上 下
66 / 75
第二章 地下の畑はダンジョンです

66.ホテルマン、取り憑かれている?

しおりを挟む
「おなかへったー!」
「うっしー! ご飯!」

 シル達も目を覚まし一階に降りてきた。

 お腹が減っているのか、早速牛島さんに催促している。

 ただ、ケトが普通に話している姿を見て、牛島さんは驚いていた。

 二日続けて話しているところを見たら、妖怪だと認識しただろう。

 一方、妖怪だとは言っていないのに、ケトが話している姿を見て、紗奈ちゃんは大喜びだった。

 その辺は子どもだと柔軟に受け止められるのだろう。

 まるで昨日の嫌なことを忘れたのか、ケトにべったりとしていた。

「こんなに大勢集まるのって初めてですよね」

「民泊を始めるって聞いた時はこれを想定していたはずなんだけどな……」

 なぜか牛島さんが遠くを見つめていた。

 俺だってこんなに民泊に人が集まらないとは思わなかったからな。

 それだけホテルで働いていた時は、恵まれていたんだと実感する。

 ゆっくりと寝ている喫茶店の店主達を含めると、大人が5人と子ども1人、妖怪が3人と1匹だとだいぶ賑やかだろう。

「じゃあ、食べるぞ」

 テーブルには簡単なサラダやオムレツ、ジビエがベーコンのように焼かれていた。

 知らぬ間にジビエ料理をアレンジしていたのかと驚きながら、さすがの牛島さんの料理に俺達は無我夢中で食べていた。

「そういえば、昨日の約束は?」

 矢吹は紗奈ちゃんに悟るように声をかけた。

 紗奈ちゃんはサラと目を合わせると、頭をゆっくりと下げた。

「昨日はひどいことを言ってごめんなさい」

 サラは散々紗奈ちゃんに文句を言われたが、特に何か言い返すこともなく怒っている様子もなかった。

 きっとサラ自身も何を言われているのか、理解できていなかったのもあるだろう。

「大丈夫だよ。この体の子に言ってるんだもんね」

 サラの言葉に俺達の手は止まる。

――この体の子に言ってるんだもんね……?

 それってまるでサラが幽霊のように紗羅ちゃんに取り憑いているような言い方だ。

「サラ、それはどういうことだ?」

「ん? 私にもわからないよ。だって気づいたらこの体になって川の中にいたんだもん」

 本当に紗羅ちゃんの体にサラが取り憑いているのだろうか。

 それに気づいたら川の中にいたということは、俺が見つけるまではずっと川の中にいたことになる。

 妖怪がどういう仕組みでこの世に存在しているのかはわからない。

 ひょっとしたらシルやエルも、誰か行方不明になった人の体を借りているのだろうか。

 そんな妖怪達を引き寄せる俺は一体なんだろうか。

 妖怪マスターにでもなるのだろうか。

 その後もサラに聞いてみたが、紗羅ちゃんのことは何も知らなかった。

 ただ、気づいたらどこにいて、ずっと何をしていたのかがわかっただけだ。

「とりあえず、食べるとするか」

 あまりにも重い空気に、俺達は急いで朝食を食べることにした。

 しばらくすると喫茶店の夫婦も目を覚ましたのか、一階に降りてきた。

 奥さんも昨日のことをすぐに謝り、お店の準備があるからと紗奈ちゃんを連れて自宅に帰った。

 突然の訪問にバタバタしたが、サラのことを知る良いきっかけにはなっただろう。

「あっ、牛島さんの作ったジビエ料理って余っていないか?」

「イノシシのカツなら冷凍庫に保存してあるはずだぞ」

 牛島さんがいつでも食べられるようにと、冷凍庫に揚げるだけの状態で保存してくれたらしい。
 
 昨日みたいに急にお客さんが来る可能性もあるからな。

 我が家の民泊は急に人が来ると、ちゃんとした料理の準備ができずおもてなしができない。

 牛島さんが事前に準備をすることで、成り立っている民泊だからな。

 矢吹はどうしてもジビエ料理が必要になると頼み込んできたので、俺がイノシシのカツを揚げることにした。

「んー、これぐらいでいいのか?」

 料理初心者の俺には揚げ物はまだ早かった。

 出来上がったのは黒くなったイノシシのカツだった。

「できたけど大丈夫?」

「あー、俺が食うわけじゃないから大丈夫だ」

 矢吹は焦げたイノシシのカツを玄関に持って行くと、お地蔵さんにお供物として手を合わせていた。

 新しい料理を食べさせたいと思ったのだろう。

 しばらく矢吹は玄関で楽しそうに独り言を話していたが、あいつも何かに取り憑かれているのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。 その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。 その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。 さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。 様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。 ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。 そして、旅立ちの日。 母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。 まだ六歳という幼さで。 ※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。  上記サイト以外では連載しておりません。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

処理中です...