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第二章 地下の畑はダンジョンです

67.ホテルマン、下品と言われる

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「結局予約はありませんでしたね」

「そろそろ廃業になるんじゃないか?」

 お盆行事である花流しをホームページ上に記載して、挑んだ夏のはじめだったが、いつのまにかお盆シーズンに入ってしまった。

 サラのことで大変だった日も過去のように感じるほど、何事もなく時が過ぎて行く。

 予約が増えることもなく、俺達は本当に生活できるのか不安に思ってきた。

「まぁ、最低限の生活は家の中で済むからね」

「地下の野菜にダンジョンのジビエがあればどうにか生きていけるもんな」

 あれから矢吹は定期的に俺とダンジョンに行っている。

 なぜ、俺が一緒に行っているのかって?

 それはもちろん囮役が必要になるからだ。

 ダンジョンの魔物は生存本能なのか、すぐに矢吹に対しても危ないやつという認識をするようになり、見かけたら逃げて行くようになった。

 次第に魔物も学習すれば、出会うのも難しくなる。

 結果、肉を手に入れるためには俺もダンジョンに行かないとダメになってしまった。

――ピンポーン!

「うっしーだ!」

 インターホンがなると、シル達は急いで玄関に向かう。

 今日は予定があって我が家にやってくると、事前に連絡があった。

「うっしー! 今日はプリン?」
「ぷりんだいすき!」
「サラは牛乳プリンがいい!」
「オイラはうっしーも好きだよ?」
「シルもうっしーすきだよ?」

「褒めてもプリンにアイスクリームをトッピングするサービスしかしないぞ?」

「うっしいいいいいー!」

 妖怪達は相変わらず牛島さんに懐いている。

 ケトもあれから気にせずペラペラと話すようになった。

 その姿に牛島さんは相変わらず驚いてはいたが、少しずつ妖怪だと受け入れているようだ。

 それに牛島さんのところにいる牛と鶏も昔からどこか変わっていると言っていた。

 ひょっとして牛と鶏も妖怪だったり……さすがにそれはないよな。

「兄ちゃん達も元気にしていたか?」

「予約がない民泊予約欄と睨み合いをしてましたね」

「ひとまず甘いものも食べて休憩したらどうだ」

 テーブルに次々と置かれるデザートに大人組も休憩することにした。

「なんやかんやで俺も餌付けされているよな」

「まぁ、牛島さんのご飯ってうまいもんね」

「お店で食べてもどこか違いますもんね」

 この間もみんなで久しぶりにショッピングモールのフードコートに行ったが、結局牛島さんの料理が恋しくなってきた。

 外食も美味しいが、やっぱり家庭料理が一番美味しいんだよな。

「牛島さん、あの袋はなんですか?」

「あー、今日はこれを作るために遊びに来たんだ」

 牛島さんは袋から色々な花や和紙、何かの木で作った舟を取り出した。

「花流しで使う飾りを作ろうと思って、材料を揃えてきたぞ」

 花流しは様々な花や木で飾りを作り、川から流す行事だ。

 その飾りは環境に配慮したものであれば問題ないらしいが、よくあるのは竹を薄く削った竹皮舟に花を載せて作るらしい。

「花流しは明後日でしたっけ?」

「お盆の最終日で送り盆の夕方から夜に行う予定になっているな」

 お盆の初日に飾りを作り、最終日まで飾ってから夕方から夜にかけて川に流すらしい。

「なら急いで作らないとダメですね」

 デザートを食べ終えた俺達は早速花の飾り物を作っていくことにした。


「これで完成だな!」

 色とりどりの花を和紙で一つにまとめて、キレイに整えながら竹皮舟に載せたら完成だ。

 飾り自体もそこまで大きくはないため、数十分もあれば完成した。

 尚更、民泊のイベント向きだったんだと実感したが、この時期に民泊を利用する人が少ないのは仕方ない。

 俺と矢吹には実家がないから、そこまで気づかなかったが世間は実家に帰省しているもんな。

「うっしーはねがいごとする?」

「願いごとか?」

「うん!」

「これはそんな行事じゃないけどな……」

「えー、シルはおねがいごとしたい!」
「サラも!」
「ならオイラもうっしーのご飯が食べたいってお願いする!」

「ケトは直接言った方がはやくないか?」

 ケトにアドバイスをしたら、牛島さんではなく、なぜか俺をジーッと見つめていた。

 何か間違えたことを言ったのだろうか。

 お願いごとをするよりか、直接本人に言ったほうが作ってくれそうだけどな。

「それもそうだね」

 いつものように文句を言われるかと思ったら、今日はやけに素直だった。

「じゃあ、せっかくだし和紙に書いて入れてみようか」

 俺達は和紙に願いごとを書いて、一緒に載せて流すことにした。

「シルはみんなでたのしくいられるようにおねがいするの!」
「なら私はみんなが元気に過ごせるように書いておくね」

 シルとサラは本当に家族思いの子だな。

「ケトは何を書いたんだ?」

 チラッとケトの書いたものを見たら、大きく〝うっしー飯〟と書いてある。

 牛島さんはペンを器用に持てることに驚いていたが、俺はケトが文字を書けることに驚いた。

「見たなー。呪うよ?」

 やっぱり牛島さんのご飯が食べたいことには変わらないようだ。

 俺は何を書こうか迷ったが、やっぱりこれしかないだろう。

「民泊が繁盛しますように!」

 全然お客さんが来ない民泊の店主の願いごとって言ったらこれだろう。

「ふくは下品だね」

 ジーッと見つめていたケトに下品と言われてしまった。

 俺が書きたいことはみんなが書いてくれたからな。

「うっしーはなにをかいたの?」

 シルの問いに牛島さんは何も言わず、優しく笑っていた。

 きっと俺が下品と言われたから、人には言えない何かを書いたのだろう。

 牛島さんも人間だから仕方ない。

「あっ、ついでにあのお願いごとも書いておくか」

 俺はもう一枚和紙を手に取り、お願いごとを追加で書いていく。

――紗羅ちゃんが見つかりますように。

 最近お世話になっている喫茶店の店主達の思いも一緒に載せることにした。
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