうやら川の水位や勢いは増していないらしい。

「それなら……」

「ああ、少し時間は早いけど花流しができるぞ」

「やったー!」

 シルは花流しができることを喜んでいた。

 こういう行事って今まで一度もやったことがなかったからな。

 こんなに喜んでくれるなら、秋頃にはハロウィンもある。

 それも民泊のイベントとしてやっても良さそうだ。

 いや……さすがにハロウィンだとリアルホラーになりそうだからやめた方が良いか。

「ふくー!」

「ああ、なんだ?」

「いくよ!」

 どうやら考えごとをしていたら、俺だけ置いてかれていたようだ。 

 川はサラと出会った浅いところから、花飾りを流すことになっていた。

 そのため、一度車に乗って川に向かっていく。

「今日は川で遊ばないからな」

「まえもふくがさきにあそんでいたよ?」
「そうだよ。まるでオイラ達が先に遊んでいたような言い方をしてる。呪うよ?」

 あの時は誰一人川に近づこうとしなかったから、俺が遊び方を教えただけだ。

 決して俺が遊びたかったわけではないからな。

「まぁ、今日は花流しがメインだからな」

「そろそろ着くぞー」

「わぁー!」

 あんなことを言いながらも、川を見ると楽しそうに目を輝かせていた。

 そんな姿に俺と矢吹は笑いが止まらない。

「サラは花流ししたらすぐに車に戻ろうか」

「うん」

 サラは花流しがあると決まってから、傍から見てもわかるぐらい落ち込んでいた。

 そもそも河童って川にいる妖怪だったっけ?

 川にはチラホラと花飾りを持ってきている人達が集まってきた。

 普段から人と関わることが少ないため、町に住んでいる人がこんなにいるのかと思ってしまう。

 唯一関わっているのは牛島さんぐらいだもんな。

 俺達は横に並んで川岸の前でしゃがみ込む。

 一つ一つ花飾りが浮かぶたびに、川の流れに乗ってゆっくりと下流に運ばれる。

 他の人を見ているだけで、趣きを感じられる。

 まるで川に花がいくつも咲いているようだ。

 手に持った花飾りをゆっくりと水面に浮かべる。

 花飾りから香る花と止んだばかりの雨のにおいが、鼻の奥を突き抜けていくかのように流れていく。

「いってらっしゃいー」

 シルは花飾りに手を振りながら、川を流れていくのを見送っていた。

 みんなの思いが静かに流れていく。

 書いた願いが叶うといいね。

――ドォーン!

 その時、後ろから大きな音が聞こえてきた。

 川の勢いが速くなり、まるで夕暮れになるかのように川の色が濁っていく。

「土砂崩れが起きたぞ! 川から離れろ!」

 その言葉を聞いて、近場にいたシルとサラを抱きかかえる。

 矢吹も牛島さんとエルを抱えていた。

 さすが探索者は力持ちのようだ。

 川から少し離れたら、紗奈ちゃんがキョロキョロとしていた。

「ケトちゃんはいないの?」

 まさか……。

「にやあああああ、離れにゃいよおおおお!」

 俺は川を見ると流されているケトがいた。

「花流しじゃなくて猫又流しじゃないか!」

 花飾りと一緒に流れていくケト。

 俺は急いで川に戻っていく。

「はぁー、相変わらずだな」

 矢吹はどこからか盾を取り出すと、川に向かって投げつけた。

「それにつかまれ!」

「爪が放れないにゃー」

 どうやら爪を立てて花飾りを持っていたため、引っかかっているようだ。

「えっ、おおおおい!」

 一緒になって盾も流れていくため、矢吹も焦って追いかけていく。

 何か考えがあるのかと思ったが、矢吹は何も考えていなかったようだ。

「にゃあああああ!」
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