上 下
51 / 75
第二章 地下の畑はダンジョンです

51.クマ男、移住する ※矢吹視点

しおりを挟む
「あいつから連絡来ないけど何してるんだ?」

 俺は何度も親友の幸治に電話をしているが、留守番電話になってしまう。

 終いにはメールを送っても無視されている。

 あいつから一緒に住まないかと誘ってきたのに、完全に振られた感覚だ。

 少し心配ではあるが、電車に乗ってあいつが住んでいる町に向かうことにした。

 まぁ、探索者はどこかに家があるわけでもなく、ホテルとかに滞在していることが多いため、荷物もそこまで多くない。

 移住する準備をするって言っても、やり残したことをしたぐらいだからな。

 あれから俺も探索者としてランクを上げて、今はBランクになった。

 実力的にもAランクに上がれるだろうと言われている。

 ただ、一気にランクが上がると目をつけられるからな。

 最近も誰かに見張られている気がして、背筋がゾクゾクとしていた。

 特に男性と話していた時にそれを実感する。

 電車を乗り継ぎ、最寄り駅から出ると、相変わらずの人の少なさに驚くばかりだ。

 街中でもそこまで人は多くないからな。

「すみません! 娘を探しています!」

「見覚えがあったら、ここに連絡をしてください」

 駅には俺よりも少し年上ぐらいの夫婦がチラシを配っていた。

 風で飛んできたチラシを見ると、そこには娘を探していますと書いてあった。

 ひょっとしたらこの夫婦の娘もダンジョンに取り残されたのだろうか。

 過去にダンジョンで男性が取り残されて20年経ったという噂を探索者ギルドで聞いたことがある。

 見た目は全く変わらず、ダンジョンの中で何があったのかと話題になった。

 何のためにできたのか、何が起きているのか学者達の間でも研究することになったぐらいだ。

 結局、ダンジョンは謎に包まれたままわからないという結果で終わったけどな。

「お兄さんは何しにここに来たの?」

 そんな俺に女の子が声をかけてきた。

「ここに移住することが決まったからね」

 その言葉を聞いて嬉しそうな顔をしていた。

「この町は何もないけど、山の方に喫茶店があるから来てくださいね」

 女の子はチラシを俺に渡してきた。

 ただ、さっきのチラシとは異なり、喫茶店のチラシのようだ。

 どうやらチラシを配っている夫婦は喫茶店を営んでいるらしい。

 彼女はそこの娘というわけだ。

「じゃあ、この探している子はお姉ちゃん?」

「うん……」

 寂しそうな顔をさせたことに罪悪感を感じる。

 こういう時に幸治なら上手くやれるんだろうけどな。

 俺は不器用だから無理そうだ。

「あっ、よかったらこれ引越し祝いだからあげる」

 俺は鞄に入っていたお土産を取り出して彼女に渡す。

 子どもはお菓子が好きなはずだからちょうど良かった。

「えー、納豆味のチョコレートってなに?」

 あれ?

 子どもはお菓子が好きなはずだよな?

 なんか思ったような反応が返ってこなかったぞ。

「これって人気じゃないのか?」

「んー、田舎だからわかんないや」

 確かに田舎なら都会の変わった食べ物は中々見かけないからな。

 きっとお土産になるぐらいだから、美味しいのだろう。

「大きいお兄さんありがとね!」

 彼女はお土産を手に持って、夫婦の元へ走っていく。

 やっぱり子どもは無邪気な方が可愛いからな。

 彼女の両親も俺に気づいたのか頭を下げていた。

 そんな両親が探している娘さんはきっと大事にされていたのだろう。

 俺は2枚チラシをポケットに入れて、幸治の家に向かっていく。

 チラシには緑の服を着たショートカットの少女を探していますと書かれていた。


 俺はタクシーを呼び止めると早速住所を伝える。

「この住所にお願いします」

 スマホに書かれた住所をタクシーの運転手に見せる。

「ここって誰か住んでいますか?」

「えっ……?」

 まさかタクシーの運転手が幸治の住んでいる住所を知らなかったとは……。

 ナビで検索をしても出てこないため、近くにある農場を目的に設定した。

 以前もタクシーで幸治の家に向かったが、その時に運転していた長い髭が生えたおじさんは普通に連れてってくれた。

 あまりこの辺の運転に慣れていないのだろうか。

 あの時は連絡してタクシーに来てもらったから、何か違いでもありそうだ。

「いやー、この辺ってあまりいい噂を聞かないから、少し警戒しているんですよね。自殺スポットみたいな言われ方をしていますし……」

 確かにさっきのチラシの少女も行方不明になっているし、木がたくさん生えている山の中だから、変な噂があってもおかしくないのだろう。

 タクシーの運転手も自殺志願者を運ぶのは後味が悪いからな。

「ああ、俺は探索者なので中々死なないので大丈夫だ」

「探索者でしたか!? だから体が大きいんですね」

 タクシーの運転手は探索者を見慣れているのだろう。

 一般人なら探索者と言えば、野蛮な人という扱いにされることが多いからな。

「ここに鳥居もあるから不気味なんですよね」

 前に駅へ向かう途中で鳥居を見たな。

 今回も赤い鳥居が生い茂っている木にひっそりとしていた。

 木に隠れているから、突然出てくるのもあり不気味に感じるとタクシー運転手は言っていた。

「じゃあ、この辺でいいですか?」

「ありがとうございます」

 タクシー運転手もあまり山奥には行けないということで、俺は農場の前に降ろしてもらった。

 ここから幸治の家までも、そんなには遠くないだろう。

 運動だと思い、幸治の家まで歩いて向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
人類がリアルから撤退して40年。 リアルを生きてきた第一世代は定年を迎えてVR世代との共存の道を歩んでいた。 笹井裕次郎(62)も、退職を皮切りに末娘の世話になりながら暮らすお爺ちゃん。 そんな裕次郎が、腐れ縁の寺井欽治(64)と共に向かったパターゴルフ場で、奇妙な縦穴──ダンジョンを発見する。 ダンジョンクリアと同時に世界に響き渡る天からの声。 そこで世界はダンジョンに適応するための肉体を与えられたことを知るのだった。 今までVR世界にこもっていた第二世代以降の若者達は、リアルに資源開拓に、新たに舵を取るのであった。 そんな若者の見えないところで暗躍する第一世代の姿があった。 【破壊? 開拓? 未知との遭遇。従えるは神獣、そして得物は鈍色に輝くゴルフクラブ!? お騒がせお爺ちゃん笹井裕次郎の冒険譚第二部、開幕!】

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

鉱石令嬢~没落した悪役令嬢が炭鉱で一山当てるまでのお話~

甘味亭太丸
ファンタジー
石マニアをこじらせて鉱業系の会社に勤めていたアラサー研究員の末野いすずはふと気が付くと、暇つぶしでやっていたアプリ乙女ゲームの悪役令嬢マヘリアになっていた。しかも目覚めたタイミングは婚約解消。最悪なタイミングでの目覚め、もはや御家の没落は回避できない。このままでは破滅まっしぐら。何とか逃げ出したいすずがたどり着いたのは最底辺の墓場と揶揄される炭鉱。 彼女は前世の知識を元に、何より生き抜くために鉱山を掘り進め、鉄を作るのである。 これは生き残る為に山を掘る悪役令嬢の物語。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

処理中です...