上 下
57 / 75
第二章 地下の畑はダンジョンです

57.ホテルマン、存在しない住所

しおりを挟む
「はい、こちら国家ダンジョン管理局です」

「あのー、家にダンジョンができた場合どうしたらいいですか?」

「……はぁん?」

 次の日、俺は矢吹に言われた通りに都道府県の役所に連絡することにした。

 ダンジョンができた場合、基本的には国に報告する義務がある。

 あとは国が管理することになるが、それまでの手順を役所が教えてくれるらしい。

「えーっと、家から魔物が現れまして……」

「ご自宅は世界遺産や国の重要文化財または、特定天然記念物など何かに関係していますか?」

「いや、特に何も――」

「はぁー、イタズラ電話ですか?」

「えっ?」

「ダンジョンは先ほどお話しした場所でできると言われています。そもそも可能性として、屋外にできるのが一般的なのは知ってますか?」

 どうやら家にダンジョンができたことはなく、度々こういう迷惑行為が絶えないらしい。

 過去に自宅にダンジョンができて最強の探索者になる漫画やアニメが流行ったことで、そういう行為も増えたとか。

 子どもが探索者に憧れてするイタズラで、よくあると教えてもらった。

「とりあえず住所を教えてもらってもよろしいですか? 自宅周辺にダンジョンになりそうなものがないか調べてみますね」

 俺が住所を伝えると、再び電話越しにため息を吐いている声が聞こえてきた。

「やはりイタズラ電話ですね。その住所は人が住めるような地域になっていませんよ」

「人が住めないって……?」

 一体俺はどこに住んでいるというのだろうか。

 ちゃんと住所も存在しているし、矢吹だって家に来ている。

 他にもカメラマンや支配人も来たぐらいだから、住所としては間違っていないはずだ。

 民泊に来た人達はどこに行ったのかという話になってしまう。

 それに少し離れてはいるものの、牛島さんがやっている農場もある場所だぞ。

「私達も暇ではないので失礼します」

 それだけ言って電話を切られてしまった。

 ダンジョンができたと報告をしたかったはずなのに、人が住めるような地域ではないということが耳に残って不安になってきた。

「ふく、おわったよー!」
「ガラスの交換は業者に……どうしたんだ?」

 電話をしていた俺を呼びに来たのか、シルと矢吹が声をかけてきた。

 矢吹は家の中に入るために窓ガラスを割って侵入している。

 その処理と窓ガラスがさらに割れないようにテープで固定して、ダンボールで塞いでもらっていた。

「いや……電話をしたらイタズラ電話と間違えられた」

「やっぱりな」

 矢吹も家の中にダンジョンができた話を聞いたことがないらしく、何となくその予想はしていたらしい。

 それに今まで知られている魔物やダンジョンと異なっているため、本当にダンジョンなのか怪しんでいた。

「それにここの住所って人が住めるような地域になっていないって……」

「……」

 俺の言葉に矢吹は静かになる。

「ふく? やぶきん?」

 そんな様子にシルは居た堪れなくなったのか、俺達の顔を覗き込んでいる。

 お腹が減ったのかな?

「とりあえずダンジョンに関しては、しばらく俺が様子を見てから報告する」

「ああ、助かるよ」

 ひとまず地下の畑には俺一人では行かない。

 行く時は矢吹かシル達に手伝ってもらうのが条件となった。

 また、一人でダンジョンの中に引き込まれて迷子になると危ないからな。

 戦う力がない囮役の俺だけだと確実に即死するだろう。

 よほど運が良かったってことだな。
 
 しばらくダンジョンは矢吹担当と決まった。

 あいつなら方向音痴の俺達と違って適任だろう。

 美味しそうなジビエ達が出てきたら、捕獲だけしてもらうように頼んでおいた。


 食事を食べ終えた俺は再びあるところに電話をかけることにした。

「はい、こちら真心便利屋です」

「あのー、窓ガラスの修理を頼みたいんですが……」

「ご住所はどちらになりますか?」

「えーっと……」

 さっきのことが頭に残っていたが、今回は大丈夫だろう。

 対応してくれているオペレーターは住所を検索しているのか、パソコンのキーボードを打つ音が聞こえてくる。

「すみません、もう一度住所をお聞きしてもよろしいですか?」

 うまく聞き取れなかったのだろう。

 もう一度住所を伝えてしばらくその場で待つ。

「あのー、住んでいるところを先ほどから地図上で検索をしていますが、どこにも一致しないため住所の間違え等はありませんでしょうか?」

 その言葉に俺は背筋がゾクゾクとする。

 住所が存在しない地図上から消えた地域。

 そんなところが存在するのだろうか。

「もしもし……」

「ああ、すみません」

「もし住所がわかり辛いところにお住まいであれば、窓枠を外してお持ちいただければ修理は可能ですので――」

「わかりました。また、どうするか決めてご連絡しますね」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

 やっぱりこの家には何かあるのだろうか。

 ひとまず窓枠を外して、持っていけば直せることがわかって安心した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】ダンジョンに閉じ込められたら社畜と可愛い幼子ゴブリンの敵はダンジョン探索者だった

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
 社畜の門松透汰は今日も夜中まで仕事をしていた。  突然出てきた猫を避けるためにハンドルを切ると、田んぼに落ちてスクーターが壊れてしまう。  真っ暗の中、家に向かって帰っていると突然草原の真ん中に立っていた。  謎の言葉に謎の半透明な板。  わけもわからず睡眠不足が原因だと思った透汰はその場で仮眠をしていると謎の幼子に起こされた。 「とーたん!」  どうやら俺のことを父親と勘違いしているらしい。  俺と幼子は元のところに帰るために、共に生活を始めることにした。  あれ……ゴブリンってこんなに可愛かったけ?  社畜とゴブリンのダンジョンスローライフ。  ※カクヨムやなろうにも投稿しています

ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
人類がリアルから撤退して40年。 リアルを生きてきた第一世代は定年を迎えてVR世代との共存の道を歩んでいた。 笹井裕次郎(62)も、退職を皮切りに末娘の世話になりながら暮らすお爺ちゃん。 そんな裕次郎が、腐れ縁の寺井欽治(64)と共に向かったパターゴルフ場で、奇妙な縦穴──ダンジョンを発見する。 ダンジョンクリアと同時に世界に響き渡る天からの声。 そこで世界はダンジョンに適応するための肉体を与えられたことを知るのだった。 今までVR世界にこもっていた第二世代以降の若者達は、リアルに資源開拓に、新たに舵を取るのであった。 そんな若者の見えないところで暗躍する第一世代の姿があった。 【破壊? 開拓? 未知との遭遇。従えるは神獣、そして得物は鈍色に輝くゴルフクラブ!? お騒がせお爺ちゃん笹井裕次郎の冒険譚第二部、開幕!】

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!

処理中です...